妄想小説Walk2 エピソード3

今回の㈱帝王とのプロジェクトは大規模なものになる、と言うので、今回は髙木くんにも参加してもらうことになった。

今日はそのご挨拶をしに、髙木くん、八乙女くん、私の三人で㈱帝王に来ている。

 

 

「雄也!久しぶり!」

 

髙木くんの姿を見つけ、薮さんはそう言う。

 

「久しぶり!これからよろしくね」

 

それに髙木くんが答えると、2人は笑いあった。

 

 

今回、髙木くんがプロジェクトに参加することが決まったので、事前に八乙女くんがお酒の場をセッティングして2人を引き合わせたらしい。

そして、それは大成功だったようだ。

何だか仲が良さそうでとても微笑ましい。

 

 

 

 

そんな時。

 

「あ、きえちゃん、ちょっときて」

 

たまたま通りかかったきえさんを薮さんは呼び止める。

そして。

 

「俺の秘書のきえちゃん」

 

そう、髙木くんに紹介した。

 

「あ、よろしくお願いします」

 

急に紹介されたきえさんは慌てて頭を下げ、そう言った後。

顔を上げて髙木くんを見た途端に

 

「か、カッコイイ・・・・」

 

と言ってそのまま固まってしまった。

 

どうやら、髙木くんはきえさんのタイプの男性のようだ。

 

 

 

「ありがとうございます」

 

髙木くんはそう言って笑顔で頭を下げる。

 

「イ、イケボ・・・」

 

きえさんは口をパクパクさせながらそうつぶやいている。

相当髙木くんが好みらしい。

 

そんな2人のやりとりを見ていた薮さんは、おもむろにきえさんの耳元に口を近づけ

 

「隣を見てごらん。大事な人がここにいるよ」

 

とささやいた。

その途端。

きえさんは白目をむいてその場に倒れこんだ。

 

「え!?」

 

私はびっくりしてきえさんの元へ駆け寄ろうとしたのだが、それよりも早くにきえさんはむっくりと起き上がり、何かを・・・建てる?ような素振りをし始めた。

 

「?????????」

「え・・・何してんの???」

 

呆然としている私の隣で、髙木くんが八乙女くんに聞く。

すると八乙女くんは

 

「何かねー。墓建ててるんだって!」

 

当たり前のようにそう言う。

 

「墓???????」

「そう」

 

 

 

 

・・・意味が分からない。

 

 

 

 

「可愛いだろ?何故か墓建て始めるんだぜ」

 

薮さんがニコニコしながら、何故か誇らしげにそう言う。

 

「可愛いか?」

 

八乙女くんもニコニコしながらそう答える。

 

 

 

 

「・・・」

 

 

 

私と髙木くんは自然と目を合わせていた。

 

きっと、思う事は同じだったに違いない。

 

 

 

「・・・いつもこうなの?」

 

談笑している薮さんと八乙女くんには聞こえないように髙木くんはボソボソと聞いてくる。

 

「・・・うん。割と」

 

私もそれにボソボソと答える。

 

「そうなんだ」

「うん。でも、いい人よ。うん。ちょっと変わってるだけで。いい人。うん。」

 

私は何となくそうフォローしていた。

いい人なのは間違いない。

ちょっとだけ・・・?変わってるけど。

 

 

「俺、ちょっと心配になってきた」

 

目の前の光景を見ながら髙木くんは弱音を吐く。

 

「大丈夫。八乙女くんがいる。」

 

私はそう励ます。

 

「・・・そっか。八乙女がいるから大丈夫か」

「うん」

 

私たちは八乙女くんを心のよりどころにすることにした。

 

 

 

 

 

「きえちゃん。そろそろ墓建てるのやめてお茶淹れてくれる?」

「はっはい」

 

一心不乱に墓を建てていたきえさんは、薮さんの言葉で我に返ったのか、慌てて給湯室へと走って行った。

 

「じゃ、始めようか」

「そうだな」

 

薮さんと八乙女くんはそう言葉を交わすと会議室へと歩き始める。

ようやく打ち合わせが始まるようだ。

 

 

・・・そっか。

私たちには特殊な光景だけど、薮さんと八乙女くんにとっては日常の光景なんだよね、これ。

 

 

私は気を取り直して、髙木くんとともに薮さんと八乙女くんの後を追った。

 

 

 

 

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