妄想小説Walk第64話
私は今、山田さんとタクシーに乗っている。
・・・前もあったな・・・。
私が貧血を起こした時も山田さんに送ってもらったんだった。
本当、お世話になりっぱなしだ・・・
「まゆみさん」
ふいに山田さんは私の名前を呼ぶと
「何かあったらいつでも電話して」
私の目をまっすぐ見つめながらそう言う。
吸い込まれそうなぐらい美しい・・・
「わかった?」
美しすぎて見とれてしまっている私に山田さんはそういい、小首をかしげる。
「はい・・・ありがとうございます・・・・」
そして、思わずうなずいてしまった私を見て「よし!」と満足そうに笑った。
・・・なんていい人なんだろう・・・
優しいし・・・美しいし・・・
本当、素敵な人だ・・・
「あ、その辺りで止めてください」
既に家の近所に着いてる事に気づいて私は慌てて運転手さんにそう言う。
ほどなくしてタクシーは止まった。
「山田さん、今日は本当にお世話になりました」
私はそう言って頭を下げる。
「今日はゆっくり休んで」
そんな私に山田さんはそう言って優しく微笑む。
「はい・・・本当、ありがとうございます」
「じゃあ、またね」
「はい、失礼します」
私はタクシーを降り、深々と頭を下げて走り去るタクシーを見送った。
家に帰った私はカバンを置いてソファに座る。
何か・・・今日は色々あったな・・・
何で2回も見ちゃったんだろう・・・
大きくため息をつく。
やっぱり頭の中によみがえるのは有岡くんとあの女の子の光景。
そして、有岡くんが私から目をそらし、背中を向けた、あの光景・・・
もう、無理。
涙が溢れてきて、目の前がぼやける。
有岡くんが私に背を向けた。
それが一番つらかった。
あの女の子はやっぱり彼女なのかな・・・
そう考えると、胸の奥に何かモヤモヤするものが生まれる。
きっと、これが嫉妬なのだろう。
有岡くんが選んだ子なんだから、きっと、いい子なはず。
そう思うけれど、どうしてもモヤモヤする。
私の中にこんなに嫉妬心があるなんて、思ってもみなかった。
・・・何やってんだろう・・・。
本当、私、何やってんだろう。
こんなにも、有岡くんが大好きなのに。
私はそれを伝えようともせずにいた。
嫌われるのが怖かった。
失うのが怖かった。
それなのに、こんなに嫉妬してるなんて。
自分が情けなくて、恥ずかしくなる。
全部、私のせいだ。
有岡くんの彼女になるための努力をしなかった、私のせい。
今日はとにかくたくさん泣こう。
泣いて、泣いて、泣きまくって、フラれて悲しい気持ち、辛い気持ちを涙と一緒に流すことにしよう。
そうすれば、きっと、明日には笑えるはず。
何事もなかったかのように、有岡くんに笑いかけられるはず。
私はそう信じて、体中の水分を全て出し切る勢いで号泣した。