妄想小説Walk2 エピソード23

少しして。

 

「まゆみさん、お久しぶりです」

 

そう言って顔をのぞかせたのは知念さんだった。

 

「知念さん!お久しぶりです!!」

「ごめんね、急に。ご一緒してもいいかな?」

「もちろんです!どうぞ!座って下さい!」

 

知念さんの言葉に私は少し興奮して立ち上がりながらそう言う。

それに、知念さんは「ありがとう」と笑顔を見せた。

 

「ここに来る途中に知念とばったり会ってさ!連れて来ちゃった」

 

有岡くんはとっても嬉しそうにそう言う。

 

「そうなんだ(笑)」

 

私はそれに笑顔でそう答える。

有岡くんの笑顔を見ているとつられて笑ってしまう。

 

「で、ひろちゃんどうしたの?」

「え?」

 

有岡くんが私の後ろに視線を向けたので、その視線の先を見ると、ひろちゃんがいつのまにやら私の後ろに隠れていた。

 

「・・・え?ひろちゃん何で隠れてるの?」

 

私がひろちゃんに問いかけると、ひろちゃんはものすごく小さな声で

 

「ちちちちちちちねんくん・・・ちねんくん・・・」

 

と繰り返している。

 

「え?ひろちゃん知念さんと知り合い?」

 

私がひろちゃんに聞いたら

 

「僕もこのお店たまに来るんだ」

 

と知念さんが答え

 

「こんばんは、ひろちゃん」

 

と、アイドルスマイルでひろちゃんに話しかける。

 

「こここここここここんばんは・・・」

「ん?」

 

しかし、ひろちゃんの声が小さすぎて知念さんには聞こえなかったようだ。

 

「こんばんはって言ってます(笑)」

 

私は思わずそう通訳する。

すると知念さんは

 

「こんばんは」

 

と、もう一度笑顔でひろちゃんに投げかけた。

 

「・・・」

 

ひろちゃんを見ると、口が開いたまま固まっている。

 

「ひろちゃん、僕が話しかけるといつも固まっちゃうんだよね。僕、話しかけない方がいいのかなぁ・・・」

 

知念さんは少し寂しそうだ。

 

「ちがっちがっちがっ!わたっわたっ」

 

ひろちゃんは相変わらず、とても小さな声で言い、首を振っている。

どうやら、話しかけてもいいみたいだ(笑)

 

「話しかけていいみたいですよ(笑)」

 

私は知念さんにそう通訳した。

 

「んー」

 

有岡くんが何かを考えている。

かと思ったら、すぐに口を開いた。

 

「ひろちゃんは知念と話すと緊張しちゃうんじゃない?」

「何で?」

 

頭の上に疑問符が出ている知念さん。

それに有岡くんは「わかんないけど」と正解を出してあげる事はしない(笑)

 

「じゃあ僕いっぱい来て、僕に慣れてもらえばいいのかな」

 

正解を出したのは知念さんご本人だった(笑)

 

「そうだな!そうしろ知念!」

 

すぐさま乗っかる有岡くん。

 

「大貴おごってくれる?」

「もちろんだよ」

 

そしてやっぱり知念さんにメロメロな有岡くん(笑)

 

「まゆみさんも一緒にご飯食べてくれる?」

「もちろんです知念さん!」

 

私も知念さんにメロメロ(笑)

 

「ひろちゃん、常連さんが増えたね・・・って、大丈夫?」

 

有岡くんがそう言うので振り返ると、ひろちゃんは白目をむいて固まっていた。

 

「ひろちゃん!?」

 

私は驚いてひろちゃんの腕をつかむ。

そしてそのまま前後にぶんぶん動かしてみた。

 

「ひろちゃん!気を確かに!!」

 

すると。

 

「はっ」

 

目が覚めたようだ。

よかった。

 

 

「ビビビビビビール・・・」

「有岡くん、知念さん、ビールでいい?」

 

ひろちゃんがやっぱり小声で「ビール」と言ってるようなので、おそらくこう言いたいのであろうと察した私は、2人ににそう聞く。

 

