妄想小説Walk2 エピソード36
「まゆみさん!今日は残業しないの?」
有岡くんがそう聞いてくる。
”あの日”以来、毎日のように、だ。
「うん、残業はしなくてよさそうだよ」
有岡くんはきっと何かを期待してるんだろうな、とは思いつつも、私は毎回そう答える。
そんな私の言葉に、有岡くんは「そっかー」と、少しだけ残念そうな顔をする。
その顔が何だか可愛らしくて、私はつい、残業をしなくていいぐらいに仕事を頑張ってしまうのだ。
”あの日”
知念師匠の指令を遂行するために、有岡くんに残業を手伝ってもらったのだが、それは、思った以上の効果を発揮したようだ。
”あの日”も、最高に素敵な景色を見させて頂いたと思ったけど、この”素敵な景色”はまだまだ終わってはいなかった。
毎日のように、有岡くんの残念そうなお顔が見れるなんて。
最高ですか。
やっぱり、知念師匠はすごい。
これからもついて行きます。
「あー!疲れたあ!!!」
私がそんな事を考えていた時。
髙木くんが外回りから帰ってきて、そう叫んだ。
「お疲れ様です!」
お疲れの髙木くんに、有岡くんが元気いっぱいでそう言う。
「あ、有岡!今日飲みに行かね?」
「行きましょう!!」
髙木くんのお誘いに対し、有岡くんは食い気味で答える。
何だか有岡くん、すごく嬉しそうだな(笑)
・・・可愛い♪
「まゆみさんも行かね?」
「行く!」
可愛らしい有岡くんをニヤニヤ眺めていたら、髙木くんに誘ってもらえたので、私も有岡くんと同様に食い気味でそう答える。
誘ってもらえるのはやっぱり嬉しい。
「八乙女ー!2人とも行くってよ」
「おー!じゃあ久しぶりに4人で飲みに行けるね」
髙木くんの言葉に、いつの間にか近くにいた八乙女くんもそう言ってニコニコ笑顔。
「じゃあ俺予約しとくわ」
それを見て髙木くんはそう言うと、スマホ片手にロビーの方へと歩いていった。
残った有岡くんと八乙女くんと私は、何故か自然と顔を見合わせ笑いあう。
そして、それぞれの仕事に戻ったのだった。
「かんぱーい!!」
それぞれ仕事も終わり。
開放感に満ち溢れた私たち4人は、そう言って笑顔でジョッキを合わせ、1杯目のビールを飲む。
「ぷはぁ!」
それぞれの量を飲むと、それぞれがそう言って笑顔だ。
「うめぇ!」
「うめぇな!」
本当、楽しい仲間と飲むお酒って、なんでこんなにおいしいんだろう。
「お料理もジャンジャン持ってきますからねー!」
そこに、ひろちゃんが最初のお料理を持って登場。
「うぇーい!!」
大盛り上がりの3人(笑)
とても平和だ(笑)
髙木くんが予約をしてくれたお店は、ひろちゃんのお店だった。
気心知れているひろちゃんのお店だからこそ、みんな余計にでも楽しさが倍増するのだろう。
「あ、ひろちゃん、ビールおかわり」
「俺も!」
「あ、俺も」
髙木くんがひろちゃんに言い、続けて有岡くん、八乙女くんもそう言った。
「はーい!まゆみさんは・・・まだだね」
「うん」
ひろちゃんの言葉に私はうなずいた。
どうやら、私のお酒を飲むペースはひろちゃんに熟知されているらしい(笑)
「すぐ持ってくるね」
ひろちゃんは空になったジョッキ3つを手にそう言うと、去っていった。
「4人で飲むのっていつぶりだっけ?」
八乙女くんが言う。
「結構久しぶりだよね」
それに、有岡くんが答える。
「だよね。随分前な気がする」
私も同意。
「これからは毎日でも飲もうぜ♪」
髙木くんは何故かテンション高めでそう言う。
「いや、毎日は無理でしょ」
髙木くんの(おそらく)冗談に、笑いながら言う八乙女くん。
それに、答えた髙木くんの
「俺は大丈夫。1人だから」
という言葉の意味が、私にはいまいちわからなくて。
「・・・?」
私はきょとんとしてしまった。
「え、待って。髙木さん、それってどういうこと?」
そんな私をよそに、何かを察知した有岡くんがそう聞く。
すると髙木くんは
「俺、ちよこと別れたんだよ」
とてもサラッとそう言った。
「ええ!?!?」
予想外過ぎる髙木くんに言葉に有岡くんと私が叫ぶ。
と同時に。
ドンガラガッシャン!!
何かを盛大にひっくり返したような大きな音がして。
有岡くんと私は驚いて目を合わせていた。
「・・・・」
音がした方をのぞくと、ひろちゃんがその場に呆然と立ちつくしている姿が見える。
その周りには、おそらくひろちゃんが落としたのであろう、ビールジョッキと、こぼれてしまったビールが散乱していた。
「大丈夫?怪我はない?」
いつの間にか髙木くんがひろちゃんのそばに行って、そう語りかけている。
「・・・すみません!すぐ片付けます!」
呆然と立ちつくしていたひろちゃんは、髙木くんの声にハッとしてそう言うと、慌てて雑巾を取りに行く。
私は、ひろちゃんが雑巾を取りに行っている間に、少しでも片付けよう、と思い、ビールジョッキを片付けようとしていたら、みんな同じ考えだったらしく。
私たち4人は協力してビールジョッキを片付けていた。
「は!すみません!後は私が片付けますので!」
戻ってきたひろちゃんは、私たちの姿を見てそう言うと、言葉を続ける。
「片付けたらすぐビールもお持ちしますから!」
「じゃあビール早く飲みたいから、とっとと片付けよう。雑巾もっと持ってきて!」
それに髙木くんが超男前発言。
さすがです。
「・・・はい」
それに、ひろちゃんは何故か泣き顔でうなずくと、雑巾を取りに走って行った。