妄想小説Walk2 エピソード13
髙木くんが言うから有岡くんのマンションの前まで来てみたけど
・・・どうしよう。
急に行くと迷惑だよね。
しかもさっきから何度もスマホを見てるけど全然LINEが既読にならない。
きっともう寝ちゃってるんだ。
帰ろうかな・・・
私は有岡くんのマンションの入口を見ながらそんな風にウダウダと考えていた。
迷惑かけたくないから帰った方がいい
という思いと
せっかく来たから会えるなら会いたい
という想いが同居している。
我ながら本当に優柔不断で嫌になる。
・・・有岡くんに会いたいな・・・
いや。毎日会ってはいるんだけどさ。
出来るものなら仕事以外でも会いたいなって思ってしまったり。
・・・どうしよう。
そんな事を思っていたら。
有岡くんのマンションの前に人影が現れた。
・・・え・・・有岡くん・・・?
有岡くんの姿を見るだけで心が躍っている自分がいる。
・・・もしかして神様、私の心読んでます?
そんな私の勘違いをよそに、有岡くんはマンションの前で立ち止まってキョロキョロしている。
・・・何か探してる・・・?
そして、ポケットからスマホを取り出して操作し始めた。
もしかして私のLINEに気づいてくれるかも。
そう思ってLINEを開いてみるけれど。
私のLINEは未読のままだった。
・・・気づ・・・かないんだ・・・
複雑な思いで再び有岡くんの方に目を向けたとき。
そこに広がっていた光景に私は凍り付いた。
有岡くんが女の子と話してる。
…誰・・・?
と思うと同時に。
私は今見た光景から目をそらしていた。
私は見てはいけないものを見てしまった。
これ以上見てはいけないし、ここにいてもいけない。
・・・早く逃げなきゃ。
有岡くんに見つかる前に。
私はフリーズ状態の脳を抱え、有岡くんに気づかれないようにその場を去った。
家に帰っても。
何をしてても。
頭の片隅にはさっき見た光景がある。
心は凍り付いたままだし、脳内はフリーズしたままだ。
私は有岡くんにふさわしくないんだ。
もしかして私が付き合ってるって勘違いしてたのかも。
身の程をわきまえなくてはってあれほど思っていたのに。
今後は気を付けよう。
私は冷静にそう考え、今日見た光景を胸の奥にしまいこむことにした。
翌日。
髙木くんに仕事を手伝ってほしいといわれた私は今、髙木くんと二人で会議室で作業中である。
「昨日有岡と話せた?」
作業をしながら髙木くんがそう聞いてくる。
「・・・ううん、結局行かなかった」
昨日の事を聞かれるだろうなって予測をしていた私は、予め用意していた言葉で答える。
「あれからLINEの返事来なくてさ」
これは本当。
結局あの後有岡くんからLINEの返事は来なかった。
「・・・そうなんだ」
髙木くんはそういった後、しばらく黙り込む。
そして私たちは黙々と仕事をこなしていたのだが。
ふいに。
「今日飲みに行かね?」
髙木くんがそう聞いてきた。
「あー・・・ごめん。今日は予定があって」
「そっか」
「ごめん」
本当は何の予定もない。
だけど。
今日髙木くんと一緒にいると、私はきっと髙木くんに甘えてしまう。
これ以上髙木くんに甘える事は出来ない。
何となくそう思った。
髙木くんと私はそれからずっと何も話すことなく、ただ仕事を淡々とこなしたのだった。
「まゆみさんありがとう!助かった!!」
仕事がひと段落ついた頃。
髙木くんはそう言って笑顔を見せた。
何事もなかったかのようにふるまってくれる、そんな髙木くんの優しさに私は感謝しかなかった。
「じゃあ私、戻るね」
「うん、ありがとう」
私は髙木くんの声を背中で聞きながら会議室のドアを開ける。
「!」
するとそこには急にドアが開いて死ぬほど驚いた顔をしている有岡くんがいた。
私も驚いたけど、有岡くんにはそれをなるべく感じさせないように心掛けながら
「あ・・・ごめん、驚かせちゃったかな」
と言う。
「うん、驚いた。でも大丈夫」
有岡くんはそう言うと言葉を続ける。
「あ・・・まゆみさん、昨日また返事出来なくてごめん」
「えっ!あ、ううん!全然大丈夫!」
私はそう言って笑顔を見せた。
・・・つもりだったけど、顔が強張っているのが自分でもわかる。
やばい。気づかれないようにしなきゃ。
私はそう思い、とにかく笑って見せながら言う。
「私が最近LINEしすぎちゃってるよね!ごめんね、気を付けるね」
「え・・・大丈夫だよ・・・」
明らかに戸惑っている有岡くんの表情を見て、私は自分がおかしな事を言っているのだろうと悟った。
ああ・・・もうこれ以上何も言わない方がよさそうだ・・・
「そっか、ありがとね」
私はギリギリでそう言うとそそくさと自分のデスクに戻ったのだった。