妄想小説Walk第93話

テレビをつけて、テレビを見ている。

・・・ように見えてもどうしても山田さんの事が頭をよぎる。

 

あの時。

消え入りそうな声で山田さんは

 

「ごめんね」

 

と言った。

 

あれは、もしかしたら、こうなることを知ってて謝ってくれてたのかもしれない。

山田さんが消えてしまいそうな気がして、思わず強く抱きしめてしまったけど、まさか本当に消えてしまうなんて思いもしなかった。

 

 

 

 

 

・・・・。

 

 

 

 

 

ダメだ。

どうしても考えてしまう。

何か、何か違う事をしなきゃ。

 

そうだ。

ドラマとか、映画とか、その世界に入り込めそうなものを見よう。

 

私はテレビのリモコンを手に取った。

その時。

 

 

 

ピンポーン

 

玄関のチャイムが鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

・・・誰だろ・・・

 

 

 

 

 

 

ピンポーン

 

 

 

 

・・・。

 

 

 

 

 

私はゆっくり立ち上がりモニターを見る。

 

「!?」

 

画面に映っている人物を見て驚きのあまり二度見してしまう私。

 

 

いやいやいやいや。

まさかまさか。

そんな訳ないじゃない。

ものすごくよく似た宅配便のお兄さんだわきっと。

気のせい気のせい。

 

私は自分にそう言い聞かせながら玄関のドアを開けた。

 

 

 

 

 

「・・・」

 

 

・・・気のせいじゃなかった。

 

 

 

そこには、私の顔を見て思わず吹き出してしまっている有岡くんがいた。

 

「なんて顔してんだよ(笑)」

 

有岡くんはそう言うと、自分の靴を脱ぎながら私の頭をポンポンっとして

 

「入るよ」

 

と勝手に家に上がり込んだ。

 

「え!?ちょっと!?」

 

そして、勝手に部屋を歩き回る有岡くんの後ろを慌てて追いかける私。

そんな私にはお構いなしで有岡くんは

 

「へー!こんな部屋に住んでるんだね」

 

と興味津々でチョロチョロする。

 

「うん、まあこんな部屋に住んでるんですけど・・・えっと・・・」

「家の前までは何度も来てるけど、入れてもらったのって初めてだもんなー」

 

有岡くんはなぜか嬉しそうだ。

 

入れたというよりは勝手に入ってこられたんですけど・・・

まあ、それはいいか。

 

 

 

「ねえ、有岡くん、急に来るなんてどうしたの?」

 

私は自分の疑問をストレートにぶつけてみる。

すると。

 

「会いたくなったから来た。ダメ?」

 

と有岡くん。

 

「いや、ダメじゃないけど・・・」

 

思わぬ答えが帰ってきて私はただただ戸惑う。

 

そんなシンプルな答えが返ってくるとは思わなかった。

それに、最近は有岡くんに避けられてるとばかり思ってたから・・・

 

 

「ご飯食べてないだろうと思って買ってきたよ」

「えっ」

 

またまた思いもよらない事を言ってくる有岡くん。

 

 

・・・でも確かに、そう言われてみれば食べてない。

 

 

 

「一緒に食べよ」

 

有岡くんはそう言うと、手に持っていた袋を私に差し出し

 

「チンして」

 

と言う。

 

「あ・・・はい」

 

驚きながらも私はそれを受け取るとキッチンに向かう。

そんな私の後ろをついて来ながら有岡くんは

 

「おいしいって噂のとこのやつテイクアウトしてきたから」

 

と、顔が見えなくてもおそらくドヤ顔なんだろうなーと想像のつく声で言う。

 

「あ、デザートは冷やしておいてね」

「デザートまであるの!?」

「ったりまえだろー?ちゃんとサラダもドリンクも買って来てるから!」

「おー!さすが!」

 

振り返って見た有岡くんの顔は想像通りのドヤ顔(笑)

私は思わず笑ってしまう。

 

「何笑ってんだよ」

 

そんな私につられたのか、有岡くんも笑いながら言う。

 

「笑ってないよ」

「笑ってんじゃん。何だよ」

「もういいから座ってて(笑)」

「えー?」

 

有岡くんはそう言いながらも言われたとおりに素直にソファに座る。

 

 

 

・・・可愛い・・・

 

 

 

何か久しぶりだな。有岡くんとこうやって笑いあうの。

ここしばらく有岡くんの笑顔見てなかった気がする。

 

 

 

そんなことを考えながら、有岡くんに渡された袋の中を確認する。

 

デザートらしき箱がある。

これは後のお楽しみにとっておこう♪

私は箱を開けずにそのまま冷蔵庫に入れた。

 

後は数種のお肉中心のお惣菜とサラダ。

ドリンクは・・・

 

何だこの緑色の・・・?

 

 

 

 

「これ、何?」

 

私はドリンクカップに入った緑色の飲み物とストローを有岡くんの前にあるテーブルに置きながら、そう問いかける。

 

「クレンズジュース」

「くれんずじゅーす???」

 

聞きなれない言葉。

 

「野菜ジュースみたいなもんだよ」

「へぇ・・・」

 

そんなおしゃれな飲み物、存じ上げませんでした・・・

 

私は軽く恥ずかしさを感じながらキッチンに戻ると、お惣菜をチンしつつサラダをお皿に盛りつけてテーブルへ。

 

 

「先に食べてていいよ」

 

取り皿と箸を渡しながら私が言うと有岡くんは

 

「いや。一緒に食べる」

 

と言ってお皿と箸をテーブルに置く。

 

「そっか」

 

気を使ってくれてるのかな。

 

 

 

私はキッチンに戻ると、温まったお惣菜たちをお皿に盛りつけて運ぶ、を数回繰り返す。

 

あっという間にテーブルの上はごちそうであふれかえった。

 

 

 

「おいしそう♪」

 

思わず笑顔になる。

 

「早く食べよ!座って!」

 

待ちきれない様子の有岡くん。

 

「はーい(笑)」

 

ごちそうを食べたくてソワソワしてる有岡くんに思わず笑ってしまいながらも私は、言われるがままに有岡くんの隣に座った。

 

 

 

 

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