妄想小説Walk EP-ZERO 第1話
今日、課長は何が飲みたいんだろう・・・
いつも考えて用意しているつもりなのだが、正解を出せた事は一度もない。
・・・今日はあたたかいお茶にしてみよう。
私はそう決めると、男性社員の飲み物を用意し始めた。
会社の給湯室。
毎日ここで私は今日の課長の飲み物を考えるのが日課になっている。
「その日に俺が飲みたいものを察して出せ」と言われているからだ。
入社してまもなく1年になるけれど、私は今だにその日に課長が飲みたいものがわからない。
ふぅ・・・
男性社員全員の飲み物を用意して運ぶ前にため息をつくのも日課になってしまっている。
こんなのはよくない、と思いつつも止められなかった。
「失礼します」
オフィスに戻った私は、いつものようにひとりひとりの席に飲み物を置いていく。
・・・最後が、課長だ。
「失礼します」
「これじゃねーよ」
決して仕事の邪魔はしないようにしてそっと飲み物を置いたつもりだったが、課長は冷ややかにそう言った。
いつもの事ではあるが、背筋が固まってしまう。
「・・・すみません・・・」
置いた飲み物を違うものに取り換えようと思い、私はそう言って手を伸ばす。
すると。
「もういいよ。しょうがねぇからこれで我慢してやる」
いつも通り、そんな言葉が返ってくる。
私がそれに会釈をしてその場から立ち去ろうとすると
「全く。いつになったらまともに上司の飲みものを出せるようになるんだろうな」
と、吐き捨てるような冷酷な声が浴びせられる。
「・・・すみません・・・」
私は、謝ることしか出来ない。
「本当、仕事が出来ない部下を持つと苦労するわ」
そんな課長の言葉に私はもう一度会釈をして、逃げるように自分の席へと戻る。
いつもの一連の流れではあるけれど、1年経っても慣れることはない。
毎日、今日こそは、と思うものの、一度も正解できずにいる自分に、歯がゆさを通り越してむなしさすら感じていた。
本当、いつになったら私は”仕事”が出来るようになるんだろう・・・
私は落ち込みつつも、自分の仕事にとりかかった。
約1年前。
私は企画営業としてこの会社に入社した。
しかし、現状、私がやっている事は事務仕事である。
同期入社の男性社員は、みんな入社直後から企画を立ててバリバリ仕事をしているが、唯一、女性社員の私だけが未だに企画すら見てもらえず、もちろん営業なんてさせてもらえてない。
最初のうちはまだ企画さえ通れば営業させてもらえる、と思っていたけれど。
私の立てた企画を課長は見ようともせず。
すぐにゴミ箱に入れられてしまうので、むなしくなり。
企画を立てる事すらやめてしまった。
課長の飲み物を一度も正解出来ない自分の企画なんて、通る気がしなかった。
・・・私は何をやっているんだろう・・・
そんな疑問は頭の中に常にあるけれど、どうしていいかわからない。
”女性ならではの目線を活かした企画、営業がしたいんです!”
面接でそう熱弁した自分は、いつの間にかどこかへ消えていた。
お昼の休憩時間。
私はいつも会社の近くの公園で、コンビニで買ったお弁当を1人で食べる。
仕事中、唯一、気が抜ける時間だ。
・・・ふぅ・・・
ご飯を食べ終わり、ため息をつく。
ため息なんてつきたくないのに。
よくないな・・・
私はそう思い、気分を変えるためにスマホを見る。
すると、めずらしくLINEが届いていた。
高校の同級生のえりからだ。
”まゆみー久しぶりー!今日ひま?暇なら飲まない?”
えりとは卒業以来会っていない。
突然のお誘いだったが、断る理由なんてない。
”もちろんいいよ!”
私はすぐさまそう返信した。
その後、何度かやりとりをして、待ち合わせ場所を決めると、何だかテンションが上がってきた。
今日はえりと飲みに行くのを楽しみにして、頑張ろう!
えりのおかげで、午後の仕事は楽しんで出来そうだ。
えり、ありがとう♪
私は、ふさいでいた気分を上げてくれたえりに感謝しつつ、残りの休憩時間を過ごしたのだった。