妄想小説Walk第84話

「ゆかさん、大丈夫でしょうか・・・?」

 

私はゆかさんの具合が気になり、きえさんにそう話しかけた。

現在私はきえさんに車で会社まで送ってもらっている所である。

 

「八乙女さんがいるから大丈夫です!」

 

きえさんは自信満々にそう言う。

 

「そっか。そうですよね」

 

八乙女くんがついているから、きっと大丈夫。

うん。そうだ。

 

「八乙女さんはゆかちゃんの元気の源ですからね!昔は震えてたのに(笑)」

 

何かを思い出したのか、そう言いながら笑っているきえさん。

 

「震えてた?」

「そう(笑) 初めて八乙女さん、ゆかちゃん、薮様、私の4人で食事に行った日なんてひどくて!ゆかちゃん、ご飯食べてる間もずっと震えてるんですよ(笑)」

「えー!!」

「本当、様子がおかしかった(笑)」

「あはははは!」

 

そんなに震えてたなんて(笑)

笑っちゃいけないんだろうけど笑ってしまう(笑)

 

「そのあとカラオケに行ったんですけど、ゆかちゃん、八乙女さんの横に座ってるのに、私の袖をギュッとつかんで「ヤバい。かっこいい。どうしよう」ってブツブツ言いながら震えてるんです(笑)」

 

確かにそれは様子がおかしい(笑)

 

「八乙女くん、そんなにカッコよかったんですか?」

「どうなんでしょう?「薮、歌うまいんだよー」ってニコニコしながら言ってました」

 

 

あー何か想像つくなー(笑)

かっこいいというよりは可愛い方な気がするけど。

 

そして、おそらく八乙女くんの放った言葉は全てひらがな。

 

”やぶ、うたうまいんだよー”

 

・・・うん(笑)可愛い(笑)

しっくりくる(笑)

 

 

「薮様は「やめろよ!光!ハードル上げんな!」って言いながらスタンドマイク持って歌われたんですけど、めちゃくちゃうまくて!」

「へー!」

 

薮さん、歌上手なんだ!

 

「私、本当びっくりしちゃって。歌うたう時は何かのスイッチが入るみたいで、本当カッコよくて!」

「そうなんですね!」

「八乙女さんが何か言ってたけど、私は驚きすぎて何も聞こえないし、ゆかちゃんはずっと震えてるし」

 

それはなかなかな光景(笑)

 

「当時は八乙女さんが「なにうたう?」って聞いても震えていたゆかちゃんが、今は八乙女さんがいるだけで安心するみたいです」

 

 

何かものすごく可愛いエピソード♪

 

きっと、八乙女くんはそんなゆかさんと一緒にいられて幸せなんだな。

会社でゆかさんの話をしてる時、ずっとニコニコしてるもん。

 

 

私がそんな八乙女くんの笑顔を思い出して微笑ましい気持ちになっていたら。

 

「そう言えば薮様が歌い終わって私の横に座る時に「うまいでしょ?」ってふにゃり笑顔で言われて。私はそこで薮様の事をお慕い申し上げるようになったんだよな・・・」

 

きえさんが何やらブツブツ言いだした。

 

 

さっきから気にはなっていたけれど。

 

 

薮様

ふにゃり笑顔

お慕い申し上げる

 

 

ツッコミどころ満載過ぎてもう・・・(笑)

 

 

 

 

私がそんなことを考えていたら。

 

「・・・しんどい・・・」

 

きえさんはひとりごとのようにそうつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

・・・しんどい、かあ・・・。

私も有岡くんの事を想うと「しんどい」時がある。

 

 

 

 

「「しんどい」ですか?」

 

何となく、私がそう質問するときえさんは一瞬驚いた顔をしたが、私に声が聞こえてる事に気づいたようで少し考えた後で口を開く。

 

「んーーーーでも慣れたかも」

「え、慣れたんですか?」

「はい。一時期、しんどいを超えられない。しんどいの向こう側に行きたい。って思ってたんですが、しんどすぎてもう慣れちゃいました」

「慣れるんだ・・・」

 

何か、よくわからないけど、すごい。

 

 

 

 

 

 

・・・ん?

でも待って。

しんどいを超えるって何???

しんどいの向こう側ってどこ????

 

とりあえず、しんど過ぎると「慣れる」らしい・・・

やっぱり、何か、すごい。

 

 

 

 

 

「まゆみさんは「しんどい」ですか?」

「え?」

「好きな人いないんですか?」

 

質問の意味が分からずキョトンとしてしまった私にきえさんはそう質問しなおして下さる。

 

 

そっか。

”お慕い申し上げる”のは”薮様”のみに使われる言葉なんだな。

 

 

「・・・います」

「いるんだ!」

 

私の言葉にきえさんは嬉しそうにそう言うと、言葉を続ける。

 

「「しんどい」ですか?」

「えっ・・・ああ・・・」

 

有岡くんの顔が頭の中に浮かぶ。

 

 

 

・・・有岡くん。

今何を考えてるんだろう。

私は、どうすればいいんだろう・・・。

 

 

 

 

「・・・「しんどい」・・・です・・・」

 

有岡くんの事を考えると、胸が締め付けられるような感じがする。

それが、きっと、「しんどい」っていう事なんだと思う。

 

 

 

そんなことを思いながら質問に答えたら、なぜかきえさんは笑いながら言った。

 

「人の「しんどい」って面白いですね(笑)」

「面白いですか?」

「ごめんなさい、面白いです(笑)」

「・・・そっか(笑)」

 

面白いんだ。

でも、そうやって笑ってもらえた方がいいかも。

ちょっと楽になれる。

 

そこまで深刻に考えなくても、時間が解決してくれることなのかもしれないな。

そう思う事が出来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「送って頂いてありがとうございました」

 

会社の前に着いて、車を降りる時に私はきえさんにお礼を言った。

 

「いえいえ。では、失礼します」

 

きえさんはそう言って頭を下げる。

私も頭を下げてドアを閉め、走り去る車の後姿を見送った。

 

 

 

 

 

 

さて。

仕事に戻らなきゃ。

 

そう思った時、LINEの着信音が鳴った。

スマホの画面を開く。

 

・・・山田さんだ。

 

 

 

 

”俺、でっかいプロジェクトを任せてもらえるかも!”

 

文面からテンションが上がってるのがわかる(笑)

すっごい嬉しくて、思わずLINEしちゃったのかな?

可愛いな(笑)

 

 

”そうなんだ!今度詳しい話聞かせてね!”

 

私はそう返信してから会社に戻ったのだった。

 

 

 

 

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