妄想小説Walk2 エピソード1-3

「おはよう」

 

出社したら山田さんがいた。

 

山田さんの席は私の隣に決まったらしい。

部長も悪ふざけが過ぎる。

 

「おはよう」

 

そんな事を思いながら山田さんに挨拶を返し、私は自分の席に座った。

 

 

 

まだ他に誰も出社していない社内。

昨日の話を聞いてみるには最適な気がして、私は山田さんに話しかける。

 

「昨日、圭人くんと話したんだ」

「圭人と?」

 

山田さんは驚いた様子でこちらを見る。

 

「うん。圭人くんがどうしても私に話しておきたいって言ってくれて」

「あいつ・・・」

「前の会社の社長さんの事とか、聞いた。大変だったね」

「!!」

 

私の言葉に山田さんは先ほどよりも更に驚いた顔で私を見た後、目を伏せて

 

「いや、俺が悪いんだよ」

 

と呟いた。

 

 

山田さんの横顔は相変わらず美しい。

そんな憂いを帯びた顔、ずるすぎる。

 

 

「・・・圭人にもさ、世話になったんだよね。だからあいつのお願いは断れなくて」

 

山田さんは目を伏せたままでそう言うと、ふいに私の方を見て

 

「ごめんね。まゆみさんは気分悪いよね。本当、ごめん」

 

と言う。

 

「気分悪いなんて、そんな事はないよ」

 

ただ、戸惑ってしまっているだけ。

 

「でも・・・正直信じていいのかどうかはわからなくて」

 

は。しまった。

うっかり本音を漏らしてしまった。

 

「ごめん・・・」

 

私は慌てて謝った。

でも、それ以上何て言っていいかわからなくて、黙り込んでしまう。

 

 

山田さんはそんな私を見て

 

「信じなくていいよ。俺みたいなやつの事なんて」

 

と、優しく、しかし寂しげにそう言った。

 

 

・・・ずるい。

そんな風に言われたら信じたくなってしまう。

あの、優しかった山田さんが本物だって、信じたい。

あの、優しかった山田さんは嘘じゃなかったって、信じたい。

 

 

「俺、まゆみさんに甘えてたのかもしれないな」

「え・・・」

「まゆみさん優しいから許してくれるって、心のどこかで思っちゃってたのかも」

「・・・」

 

私は、なんて答えていいのかわからなかった。

 

「ごめん。困らせちゃってるね」

「えっ・・・」

「俺の事なんて、信じなくていいし、許さなくてもいいから」

「・・・」

 

 

私の心の中で、何かが引っかかった。

信じるとか、許すとか、そう言う事は問題じゃない。

ひとつだけ。

どうしても伝えたい。

 

 

「ひとつだけ、お願いがある」

「・・・何?」

 

私の言葉に山田さんはそう言うと、まっすぐに私の目を見つめる。

私はそんな山田さんの目の奥に伝えるつもりで口を開く。

 

「二度と”俺の事なんて”って言わないで」

「!?」

 

 

私は昔、山田さんが言ってくれたことを思い出していた。

私が自分に自信がなくて、つい「私なんて」って言ってしまってた時。

山田さんはそれを二度と言うな、と言ってくれた。

あの頃の私はその言葉に救われた。

 

もしかしたら、今の山田さんを、私は救えるのかもしれない

 

私はそんなおこがましい事を思ってしまっていた。

 

「まゆみさん・・・・俺・・・」

「おはよーございまーす!」

 

山田さんが私に何か伝えようと口を開いた時。

そんな元気いっぱいの声が聞こえた。

有岡くんだ。

 

「・・・あれ。山田の席、まゆみさんの隣なんだ」

 

私の隣の席に山田さんが座っている姿を見て、有岡くんはそう言う。

一瞬。目が泳いでいた。

 

「うん、何かそうみたい。」

「へーそっかー」

 

私の言葉に納得したのかしないのかよくわからないような返事をして、有岡くんは自分の席に向かう。

 

「・・・」

 

私も何だか複雑な思いがしたけれど、切り替えて仕事を始めることにした。

 

 

 

 

エピソード2へ

 

エピソード1 裏話へ