妄想小説Walk第91話

「まゆみ。ちょっとこい」

「はい」

 

会社で仕事をしていたら、部長に呼び出された。

部長は険しい顔をしている。

 

 

・・・やばい。

私、何かしたかな?

 

 

そう思いながら部長の席に行くと、部長は険しい顔のままゆっくりと話し始めた。

 

「エースコーポレーションの担当は誰だ?」

「え・・・?山田さんです」

「ヤマダ、だな。間違いないか?」

 

”ヤマダ”を強調していう部長。

私はそれにはっきりと

 

「はい。間違いないです」

 

と答えた。

 

 

どういうことだろう?

今更担当の名前を聞かれるなんて。

何があったんだろう?

 

 

私の答えを聞いて部長は大きくため息をつく。

そして、ゆっくりと話し始めた。

 

 

「振り込んだ500万について聞きたいことがあってな。お前も外出してたし、直接聞いた方が早いと思ってエースコーポレーションに電話したんだよ」

「・・・はい」

 

 

・・・山田さん、何かしちゃった・・・?

そんな失敗する感じじゃないのに・・・

 

部長の口ぶりが険しいから、何か良くないことが起きたのは何となくわかるんだけど、山田さんが何かをやらかすなんて想像がつかなくて、私は少し身構えてしまう。

 

しかし、次に部長の口から出た言葉があまりにも想像を超えていて、私の頭は一瞬で真っ白になった。

 

 

「エースコーポレーションに”ヤマダ”という人間はいないと言われたが、これは一体どういうことだ?」

「・・・え?」

 

部長が何を言っているか理解することが出来ず、私は何も言う事が出来ない。

 

「まゆみ。お前は一体誰と取引してたんだ?」

「えっ・・・エースコーポレーションの山田さん・・・です・・・」

「エースコーポレーションに山田はいないんだよ!」

「そ、そんなはずは・・・」

 

何が起こっているのかはよくわからないけど、とにかく山田さんがエースコーポレーションの方なんだってわかってもらわなきゃ。

 

 

 

私は慌てて自分のデスクに戻り、山田さんに電話をかけた。

 

 

 

 

「この電話番号は現在使われておりません」

 

電話の向こうから聞こえるのは冷酷な機械の声。

 

 

 

 

 

!?

 

え。何これ。どういうこと・・・?

 

 

 

 

・・・そうだ。LINEは!?

 

私はLINEの画面を開く。

 

 

 

!?

 

 

昨日までは確かに存在していたはずなのに、そこに山田さんはいなかった。

 

 

 

 

「え・・・何?・・・・どういうこと?・・・・え・・・?」

 

パニック過ぎて、思わず口に出してそう言ってしまった私をみて髙木くんが

 

「どした?」

 

と声をかけてくれる。

しかし、私はそれに

 

「山田さんが消えた・・・」

 

としか言えない。

 

「え?お前、何言ってんの?」

「電話も現在使われていませんって言うし、LINEも・・・」

「ちょっと貸して」

 

髙木くんはそういうと私のスマホを奪い、LINEの画面を見る。

 

「・・・」

 

そして、山田さんのものであったはずの電話番号に電話をかける。

スマホから「現在使われておりません」という機械の声がうっすら聞こえてくる。

 

「・・・何で?」

 

呆然とする髙木くん。

 

「・・・わかんない・・・」

 

 

・・・山田さんに何かあったのかな・・・

 

 

状況がよくわからなすぎて不安になる。

 

 

・・・どうすればいい?

私は今、何ができる?

 

 

 

 

 

 

 

・・・そうだ。エースコーポレーションに行けば何かわかるかもしれない。

 

 

「私、エースコーポレーションに行ってくる」

「え?」

「部長。ちょっと外出してきます」

 

私はそう告げると「おい!」と何か言っている部長の言葉を無視して会社を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山田さん、どうしたんだろう。

スマホが壊れたのかな?

それともLINEが乗っ取られた?

 

 

・・・まさか何らかの事件に巻き込まれたとか!?

 

 

エースコーポレーションに向かう途中も、私は気が気じゃなかった。

とにかく、今、何が起きているのかをきちんと自分の目で確かめたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エースコーポレーションに到着した私はすぐに受付で

 

「営業の山田さんいらっしゃいますか?」

 

と問う。

そんな私を怪訝そうな顔で見る受付のお姉さん。

 

「ヤマダ、ですか?」

「はい。山田涼介さんです」

 

私はもう一度、はっきりと言う。

ちゃんと聞こえなかったのかもしれない、と思った。

が。

そんな私に対して帰ってきた言葉は

 

「申し訳ございません。”ヤマダ”という社員はうちには在籍しておりません。」

 

だった。

 

「え・・・そんなはずは!山田涼介さんですよ!?」

「はい。”ヤマダリョウスケ”という社員はうちにはおりません。失礼ですが、他社様とお間違えではないでしょうか?」

 

受付のお姉さんは張り付いた笑顔ではっきりとそう言う。

 

 

・・・山田さんが・・・いない・・・?

 

 

私は現状が全く受け入れられず、しばらくぼーっとしてしまっていた。

 

「あの・・・」

 

あまりにも呆然としてしまっていたのだろう。

受付のお姉さんがそう声をかけてくれる。

 

「あっすみません!失礼しました!」

 

私は慌てて頭を下げると、エースコーポレーションを後にした。

 

 

 

 

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