妄想小説Walk EP-ZERO 第2話

仕事も終わり。

昼間に約束したお店に行くと、えりは先にお店にいて、既に飲んでいたようだ。

 

「まゆみ!久しぶり!」

 

そう言ったえりの頬はほんのり赤く。

相変わらず、まとっているオーラがキラキラと輝いていて。

きっと、毎日充実した日々を過ごしてるんだろうなーと、ちょっと嬉しくなった。

 

 

「で、どうなの?」

 

お酒が進んでくると、えりがニヤニヤしながらそんな事を言いだした。

主語も述語もないから、何の話なのかさっぱりわからない(笑)

 

「どうって何が?(笑)」

「彼氏!出来た?」

 

えりはニコニコしながらそう聞いてくるけれど。

そんな簡単に出来れば、誰も苦労しないと思う(笑)

 

「全然(笑)私がモテないの、えりも知ってるでしょ?(笑)」

「モテないんじゃなくて興味ないんでしょ」

「ないわけじゃないけど・・・」

 

私が人の事を好きになるのはおこがましいような気がしてしまう。

 

「あ。またいつものやつ?」

 

私の言葉に、えりは何かを思ったようで、そんな風に聞いてくる。

 

「いつものって?」

「私なんかが人を好きになるのが申し訳なくて、ってやつよ」

「ああ・・・」

 

まさにそれだ。

 

「やっぱりそれか。そんなこと言ってたらいつまでたっても彼氏なんて出来ないんだからね!」

「ぐ・・・」

 

正論過ぎてぐうの音も出ない。

 

「えりは?えりは彼氏とうまくいってる?」

 

えりはモテモテで、常に彼氏がいる。

うまくいってないわけはないのだが、自分の話から話をそらす為には違う話題を持ち出さないといけない、と思った。

 

「彼氏?うん。順調だよ」

 

やっぱり。

 

「さすがだね」

「そう?」

「うん。えりはいつだってキラキラ輝いてて、素敵だよ」

「そうかなぁ」

「うん!」

「・・・ありがと」

 

私の言葉に、えりは照れたようにそう言ってはにかむ。

 

・・・可愛い。

女の私から見てもえりは可愛くて、本当うらやましい。

私も、そういう女の子になりたかった。

 

 

「まゆみ、仕事は?あれからどうなった?」

「えっ」

 

ふいに仕事の事を聞かれ、思わず身構えてしまう。

 

「課長が俺が飲みたい物を察して出せって言う人じゃなかったっけ?」

 

私の反応を見て、私が課長の話をしていたことを忘れてる事を察してくれたのか、えりはそう聞きなおしてくれる。

 

そういえば。

忘れてたけど、えりには昔ちらっと課長の話をしてたんだった。

 

さすがだ。

 

「あ・・・うん」

「さすがにもうそれはなくなったでしょ?」

 

えりに課長の話をしてたのは確か入社して1か月ぐらいの頃だったはず。

だからえりはそう言う聞き方をしてくれたんだと思うんだけど・・・

 

「えっと・・・」

 

実際は未だに続いてて、未だに正解出来ないって、何だか言いづらかった。

 

「えっまさかまだやられてるの?」

「やられてるっていうか・・・」

「何?」

 

えりは私の目をしっかり見て聞いてくる。

自分が仕事が出来ない話をするのはとても恥ずかしいんだけど、こうなってしまったらもうえりから逃げられる気がしない。

 

・・・しょうがない。

話すか・・・。

 

「・・・恥ずかしい話なんだけどさ」

「うん」

「入社以来一度も正解したことなくて」

「え、それわざとじゃなくて?」

「え、わざとなの?」

 

思った事をはっきり言うえりの言葉を聞いて、私の心の奥がちくっとしたような、そんな感覚がした。

 

 

正直。課長はわざと「これじゃない」って言ってるのかなって思うときもあった。

でも、わざとじゃない、と思いたかった。

 

私が頑張れば、いつか認めてもらえるかもしれない

 

そう思い込もうとしていた。

というか。

そう思いたかった。

 

じゃないと、この会社にいられない。

そう思った。

 

 

「もう1年近く言われ続けてない?」

「・・・うん」

「毎日でしょ?」

「・・・うん」

「何て言われるの?」

「これじゃねーよ」

 

私が課長の言い方を真似して言うと、えりは「は?」と言って眉間にしわを寄せる。

 

「しょうがねーからこれで我慢してやる」

「・・・」

 

えりは黙って私の再現聞いてくれている。

 

「いつになったらまともに上司の飲み物を出せるようになるんだろうな」

「・・・」

「本当、仕事が出来ない部下を持つと苦労するわ」

 

毎日言われ続けている言葉だから、一言一句間違えずに再現できる私。

それも何だか切なかった。

 

「バカじゃないの」

 

私の再現を聞いて、えりは吐き捨てるようにそう言って言葉を続ける。

 

「え、企画は?」

「見ないでゴミ箱に捨てられちゃう」

「それも課長?」

「・・・うん」

「わざととしか思えない」

 

 

・・・やっぱり・・・そうなのか・・・

 

気付かなかった・・・

というか。

気付きたくなかった・・・

 

 

「その会社にいても一生お茶くみだわ」

 

そんな私に向けて、えりのダメ押しの一言。

 

 

そんなにはっきり言われてしまったら、私、明日からどういうモチベーションで会社に通えばいいんだろう。

企画営業の仕事は諦めて、ひたすら課長の今日飲みたいものを考えていればいいんだろうか。

 

・・・何だか切なかった。

でも、どうすればいいのか、までは頭が回らない。

 

 

「まゆみは転職とか考えたりしないの?」

「えっ」

「考えないんだ」

「・・・思いもよらなかった」

「えっ」

 

私の言葉にえりはものすごく驚いているようで、目が真ん丸な状態で私を見続けている。

私は逆に、そんなえりの反応に驚きが隠せない。

 

「会社って、一度入社したら定年までそこにいるものじゃないの・・・?」

「そういう人もいるけど、そうじゃない人だっているでしょ?」

「言われてみればそうか・・・」

 

何だか、目からうろこが落ちた気分だ。

 

「転職しなよ」

「転職かぁ・・・」

「その会社にいても未来はないよ」

 

未来は・・・ない・・・

 

えりの言葉が突き刺さる。

 

「まゆみ、企画営業希望だよね?」

「・・・うん」

「うちの会社募集してたかも。人事に聞いてみようか?」

「えっ・・・」

 

えりの申し出は願ってもないことだった。

だからこそ、ちょっと怖かった。

 

「私で大丈夫かな・・・」

「大丈夫。じゃあ聞いたらまた連絡するね」

 

私が口にした不安に、えりは食い気味で「大丈夫」と言ってくれる。

 

・・・何だか少し勇気が出た。

えりのそういうところ、素敵過ぎる。

 

「ありがとう。お願いします・・・!」

 

私はそう言うと深々と頭を下げた。

目の前に広がっていた暗黒に、ひとすじの光が差したような、そんな気がした。

 

私にも・・・何か出来るのかもしれない。

 

私は、突然差した希望の光に戸惑いながらも、心が躍り出したのを感じていた。

 

 

 

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