妄想小説Walk第97話
しばらくして、さっぱりした顔で有岡くんがお風呂から出てきた。
「気持ちよかったー!ここ、いい水圧してるわ!」
ご満悦だ。
「そっか、よかった(笑)」
有岡くんはシャワーの水圧にこだわる男だ。
「ビール飲む?」
「うん」
私の言葉に有岡くんは嬉しそうにうなずく。
やっぱり、風呂上りにはビールだよね。
私は冷蔵庫からビールを取り出して戻ろうとした時にあることに気が付いた。
・・・風呂上がりの有岡くんがうちにいる・・・・
風呂上がりの有岡くんがうちにいる!?
途端に心臓がドキドキ音を立て始める。
・・・気づかなきゃよかった・・・
変に意識してしまうじゃないか・・・
そう思いながらTシャツにジャージというラフな格好でご飯を食べている有岡くんの後姿を見る。
・・・すごい景色だ・・・
髪の毛もいつもよりストレートだし。
何か、ラフでストレートで、何と言うか本当にもう何と言いますか!
・・・落ち着け。
うん。落ち着こう私。
あまりに日常からかけ離れてる光景に動揺が隠し切れないだけだ。
仲の良い会社の後輩くんがうちに来てご飯を食べているだけだ。
それもなかなかにすごいことなんだけども!
この際それはどうでもいい!
日常とは違うけれども、こんなにも動揺してしまっていることは有岡くんには悟られてはいけない!
落ち着け。
落ち着け。
私は思いっきり深呼吸をして、何事もなかったかのような顔をして有岡くんの所に戻った。
「おまたせ!」
そして涼しい顔をして有岡くんのグラスにビールを注ぐ。
それを有岡くんは一気に飲み干すと「うめーーー!!!」と笑顔。
・・・好きです。
は。
いかんいかん!
私は空になった有岡くんのグラスに再びビールを注ぐ。
「まゆみさん飲まないの?」
「え!の、飲んでるよ」
私のグラスにはまだビールが残っている。
「そっか」
私の動揺が気づかれたかもしれないと思ったが、どうやら気づかなかったようで、有岡くんはもぐもぐとお惣菜を食べている。
・・・ふぅ・・・
大丈夫そうだ・・・
少し安心した私は有岡くんと同じようにビールを飲みながらおいしいお惣菜を楽しんだ。
やっとご飯を食べ終わって、デザートまで食べたら、もうお腹はパンパンだった。
有岡くんのお腹も目で見てわかるぐらいポッコリしている。
子供みたいな体形で可愛い(笑)
「お腹いっぱい!もう動けねー!!」
有岡くんが叫ぶ。
「でしょうね(笑)」
有岡くんのパンパンなお腹見たら誰でもわかる(笑)
「ちょっと休んどきなよ(笑)」
「うん、そうするー」
そういってソファに横になる有岡くんを横目で見ながら私は洗い物をするためにキッチンに向かった。
洗い物をして帰ってきたら、有岡くんはソファで寝てしまっていた。
軽くイビキをかいている。
しばらく起きそうにない。
私はとりあえず掛け布団を持ってきて有岡くんの上にかけた。
けれども。やっぱり有岡くんは起きそうにない。
・・・。
思わず寝顔を見てしまう。
・・・やばい。
何て可愛いんだろう。
ずっと見ていられそうだ。
・・・・。
こんなに見てるのに全然起きる気配がない。
疲れてたんだろうな・・・。
それにしても、本当、気持ちよさそうに寝ている(笑)
何だか、子供みたいだ(笑)
可愛い子供みたいだなって思ったら、急に男っぽい姿を見せられる。
そのバランスが本当に絶妙で。
私はそういう有岡くんを見ていると、胸が締め付けられるほどつらくなる時がある。
おさえたくても抑えられない。
好きという気持ちがあふれ出してしまいそうだ。
・・・ダメだ。
ちゃんと気持ちをおさえなきゃ。
私は、自分の気持ちが、怖い。
・・・・。
全然起きないな有岡くん。
・・・・。
私はカバンの中からスマホを取り出してカメラモードにし、有岡くんの寝顔にピントを合わせて撮影ボタンを押した。
カシャカシャカシャカシャカシャカシャ!!!!!!!!
何故か連写になってしまっていたようでシャッター音が連続でけたたましい音を立てる。
「え!?」
「何の音!?」
シャッター音のせいで有岡くんが目を覚ましてしまった・・・。
「ん?」
とりあえずスマホを後ろ手に隠す。
「カシャカシャカシャカシャ・・・・」
有岡くんは寝起きの頭で一生懸命考えてるようだ。
「あ。」
有岡くんはハッとした顔をして
「写真撮った?」
と言った。
「・・・ん?」
とりあえずそらとぼけておこう。
「写真撮ったでしょ?」
「ん?」
「撮ったな!」
「え?」
「見せて」
「ん?」
「後ろにスマホ隠してるでしょ?貸して」
有岡くんはそう言って片手を私の方に伸ばしてくる。
「・・・」
「貸せって」
無言で抵抗している私のスマホを無理やり奪おうとする有岡くん。
「やだ」
私はそれに抗う。
「見せろよー」
「やだー」
「・・・。」
急に無言になったかと思ったら、有岡くんは素早く手を伸ばして私のスマホを奪い取ろうとする。
私はそれをよける。
また、手を伸ばす有岡くん。
かわす私。
何度かそれを繰り返し、これは余裕で逃げられるなと私が確信した瞬間、ふいにわき腹をちょんっとされ、「ひゃっ!」となってしまった隙にスマホはあっさりと有岡くんに奪われてしまった。
「よっしゃーーーー!!!!!!!!」
と言って私のスマホをつかんだ手を上につきあげる有岡くん。
ものすごく嬉しそうだ。
・・・悔しい・・・
「見ていい?」
無理やり奪ったくせに許可は取ってくれるんだ(笑)
「いいよ(笑)」
連写された何十枚もの写真を見て有岡くんは
「おい(笑) 何枚撮ってんだよ(笑)」
と、何故か嬉しそうだ。
「わかんない(笑) なぜか連写されてた(笑)起こしちゃってごめんね(笑)」
今更だけど、謝る私。
「俺も寝ちゃってごめん(笑) 布団かけてくれてありがとう」
「ううん」
「もうこんな時間なんだ」
有岡くんに言われて時計を見ると、結構な時間になっていた。
「やばいじゃん!終電間に合わなくなっちゃう!」
私は焦って洗濯機まで有岡くんのシャツとインナーを取りに走る。
よかった!乾いてる!
「間に合った!」
私はそう言いながら有岡くんにシャツとインナーを渡す。
有岡くんは一瞬ボーっとしていたが、それを受け取ると、その場でTシャツを脱ぎだした。
私は慌てて後ろを向く。
「これ、ありがとう」
少しして。
そんな声が聞こえたので振り向くと、着替え終わった有岡くんがTシャツとジャージを私の方に差し出していた。
私はそれを受け取りながら言う。
「有岡くん、今日は本当にありがとう。おかげで元気出た」
「よかった」
有岡くんはそう言って優しく笑うと
「じゃあ・・・帰るね」
と玄関に向かう。
私も、お見送りをするためについて行く。
「本当、ありがとう。気を付けてね」
靴を履いている有岡くんの後ろ姿に向かって、私は再度お礼を言う。
「まゆみさん」
「ん?」
「また来てもいい?」
「・・・うん」
私が頷くと、有岡くんは微笑んで「じゃあ」と手を振って帰っていった。
本当、ありがとう。有岡くん。