妄想小説Walk第83話

「光!ゆかちゃん具合悪いみたいなんだ」

 

打ち合わせで八乙女くんと㈱帝王に出向いているのだが、㈱帝王に到着した途端、薮さんがそう言った。

 

「え!?」

「病院に連れて行ってあげて」

 

薮さんは八乙女くんにそう言った後、私に

 

「まゆみさんごめん!今日の打ち合わせは中止でいい?」

 

と問う。

 

「もちろんです!八乙女くん、私の事は気にせずゆかさんを病院へ!」

「まゆみさん、ありがとう!」

 

 

 

八乙女くんは足早にゆかさんの元へ。

ゆかさんはソファでぐったりしている。

 

 

「ゆかちゃん」

 

八乙女くんが優しく声をかけると、ゆかさんはゆっくりと顔を上げた。

 

「・・・八乙女くん・・・」

「大丈夫?」

「・・・大丈夫じゃないかも・・・」

 

ゆかさん、顔が青白い・・・

本当は話すのもつらいんじゃないかな・・・

 

「ちょっとだけ我慢してね」

 

八乙女くんはそう言うと、ゆかさんをお姫様抱っこして

 

「ごめんまゆみさん、車のドア開けてもらってもいい?」

 

と私に声をかけた。

 

「あ、うん!」

 

私は慌てて八乙女くんの後をついて行く。

それから車に到着するタイミングで車の助手席のドアを開けた。

 

「ありがとう」

 

八乙女くんはゆかさんを優しく助手席に座らせて、支えながらシートを倒す。

そして。

 

「ゆかちゃん、病院に行くからね。ドア閉めるよ」

 

ゆかさんに優しく声をかけてから車のドアを閉める。

 

「まゆみさん、ごめん、ちょっと行ってくるね」

「うん!気を付けてね!」

 

私はそう言いながら八乙女くんに車の鍵を渡す。

 

「ありがとう!」

 

八乙女くんはそれを受け取ると、運転席に乗り込み車を発進させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かすごいかっこよかったな八乙女くん・・・

 

最近やたら頼もしいのは何故なんだろう。

あんな細いのにゆかさんを軽々と抱きかかえてた。

かっこいいにもほどがある。

 

 

 

 

 

「まゆみさん、ありがとね」

 

そんなことを考えながら走り去った車を見送っていたら、薮さんにそう言われた。

 

「いえいえ」

「会社まできえちゃんが送るよ」

「えっいいんですか?」

「うん」

 

薮さんは私の言葉にうなずくと

 

「きえちゃん、場所わかるよね?」

 

ときえさんの方に振り返った。

 

「はい、多分」

「そういえば昔、俺、服と荷物一式ジムに忘れちゃって。光の会社できえちゃんに電話で怒られたよね(笑)」

「あーありましたねー!(笑)」

 

薮さん、きえさんに電話で「人様の会社にジャージで行くなんて!」とかなんとか言って怒られてて(笑)

その声が丸聞こえだったっけ(笑)

 

何か懐かしいな(笑)

 

「最近きえちゃん俺の事全然怒ってくんないんだよ」

 

薮さんは私に向かってそう言うと、きえさんに向かって

 

「前みたいにさ、ちゃんと怒ってよ」

 

と言う。

 

「え!前は怒ってたの!?」

 

きえさんは覚えていないのか、驚いた顔をしている。

確かに、あの頃と今とじゃあ別人格だ。

 

「俺、よく怒られてたんだよ」

 

そんなきえさんに薮さんはそう言ってふにゃりと笑う。

その笑顔を見てきえさんは

 

「その笑顔・・・ずるい・・・」

 

ぽつりとつぶやいた。

 

「笑うと目がなくなっちゃうから嫌なんだよね」

 

薮さんはそう言いながらもまたふにゃりと笑う。

確かに、目がなくなっちゃうけど、すごくかわいらしい笑顔だ。

 

「だからその笑顔、ずるい」

「え?何がずるいの?」

 

きえさんの言葉に何らかのスイッチが入ってしまったようで、急に帝王顔できえさんを見つめつつ、そのままきえさんの顔に自分の顔を近づけていく薮さん。

 

「えっ・・・その・・・」

「俺の笑顔の、どんなところがどうずるいの?」

「えっと・・・あの・・・」

 

 

 

・・・何だろう。これ。

 

 

 

「具体的にどうずるいか言えないんだったら俺の事どう思ってるか言ってよ」

 

薮さん。そう言ってきえさんに詰め寄る。

 

「え!?ここでですか!?」

「うん、ここで」

 

薮さん、ニヤニヤしてる。

 

「えーーー!?」

「ほら早く!俺の事?」

「や、薮様の事・・・」

「聞こえないな」

 

声が小さくなってしまっているきえさんに追い打ちをかける薮さん。

それに、小さくなりながらも

 

「す、好きです・・・」

 

と言うきえさん。

しかし、声が小さいと満足できなかったのか、帝王様は

 

「え?」

 

と更に追い詰める。

 

「す、好きです!」

 

きえさんが必死で大きな声でそう言うと

 

「俺もだよ」

 

薮さんはそう言ってふにゃりと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

私は何を見せられているんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、思っていたら。

 

 

「まゆみさん、おまたせ」

 

急に薮さんが私の方を向いて笑顔でそう言った。

 

「あ、ありがとうございます。でも・・・」

 

私は薮さんの後方で腰砕けになって座り込んでいるきえさんを見ながらそう言う。

 

「あれ?きえちゃんどうしたの?」

 

きえさんの姿を見てそういう薮さん。

 

 

・・・いや、あなたがそうさせたんですよ・・・

 

 

 

 

 

 

「しんどい・・・」

 

座り込んだまま、きえさんはニヤニヤしながらそうつぶやく。

これはしばらく動けなさそうだ。

 

「あの、私、電車で帰ります」

「いや、大丈夫です!送ります!」

 

思わず言った私の言葉にきえさんはいきなりシャキッと立ち上がりそう言うと歩き出す。

 

「あ・・・ありがとうございます・・・」

 

私はそれについて行くしかなかった。

 

 

 

 

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