妄想小説Walk EP-ZERO 第3話

今日はえりの会社の入社試験の日。

先ほど筆記試験を終え、次は1人1人の面接、ということで。

私は待合室となっている部屋で、椅子に座って自分の順番を待っている。

 

 

今日は平日。

私は有給休暇を取ってここにきた。

入社して以来、初めての有給休暇を他社の入社試験で使う事になるなんて。

 

自分としては思いもよらなかった展開に戸惑いもあるけれど。

人生が変わろうとしている、そんな予感にドキドキが止まらなかった。

 

 

ああ・・・

緊張する・・・

 

 

期待もあるけど、不安の方が大きい。

もし、落ちてしまったら。

私は今の会社に残ることを選択するのだろうか・・・

 

 

・・・ダメだ。

こんな考えじゃ。

結果はどうあれ、今はこの会社に入社する未来のことだけ考えよう。

 

せっかくえりがくれたチャンス。

どうしても活かしたい。

 

私は、私なりの全力でチャンスを掴みにいこう。

よし。

 

 

 

・・・ああ

緊張する・・・

 

・・・ちょっとトイレ!

 

 

私がそう思って勢いよく立ち上がった時。

膝の上に乗せていた鞄を落としてしまい、盛大に中身をぶちまけてしまった。

 

 

しまった。

膝の上に鞄乗せてたこと、すっかり忘れてた。

私は慌てて中身を拾う。

 

 

膝の上に鞄を乗せてた事を忘れるなんて、我ながら情けない。

 

そんな事を思いながら拾っていると、目の前にスッと私の落としたペンケースが現れた。

顔を上げると、お顔の整った若い男性が私のペンケースを差し出してくれている。

 

「あっ!すみません!」

 

少女漫画だと恋が始まりそうな、そんなシチュエーションだったが、私は、イケメンにペンケースを拾わせてしまったことが申し訳なくて、ペコペコ頭を下げてしまう。

そんな時。

 

「あ。ごめん、俺の手、汗でべちょべちょだった!ペンケース濡れてたらごめん!」

「えっ」

 

そんな事を言われて反射的にペンケースを見たけれど。

もちろん濡れてなんていないし、何ならイケメンの汗ならウエルカムだわ、なんて少女漫画の主人公とはかけ離れたような思考の自分に軽く絶望感に襲われる私。

 

こんな私が少女漫画の主人公になれるわけもないし、恋が始まるなんてありえないじゃないか。

何考えてんだ、まったく。

 

そうやって私が何とも無駄に余計な事を考えてる間に

 

「濡れてる?」

 

心配そうに私の手元のペンケースをのぞきこむイケメンくん。

 

「濡れてないです(笑)」

 

”濡れてる?”っていう聞き方が何か可愛くて思わず笑ってしまった私の顔を見て安心したのか、イケメンくんも

 

「よかった(笑)」

 

と言って笑顔を見せる。

笑うとイケメンが加速する。

 

「今から面接なんですけど、緊張しちゃって、手汗が止まらなくて」

 

”お顔がいい”という正義を振りかざしながらイケメンくんはそう言い

 

「あ、一応ペンケース拾う前に手は拭いたんですよ!でも、ほら」

 

と、私に手のひらを見せてくる。

確かに、両手のひらとも汗でべちゃべちゃだ。

 

「すぐ汗かいちゃうんで困ってるんです」

「あ。私、ウェットティッシュ持ってますけど、使いますか?」

「使う!」

 

私は鞄の中からウェットティッシュを取り出し、イケメンくんに手渡した。

 

「ありがとう!」

 

イケメンくんは嬉しそうにウェットティッシュで手を拭き

 

「スッキリした!」

 

と笑顔。

 

「よかった(笑)」

 

イケメンくんの屈託のない笑顔に引っ張られ、私も笑顔。

本当、”お顔がいい”って正義だな。

 

 

「あ。俺そろそろ行かなきゃ」

 

イケメンくんは急に真面目な顔をしてそう言う。

 

「あ、ありがとうございました!」

 

私は慌てて立ち上がり、お礼を言った。

それに、イケメンくんは「こちらこそ」と笑顔を見せ、立ち去ろうとする。

 

「あ、あの!」

 

そんな彼を、私は思わず引き留める。

そして。

 

「きっと、大丈夫です。あなたなら」

 

そう告げた。

少しでも緊張がほぐれればいいな

そう思った。

 

 

するとイケメンくんは

 

「じゃあ、また、入社式で会いましょう」

 

と、何ともイケ散らかした笑顔で言う。

 

「・・・はい!」

 

私はテンションが上がってそう言うと、イケメンくんはさわやかな笑顔を残して去っていった。

 

 

・・・よし。

また会うために頑張る。

 

私の心はやる気に満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つーかーれーたーーーー」

 

面接を終え、家に帰ってすぐ。

私は割と大きめの声でそう言い、ソファにうつ伏せた。

 

家に帰ってきた事でようやく緊張から解放されたのか、私は、何だかものすごく疲れていた。

 

 

「・・・」

 

 

面接、大丈夫だったかな・・・

 

 

急に不安になる。

 

自分なりに全力は出したつもりだけど、結果が出るまではどうしても不安になる。

せっかく頂いたチャンスを無駄にしたくない、そんな思いが強かった。

 

 

 

 

受かってますように・・・!

そして。

イケメンくんと笑顔で再会出来ますように・・・!!

 

 

 

私は、そう祈る。

もはや神頼みしかない。

 

きっと、大丈夫。

 

私はそう自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

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