妄想小説Walk第78話
夜。
寝る前。
私は部屋を暗くして、山田さんに頂いたキャンドルに火を灯した。
炎とともに甘いイチゴの香りが広がっていく。
・・・今日は、驚いちゃったな・・・
まさか、山田さんがあんなことを言って下さるなんて・・・
驚いた。
すごく驚いた。
けど。
・・・嬉しかった。
はっきり「好き」だと言ってもらえることがこんなにも嬉しいなんて。
山田さんの優しさに甘えてしまいたくなる。
でも。
有岡くんの事が頭の中から消えないうちは、山田さんに溺れてしまうのは違う気がした。
それは、山田さんに失礼だ。
ちゃんと山田さんだけを見ていられるようになるまでは、山田さんの優しさには甘えられない。
山田さんだけを見ていられるようになるまでは・・・。
トゥルルル トゥルルル
そんなことを考えていたら電話が鳴った。
着信画面を見る。
・・・山田さんだ・・・
私は何事もなかった風を装って電話に出る。
「もしもし?」
「あ、まゆみさん?俺。涼介。」
山田さんの事を考えていたから、声を聞くとドキドキしてしまう。
「あ、うん・・・どうしたの?」
それでも平静を装って私はそう聞いてみる。
「今、何してた?」
「え・・・あの・・・ボーっとしてた(笑)」
山田さんに頂いたキャンドルに火をつけて、山田さんの事考えてた、なんて恥ずかしくて言えない。
「そうなんだ」
「うん・・・」
「あのさ・・・」
山田さんはそう言うと、一呼吸置いてから言葉を続ける。
「今日は驚かせてごめんね」
とても、とても優しい声だ。
「・・・ううん」
「俺、本気だから。それだけ言いたくて」
「・・・うん・・・ありがとう」
わかってる。
本気だって、ちゃんと伝わってる。
だからこそ、私も本気で向き合いたい。
「また・・・会ってくれる?・・・仕事以外で」
山田さんの言葉に私は「・・・うん」と答える。
私も、もっと山田さんの事が知りたい。
「よかったーー!!!!」
そんな私の返事を聞いてそう叫ぶ山田さん。
予想外のリアクションで驚いた。
「実はちょっと心配だったんだ。仕事以外ではもう会ってもらえないんじゃないかって」
「え・・・」
山田さんの言葉を聞いて私は何だか泣きそうになってしまった。
いつも自信満々に見える山田さんにそんな一面があったなんて。
そんな風に思ってくれるなんて。
私はちょっとキュンとしていた。
「じゃあ、最高のデートプランを用意するから、今度デートしようね」
「・・・うん」
何か、本当、何というか。
素直に嬉しかった。
「じゃあ、また連絡する」
「・・・うん」
「おやすみ」
山田さんの声が耳元で響く。
とても、とても優しい声。
私はそれに「おやすみ」と答えると電話を切った。