妄想小説Walk第82話

「何か今日うわの空だね」

 

食事をしている最中、山田さんにそんなことを言われた。

 

「・・・え・・・?」

「俺といるの、そんなにつまんない?」

 

少し悲しそうな顔で山田さんが言う。

 

「え!?ううん!全然そんなつもりない!ごめん!楽しいよ!」

「まゆみさん」

 

慌てて否定する私に山田さんはそう言い、言葉を続ける。

 

「ごまかさなくてもいいよ。・・・彼と何かあった・・・?」

「えっ・・・」

「やっぱり。何言われたの?」

 

私の様子を見て何かを察したらしい山田さん。

 

・・・というか・・・。

本当に山田さんにはお見通しなんだな・・・。

だったら、隠してもしょうがない。

 

「いや、言われたっていうか・・・よくわかんないんだけどさ・・・」

「うん」

「山田さんと食事するのやめろって言われて・・・」

「うん」

「そんなこと言う人じゃないから、戸惑っちゃってた」

「・・・・」

 

私の話を聞いて黙り込む山田さん。

 

・・・しまった。

言うべきじゃなかったか・・・

 

「ごめん・・・気分悪いよね・・・本当、ごめん・・・」

「ううん」

 

私の言葉に山田さんは優しく首を横に振るとつぶやいた。

 

「悔しいけど・・・うらやましいな」

「え・・・」

「まゆみさんの中から彼はなかなか消えないからさ」

「・・・」

 

・・・否定できない。

どうしても、有岡くんの事が気になってしまう。

 

「でも、いつか消してやる。だから、安心して」

「え・・・」

「安心して、俺についてこい」

 

山田さんは真っすぐに私を見てそう言うとすぐに笑顔になって

 

「なんてね」

 

と言った。

そして、続ける。

 

「無理やり消そうと思っても消えないだろうから、焦らず待つよ」

「!」

 

何て・・・何て優しいんだろう・・・。

 

「・・・何か・・・本当・・・ありがとう・・・」

 

今は、それしか言えない。

言えないけど、本当に心から、ありがとう、って思った。

 

「いいから、食べよ!」

「・・・うん」

 

 

 

私は、山田さんを傷つけるようなことをしてはいけない。

ちゃんと、山田さんの気持ちに向き合わなくちゃ。

 

 

ちゃんと、自分の気持ちにけりを付けなくちゃ。

 

 

 

私は、そんなことを思っていた。

 

 

 

 

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