妄想小説Walk2 エピソード25

「あの・・・知念さん・・・」

 

有岡くんの姿が見えなくなったのを確認して、私は知念さんにそう話しかけた。

 

「ん?」

「弟子入りさせてください!!」

「え?何?」

 

私が全力で頭を下げると、知念さんは戸惑った様子で私を見る。

それに私が

 

「私も知念さんみたいに有岡くんをメロメロにしたいんです」

 

と言うと、

 

「あーそういうことか」

 

と全てを理解してくれたようだ。

 

さすが知念さん。

のみ込みが早い。

 

「お願いします!!」

 

私は全身全霊を込めて頭を下げる。

 

すると。

数十秒後に知念さんは口を開いた。

 

「まゆみさんは大貴の事なんて呼んでる?」

「えっ有岡くんです」

「大貴って呼ぼう」

「えっはい!」

 

”大貴”って・・・

何だか照れてしまう。

 

でも、知念さんが言うのだから、間違いはないはずだ。

有岡くんが帰ってきたら、「大貴」って呼べばいいのね。

 

「やたらめったと呼んじゃダメだよ」

 

知念さんは私の心を読んだかのようにそう言う。

 

「え、ダメなんですか?」

「ダメ。何気ない日常の時がいい」

「何気ない・・・日常・・・」

「そう。何の前触れもなく、急に。当たり前のように呼ぶ」

「前触れもなく・・・急に・・・当たり前のように・・・」

 

私は忘れないように、知念さんの言葉を頭に叩き込む。

 

「まずはそこから始めてみよう」

「はい!」

「これ、僕のLINE。結果報告してね」

 

知念さんはそう言うと私に名刺を渡してくださった。

 

「ありがとうございます師匠!!!」

 

知念さんのありがたいお名刺を両手で受け取りながら、私はどうすれば感謝の気持ちが伝わるかを考えていた。

 

 

最強の師匠を手に入れた私は最強の弟子になるべく修行に励みます!

 

・・・はさすがに違うか。

 

 

 

「まゆみさん、真面目なんだね」

 

ふいに、知念さんがそう言って笑う。

 

「えっそうですか?」

「うん、真面目だと思う」

「そ、そんな事ない・・・と、思うのですが・・・」

 

 

自分ではよくわからない

 

 

「何がそんな事ないの?」

 

そんなタイミングで有岡くんが戻ってきて、普通に会話に加わろうとする。

 

「僕が、まゆみさんは真面目で一生懸命だねって言ったんだよ」

 

そんな有岡くんに知念さんが笑顔でそう言う。

 

 

師匠・・・一生懸命だとは伺っておりませんが・・・

 

 

「大貴もそう思うでしょ?」

「うん。思う」

「えっそうなの?」

「うん」

 

当然のようにうなずく有岡くん。

 

有岡くんはそんな風に私を見てくれてたんだ・・・

 

 

「大貴は幸せだね。そんなまゆみさんにこんなにも想われて」

「えっ」

 

 

し、師匠!!何を言いだすんですか!!!

 

 

「ちょっ 2人で何の話してたんだよー」

 

私が慌てふためいていると同時に有岡くんがそう言って笑う。

 

顔がほんのり赤くなっている。

そして、わかりやすくデレデレだ。

 

 

 

・・・え。すごい嬉しい・・・!

 

 

 

「大貴には教えない」

「なんだよー!」

 

有岡くんは口ではそう言いながらも嬉しそうに知念さんのお尻を触る。

 

 

 

 

いや。師匠。

すごすぎます。

私、本当に最強の師匠を手に入れたんですね・・・!!

 

 

私は知念さんの言動に感動を覚えながら、知念さんのお尻を触る有岡くんという、非日常な光景を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあひろちゃん、また来るね!」

 

帰り際。

有岡くんが元気にそう言ってひろちゃんに手を振る。

 

「うん!また来てね!」

 

そして。

 

「ひろちゃん、僕もまたくるね」

 

知念さんもそう言ってひろちゃんに笑顔を見せる。

 

「ははははははははい・・・・」

 

例によって、ひろちゃんの声は小さい。

 

「何度も来るから、早く僕に慣れてね」

「ちちちちちちちねんくん・・・・」

 

 

この差(笑)

 

 

「ごちそうさまでした!」

 

私はそんな不思議な光景を眺めつつそう言うとお店を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知念さんと別れた後。

私は有岡くんと2人きりで夜道を歩いていた。

 

つなぐ手と手のぬくもりが心地いい。

 

 

 

 

・・・ふと。

ひろちゃんの言葉が頭によみがえる。

 

 

 

 

”俺、負けないし”

 

 

 

 

山田さんの気持ちまで考慮してくれる有岡くんが、山田さんには負けないって言ってくれた。

 

 

 

本当、嬉しかった。

 

 

 

私は急にテンションが上がって、有岡くんの手をぎゅっと握る。

すると、有岡くんも私の手をもっと強い力でぎゅっと握り返してくれる。

 

どちらからともなく、お互いの方を向き、笑いあう。

 

 

 

 

 

 

・・・幸せだ・・・

 

 

 

 

 

「有岡くんはさ・・・本当優しいよね」

「どうした?急に」

「私、有岡くんの事、宇宙一かっこいいって思ってるから」

「ありがとう・・・酔ってる?(笑)」

 

普段は言わないことをいっぱい言うからか、有岡くんはそんな事を言う。

 

「うん(笑) 酔ってる(笑)」

 

むしろ酔ってないとこんなこと言えない(笑)

 

「酔ってるかー(笑)」

 

有岡くんはそう言って笑うと、

 

「俺もまゆみのこと宇宙一可愛いと思ってるから」

 

という。

 

「・・・嬉しい!!!!!!ありがとう!!!!!好き!!!・・・あっ」

 

あまりに嬉しすぎて、普段は心の中でいう事を口に出してしまった。

 

「は、恥ずかしい・・・」

「いいじゃん!どんどん好きって言ってよ」

 

照れる私に、有岡くんが調子に乗ってそういう。

 

「・・・もう言わない」

「えー!!」

 

 

本当、気を付けないと心の声が駄々漏れで困る。

 

 

 

私は心の中で激しく反省をしつつも、有岡くんの手をもう一度ぎゅっと握りなおした。

 

 

 

 

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