妄想小説Walk2 エピソード24
「ひろちゃん」
「え?あ!まゆみさん!」
私がひろちゃんに声をかけると、ひろちゃんはとても驚いていた。
相当近くに行かないと気づいてもらえなかったって事は、私の事など目に入らないほど集中して知念さんを見てたって事なんだろうな(笑)
「そんな柱に隠れて知念さん見なくても(笑)」
「えっバレてた?」
「ええ(笑) こっちに来て一緒にお話しようよ」
「へ!?無理ー!」
何だろう。
ひろちゃんにとって知念さんってどういう存在なのか、興味がわいてきた。
「え、無理?」
「うん。かっこよすぎてまともにお話出来ない」
・・・確かに。
まともに話せてなかった。
「緊張しちゃうの?」
「そうなの。かっこよすぎて」
「確かにイケメン」
「でしょ?」
「うん」
イケメンだから緊張してお話出来なくなるって事なのかな。
「知念くんをね、初めてジムで見かけた時からかっこよくてドキドキしてた」
なんて勝手に想像してたら、ひろちゃんが静かにそんな話をしてくれた。
にしても。
「またジム?」
「そう。ジム(笑)」
確か、ひろちゃんは髙木くんをジムで初めて見かけた時に”先輩”だと思った、とか言っていた。
何故先輩なのかは未だにわからない。
が、どうやらひろちゃんにとって”ジムで出会う”というのがキーワードになりつつあるようだ。
「何かね、知念くんその時、彼女みたいな女の子と一緒にいたんだけど、その女の子をお姉ちゃんだと思って見てたら激萌えしちゃって」
「・・・は?」
彼女みたいな女の子って、きっとともさんの事だと思う。
知念さんに彼女がいるって知って、落ち込むわけじゃなく、お姉ちゃんだと思って激萌えって・・・
本当、訳が分からない。
「あのね。お姉ちゃん設定して見てるの」
私が全然わかっていないと思ったのか、ひろちゃんは丁寧に説明してくれる。
でもごめん・・・私には何が何やら・・・
とりあえず、きっと、”設定”する癖があるってことなのかもしれない、と思った私はそれを聞いてみる事にした。
「もしかして、髙木くんの”先輩設定”みたいなもの?」
「うん、そんな感じかな」
「・・・そうなんだ」
・・・やっぱりよくわからない。
「よくわかんないよね。私、変な癖があるのよ」
「うん。そうみたいだね」
変わり者って事ですね。
「にしても、大ちゃんすごい楽しそうだね」
ひろちゃんにそう言われ有岡くんの方を見ると、有岡くんは知念さんにぴったり寄り添って嬉しそうに笑っていた。
・・・可愛い(笑)
本当、デレデレ(笑)
「いいなぁ大ちゃん。知念くんとお話出来て。何かうらやましい」
ポツリとつぶやいたひろちゃんの言葉が私の心に引っかかる。
・・・うらやましい・・・
「・・・わかる」
「わかるの?」
私が「わかる」といった事はひろちゃんにとっては意外だったようだ。
「わかる。知念さんが羨ましい」
あんなに有岡くんを夢中にさせることが出来るなんて、知念さんは本当にすごい。
「知念くんが?」
「うん。私も知念さんみたいに有岡くんをデレデレにしてみたい・・・」
「あー!」
私の言葉でひろちゃんは私の言いたいことを理解してくれたようで、そのままのテンションで
「だったら知念くんに弟子入りしかないね」
と言った。
「弟子入り?」
「うん。弟子入り」
他に選択肢はない、という勢いで言うひろちゃん。
・・・確かに、弟子入りはいいアイデアかも。
そんな事を考えていたら。
「あ。大ちゃんが呼んでるみたい」
ひろちゃんがそう言って歩き出す。
有岡くんを見ると、ひろちゃんをじっと見つめて右手をまっすぐ上にあげていた。
・・・可愛い(笑)
どんな顔だそれ(笑)
私は有岡くんのそんな姿に愛おしさを覚えつつもトイレに向かった。
トイレから戻ってくると、有岡くんは知念さんの肩を抱いたまま
「おかえり!」
と言った。
「・・・ただいま(笑)」
また距離が縮まったようですね(笑)
「知念、昔は本当可愛かったもんな!」
何の話をしていたのかはわからないが、そう言って知念さんの顔をのぞきこむ有岡くんに知念さんは
「今でも可愛いよ!」
と、笑顔でぷんすかしている(笑)
知念さん、可愛い(笑)
そんな事、知念さんにしか言えない(笑)
・・・にしても。
有岡くんは本当、知念さんにメロメロだ。
さっき遠目で見ていたよりも、近くで、目の前でメロンメロンな姿を見ていると、とってもうらやましくなってくる。
私もあんな風に有岡くんをメロメロにしてみたい。
再び、そんな感情が湧き上がってきた。
やっぱりひろちゃんの言うように弟子入り志願するべきか・・・
私が真剣にそう考えた時。
「俺、トイレ行ってくる」
有岡くんがそう言って席を立った。
・・・チャンスだ。