「うん」

「うん」

 

2人の声が揃う。

 

「揃ったな」

「揃ったね」

 

何だか嬉しそうな有岡くんと知念さん。

可愛い。

 

「かしっかしこまりっかしこまりましっ」

 

ひろちゃんはアワアワしながら小声でそう言うと、ものすごい速さで去っていった。

 

 

「何かいつものひろちゃんじゃないな」

 

有岡くんがひろちゃんの去っていった方を見ながらそうつぶやき、席に座る。

それを見て、知念さんと私も席に座った。

私の目の前に有岡くん、その隣に知念さんだ。

 

「そうなの?僕が知ってるひろちゃんはいつもあんな感じだよ」

「そうなのかー」

 

知念さんの言葉に有岡くんは不思議そうだ。

 

それは確かに随分と様子がおかしい。

髙木くんがいる時のテンションの高さとも全然違うし。

何なんだろう。

 

 

「知念さんはお仕事帰りですか?」

 

私はそんな事を思いながらも知念さんにそう話しかける。

 

「うん。たまたま歩いてたら大貴と会って」

「なー!すごい偶然だなー!!」

 

有岡くんは本当に嬉しそうだ。

それに知念さんは

 

「大貴は連絡する連絡するっていうけど、全然連絡くれないから神様が会わせてくれたのかもしれないね」

 

と、私には思いつきもしない素敵セリフで有岡くんを魅了。

有岡くんも笑顔で

 

「そうだな!絶対そうだ!神様ありがとう!!」

 

とテンションを上げる。

 

「神様ありがとう!じゃないよ!大貴が僕に連絡してくれればいいんだよ!」

「そっかーごめんな!」

「連絡くれないなら僕もう大貴とは遊ばないよ?」

「待って!知念ごめん!絶対連絡するから!」

「絶対だよ?」

「うん!絶対する!」

 

・・・すごい。

知念さんは有岡くんを手玉に取る方法を熟知している・・・

こんなにも有岡くんを自分に夢中にさせることが出来るなんて!

感動する!

そして、猛烈にうらやましい・・・・

 

 

「ビビビビビビビール!でじっでじるまきたまごっおまっおまたせしましたっ」

 

その時。ひろちゃんがビールと出汁巻きたまごを持って現れた。

声は出せなくても、どうしても”でじるまきたまご”と言いたいようだ。

今日はほっといたらでじるまきたまごしか出てこない気がする(笑)

 

 

「あ!でじるまきたまごだ!」

 

有岡くんが嬉しそうに言い、話を続ける。

 

「こないだ八乙女さんが言ったんだよ。でじるまきたまごって(笑)」

 

とても楽しそうだ(笑)

 

「聞いた(笑) 漢字が読めなかったんだって?」

「そうなんだよ(笑)」

 

有岡くんはそう言って笑うと

 

「知念、うちの会社に八乙女さんっていう先輩がいるんだけどさ」

 

と知念さんに向かって説明し始めた。

 

「出汁巻き卵が読めなくて”でじるまきたまご”って言ったんだよ(笑)」

「え(笑)バカなの?(笑)」

「バカって言うか、言葉を知らないんだろうな。覚えたら読めるようになると思う!」

 

そりゃそうだ(笑)

 

「八乙女くんはすごい癒し系の人なんですよ」

 

思わずフォローしてしまう私。

 

「そうだよね。癒されそう」

 

それに知念さんも合わせてくれる。

 

「舌たらずで可愛いんです」

「そうなんだ」

 

私は何故だか一生懸命八乙女くんのフォローをしていたが、何気なしにふと見ると、ひろちゃんがいつのまにやら遠くの柱の陰からこちらをのぞいている。

視線の先には知念さん。

そして・・・ニコニコしている。

 

 

・・・何だろう(笑)

気になる(笑)

 

 

「ちょっとトイレ行ってきます」

 

私はそう言うと席を立ち、ひろちゃんの所に向かった。

 

 

 

 

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