妄想小説Walk2 エピソード26

ある休日。

私は今、ソファに座ってテレビを見ている。

 

隣には、有岡くん。

同じように、ソファに座ってテレビを見ている。

 

 

”大貴って呼ぼう”

 

私は知念さんの言葉を思い出していた。

 

”何の前触れもなく、急に呼ぶの”

 

・・・何の前触れもなく・・・急に・・・

 

もしや、今、チャンス・・・?

 

 

 

 

「ねぇ、大貴」

そう思った私は、思い切って呼んでみた。

すると。

「・・・ん?」

そう言ってこちらを向いた有岡くんは、明らかに浮足立った顔で鼻を膨らませていた。

 

「・・・何でもない」

「なんだよー」

私の言葉に有岡くんはそう言って、嬉しそうに私に抱きついてくる。

 

 

 

 

 

・・・師匠。私、何だかわかった気がします。

 

 

 

 

 

「ねえ、何?何なの?」

有岡くんはそう言いながら私を揺さぶる。

相当気になっているご様子(笑)

 

しょうがない。

 

「ごめん、ちょっと呼んでみたくなって」

私はとりあえずそう言って謝った。

「そっかー」

そう答える有岡くんの鼻はまた膨らんでいる。

 

・・・可愛いな(笑)

 

「でも恥ずかしいからやめる」

「ええ!?何で?呼んでよ!」

「だいき」

「・・・」

呼ばないって言ったくせしてすぐに呼んだからか、有岡くんは何とも不思議な顔で鼻をひくひくさせている。

脳内で処理が追いついていないようだ(笑)

 

「あはははは!」

有岡くんのお顔があまりにも可愛くて、盛大に笑ってしまう私。

「なんだよ!」

そんな私を見てつられてしまったのか、そういいつつも笑う有岡くん。

 

「ごめん(笑) 顔が(笑) 面白くてつい(笑)」

「顔が面白いってなんだよ(笑)」

「だからごめんって(笑)」

私は謝りながらも笑いが止まらず(笑)

 

「笑いすぎだから!」

あまりにも笑い続ける私に有岡くんがそう言って立ち上がる。

 

その瞬間。

有岡くんのポケットからシャリーンと音を立てて鍵が飛び出した。

 

「あっ落ちちゃった」

有岡くんが落とした鍵には、昔、有岡くん、髙木くん、八乙女くん、私の4人で遊園地に遊びに行った時に、有岡くんがみんなにくれたお揃いのキーホルダーがついていた。

 

留め具が壊れてしまったのか、何かのひもでチャームがつながれている。

 

「キーホルダー、壊れちゃったの?」

「えっ、あ、これ?」

私の言葉に有岡くんはそう言うと、手に持っていた鍵をこちらに見せる。

そして、うなずいた私を見て

「そうなんだよー」

と言いながらソファに座る。

「俺の、何かすぐ壊れちゃってさ。でもせっかくのお揃いだから捨てたくないし。ほら。まゆみずっと使ってくれてるでしょ?」

「えっ、うん」

 

確かに、私もずっと使ってる。

有岡くんにもらった、大事なものだから。

でも、それを気づいてくれてるとは思わなかった。

 

「気付いた時は嬉しかったなーいつ見てもずっとつけてくれてるから」

「えっそんなに見てたの?」

「うん。嬉しかったからつい見ちゃうんだよ」

 

・・・嬉しい。

そんなに喜んでくれてるなんて知らなかった。

でも、何か有岡くんらしい(笑)

私は微笑ましい気持ちになった。

 

「何で俺のだけ壊れちゃうんだろうなー」

「いや、私のも何度も壊れてるよ(笑) 直して使ってる」

留め具のところが外れやすかったから、何度か交換している。

「直せるの!?」

私の言葉が衝撃的だったのか、過剰に驚く有岡くん。

「うん」

 

説明するより見せた方が早いよねきっと。

私はそう思ったので、自分の鍵を持ってきて、「ほら」と有岡くんに見せる。

すると。

「えー!すげー!直したのわかんねー!」

何だか感動してくれたみたいで、そう言い

「俺のも直して!」

と自分のキーホルダーを私に差し出した。

「いいよ(笑)」

「やった!お揃いだ」

私がキーホルダーを受け取ったと同時ぐらいに、”お揃い”を喜ぶ有岡くん(笑)

 

可愛い(笑)

 

 

・・・そういえば。

 

 

「有岡くん、お揃い、好き?」

私は昔うっかり買ってしまったお揃いのパジャマの存在をふいに思い出して、そう有岡くんに聞いてみる。

 

「好き」

「ちょっと待っててね」

有岡くんのいたってシンプルな返答を受けたので、私はそう言ってクローゼットへと向かう。

お揃いのパジャマは、有岡くんに見つからないようにクローゼットの奥の方にしまい込んでいる。

 

本当に、ただの勢いでお揃いのパジャマなんて買ってしまったけど、浮かれてしまった自分が何だか恥ずかしく思えて、有岡くんにはずっとその存在を言い出せずにいた。

 

でも。今なら言える気がする。

せっかく買ったから、有岡くんに見せるだけでも見せてみよう。

そう思えた。

 

「これなんだけどね」

「わー!!ふわっふわ!!」

パジャマを渡したと同時にこの反応(笑)

ものすごく嬉しそうで、こっちも嬉しくなる。

「そうなの。1人で買い物に行った時に見つけたんだけど・・・肌触りがよかったから、有岡くん好きそうだなって思って」

「きもちいー♪」

有岡くんは私の話を聞きながら、パジャマにほっぺをすりすりしている(笑)

 

幸せそうだ(笑)

 

「これ、俺の?」

 

すりすりしときながら、急にそんな事を聞いてくる有岡くん。

まあ、あなたのですけども(笑)

 

「うん」

「やった!それは?まゆみの?」

 

有岡くんは私が有岡くんに渡さずに手に持っていた、私用のパジャマを指差してそう言う。

 

「うん」

「お揃い?」

「うん」

「いいじゃん!何で今まで言わなかったの」

「えっ・・・何か、私だけ浮かれてる気がして、恥ずかしくなっちゃって(笑)」

 

それに、あの頃私は嫌われたくなくて、有岡くんには何も言えなくなっていた。

 

 

「俺も浮かれてたけどかっこつけてたなー(笑)」

「えっそうなの?」

「うん。やっぱ似てんのかもな」

有岡くんはそう言って笑った。

 

 

・・・嬉しい。

似てるって言われるの、すごく嬉しい。

だけど、何だか私は照れくさくなってしまって

 

「あ、これ、直してくるね」

 

そう言うと、立ち上がる。

それに有岡くんは「あ、ありがとう!」とキラキラ輝く満点笑顔でそう言う。

 

 

・・・好き。

 

 

私はニヤニヤが抑え切れないままに歩き出す。

 

「あ、直してるとこ見たい!!」

 

しかし、有岡くんはそう言って、そんな気持ちの悪い私を追いかけてくる。

私は盛大にニヤついてしまっている顔を一生懸命隠しながら、キーホルダーを直す道具を取りに行ったのだった。

 

 

 

 

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