妄想小説Walk2 エピソード2

山田さんが入社して1か月が経った。

山田さんは意外と真面目に仕事を覚えようと頑張っている。

 

何か。

意外と言うか。

複雑と言うか。

 

そこにあるのは、私が一度心を奪われた山田さんの姿であり。

そんな姿を見れば見るほど、私の心は混乱していくのである。

 

 

 

「俺、山田の笑顔まだ一回も見てない」

 

ある日。

うちで有岡くんと晩御飯を食べている時にそんな話になった。

山田さんの教育係である有岡くんはきっと、誰よりも山田さんと一緒にいるはずなのに。

 

「有岡くんが見てないならきっと誰も見てないよね」

「まゆみも見てないの?」

「見てない」

「そっかぁ・・・」

 

有岡くんはそう言うと、ご飯を食べている手を止めて何やら考えている。

そして。

 

「俺、山田と飲みに行ってみようかな・・・」

 

と、つぶやいた。

 

「飲みに?」

「うん。山田は悪いやつじゃないと思うんだよ」

「うん」

「仕事も一生懸命覚えようとしてるし」

「うん」

「俺、もっと山田の事知りたい」

「そっか」

「山田明日空いてるかなぁ?LINEしてみよ」

 

有岡くんはそう言うとスマホをいじり始めた。

 

”山田の事もっと知りたい”なんて。

有岡くんっぽいというか。

何だかすごく可愛い発言のように思える。

 

こんなに山田さんに寄り添おうとしているのは、うちの会社では今のところ有岡くんだけじゃないだろうか。

何というか、有岡くんって、やっぱりすごい。

 

「お。OKだって」

 

私がそんなことを考えている間に有岡くんと山田さんのやりとりは終わっていたようだ。

 

「え!?OK!?」

 

山田さんが有岡くんとの飲みをOKするとは全く思ってなかった私はとても驚いた。

 

「うん。意外だった?」

 

私の反応を見て何かを察した有岡くんがそう言う。

 

「うん!すごく意外だった!」

「そっか」

「うん。有岡くんだからOKなのかな?」

「そうなの?」

「いや、わかんないけど笑」

 

でも、やっぱり有岡くんだからってのはある気がする。

 

「じゃあ明日、山田と飲みに行ってくるね」

「うん。行ってらっしゃい」

 

改めてそういう有岡くんの言葉に私は微笑ましい気持ちでそううなずいた。

 

有岡くんは山田さんとの飲みを楽しみにしてるんだなって思うとほっこりする。

有岡くんの優しさで、山田さんの笑顔が戻ってくるといいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

仕事を終えた有岡くんと山田さんは飲みに出掛けて行った。

仕事が終わらなかった私はそんな2人の姿を見送ると、自分の机に向かう。

 

今日は間違いなく残業だ。

何時に終わるかわかんないけど、少しでも早く終わらせて家に帰ろう。

 

私はそう決意し、書類の山に向き合った。

 

 

 

 

 

 

数時間後。

ようやく終わる目処がついてきた。

思ったより時間はかかったけど、ようやく帰れそうだ。

 

あーよかった。

 

トゥルルルル

トゥルルルル

 

私がホッとした瞬間。

私のスマホに電話がかかってきた。

 

・・・有岡くんだ。

 

「もしもし?」

「あっまゆみ?」

 

電話に出た私の耳に届いたのは、有岡くんのとても浮かれた声だった。

 

「うん。どうしたの?」

「今どこにいる?」

「会社だよ」

「え!?まだ会社にいるの!?」

 

私の返答にものすごく驚いた様子の有岡くんはそういうと、言葉を続ける。

 

「仕事終わらないの?」

「ううん、もう終わるよ」

「終わる?」

「うん」

 

もうほとんど仕事は終わっている。

後は後片付けぐらいだ。

 

「じゃあ迎えに来て」

「えっ」

 

そっか。電車で帰るのが面倒くさくなっちゃったのね笑

わかった。迎えに行くよ笑

 

私がそう言おうと思った瞬間。

 

「まゆみに会いたくなっちゃった」

 

有岡くんにそんな事を言われて赤面した。

 

かっかわいい・・・

 

「すぐ行きます」

 

我ながらチョロイ女だとは思うが、嬉しくて浮足立っていた。

「会いたい」って言われるのはやっぱり、とっても嬉しい。

 

 

電話を切った後、私は急いで机の上を片付けて小走りで会社を後にし、車に飛び乗った。

ニヤニヤしながら車を走らせる私はさぞかし気持ちの悪い顔をしていたに違いない。

 

 

 

 

 

しばらくして。

そんな気持ちの悪い私が待ち合わせ場所に着くと、有岡くんはニコニコしながら車に乗り込んできた。

 

「ありがとう!」

 

助手席に座る有岡くんはそう言ってまだニコニコしている。

 

「楽しかった?」

「うん!楽しかった!」

 

ずっと笑顔の有岡くんを見ていると、どれだけ楽しかったのかは想像がつくけど、ニコニコしている有岡くんはやっぱり最強にかわいい。

 

「よかったね」

「うん!よかった!」

 

子供みたいな有岡くんの仕草に、私まで楽しくなってくる。

私はニコニコしながら車を発進させた。

 

 

「山田、意外といいやつだよ」

 

有岡くんが言う。

 

「そうなの?」

「いっぱいいろんな話した」

「そっか」

 

有岡くんと山田さんが何を話したのかはわからないけど、どうやら有岡くんにとって山田さんの印象はとてもよかったようだ。

その証拠に、こんなことを言いだした。

 

「俺、架け橋になろうと思う」

「架け橋?」

「うん。山田と、髙木さん八乙女さんとの間の架け橋。まだ3人の間には溝があるでしょ?」

「あるね」

 

髙木くんも八乙女くんも、山田さんに対して一定の距離を保っている感じがする。

私もそうだけど、この距離を詰めていいのかどうか、まだ迷いがあるんだと思う。

 

髙木くん、八乙女くんがどう思ってるかはわからないけど、私は、まだ山田さんに近づくのが怖い。

 

 

「仲良くなれると思うんだ」

「そうなんだ・・・」

 

有岡くんはどうやら山田さんの事を信用したみたいだ。

 

私の気持ちは複雑だった。

有岡くんが信用したなら、私も山田さんの事を信用したい。

でも。

山田さんの事を信じきれない自分がいる。

そう簡単にはいかないみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「家の前じゃなくて駐車場にとめてね」

 

有岡くんの家に近づいた頃。

急に有岡くんがそんなことを言いだした。

 

「ん?」

「車。駐車場にとめて」

「駐車場に?」

「うん。寄ってくでしょ?」

「えっ」

 

家の前で有岡くんを降ろして任務完了だと思っていた私は一瞬戸惑う。

しかし。

 

「寄っていきなよ」

 

そう言われると断る理由はない。

 

「・・・はい」

 

私は車を駐車場にとめて、有岡くんと一緒に家の中に入る。

その途端。

後ろから有岡くんに抱きしめられた。

 

そして。

 

「今日泊まってくだろ?」

 

耳元でイケメンボイスでそうささやかれる。

さっきとはうってかわった有岡くんの姿に心臓がバクバクと波打つ。

けれど。

 

「・・・はい」

 

私は、少し強引な有岡くんの言葉にうつむき加減で頷いた。

 

 

 

 

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