妄想小説Walk第58話

今日は久々に部長にこっぴどく叱られた。

何であんな単純なミスに気が付かなかったんだろう・・・

自分が情けなくてしょうがない・・・・

 

 

 

 

 

 

あまりの情けなさに、今日はどうしてもまっすぐ家に帰る気になれなくて。

かといってどこかでご飯を食べる気にも、友達と会う気にもなれなくて。

私は何となく海に来ていた。

 

道路に面している所だと明るいけれど、砂浜のあたりまで来れば程よく暗くて。

人気もないし日常的な音にもほとんど触れずに済む。

家で一人で悶々と考えているよりはここで過ごしている方が何となくいいような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

過去の事を今更悔やんでいても仕方がないのはわかってるんだけど、今日は何だかやたらと落ち込んでしまっている。

 

 

 

 

 

 

あーあ。

何やってんだろ。

 

 

 

私は大きくため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

波の音がとても心地よい。

誰もいない・・・わけではない海。

 

 

私がここにきてしばらくしてから姿を現したその人は、私から少し離れた所に一人で座って、私と同じように海を眺めている。

 

とても。

とても見覚えのあるそのシルエット。

愛おしい愛おしいそのシルエット。

 

・・・によく似ている。

 

その人のシルエットは有岡くんにとてもよく似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・そんな訳ないよね。

そんな都合のいい話、あるわけない。

あまりにも落ち込み過ぎて有岡くんの幻が見えるなんてどうかしてる。

 

私は幻まで見てしまう自分に呆れながら、もう何度目だかわからないため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あー。

ダメだダメだ。

 

全部だめだ。

何もかもダメだ。

過去に戻って全部消しゴムで消して書き直せたらいいのに。

 

・・・って。

そんな出来もしない事考えてもしょうがないじゃん・・・

あーもう私何やってんだろう・・・

 

 

 

 

ネガティブな事しか頭の中に浮かんでこなくて、私は嫌になって自分の膝に頭を乗せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まゆみさん、大丈夫?」

 

その状態でしばらく動かずにいた私の耳元で急に有岡くんの優しい声が聞こえてきた。

背中には有岡くんの手のぬくもりを感じる。

 

「え・・・!?」

 

驚いて顔をあげると、そこには心配そうに私の顔をのぞきこむ有岡くんがいた。

 

・・・嘘でしょ。

 

「有岡くん・・・?」

「うん」

 

幻じゃなかったらしい・・・。

 

「え、どうしたの?何かすごい偶然だけど」

「海にパワーもらおうと思って来たらまゆみさんがいて。でも何かすごい落ち込んでるみたいだったから、後で声かけようと思って遠くに座ってみたんだけど、気づいたら頭伏せてるし、心配になって声かけちゃった」

 

私の言葉に有岡くんはそう言うと

 

「隣座っていい?」

 

と聞いてきた。

 

「うん、もちろん」

 

私がそういうと有岡くんは私の隣に腰掛ける。

 

・・・愛おしい。

有岡くんのぬくもり。

本当に優しい。

 

「俺、今日部長に怒られてちょっとへこんじゃってさ」

 

え。

 

「パワーもらおうと思ってここに来た」

 

同じだ。

私はパワーもらおうと思った訳じゃないけど。

有岡くんも部長に怒られてたんだ・・・。

 

「まゆみさんは?」

「実は私も部長に怒られて。何であんな単純なミスしちゃったんだろうって、何か落ち込んじゃって」

「え!?一緒!?」

「そうかも。でも私は何となく頭空っぽにしたくて来たんだけどね(笑) パワーもらうっていいかも」

「うん。元気になるよ」

 

そう言って笑う有岡くん。

 

「もう元気になったの?」

「うん。まゆみさんと同じことしてて何かテンション上がった(笑) 俺だけじゃないんだなって」

「そっか(笑) それは良かった(笑)」

 

有岡くんが元気になってくれてよかった。

やっぱり有岡くんには笑っててほしい。

 

「まゆみさんはもう大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」

「本当?」

「うん!」

 

本当はそうでもないけれど。

いつもなら有岡くんの笑顔見てるだけで元気になれるんだけど。

何だろう。

今日は何故だか気分が落ち込んだままだ。

 

でも、有岡くんが元気になったのなら余計な心配かけたくない。

そう思っていたら。

 

「嘘だね」

 

有岡くんの口から思いもよらない言葉が帰ってきて、私は面食らってしまった。

 

「え・・・・?」

「大丈夫じゃないでしょ」

「え・・・何で?大丈夫だよ・・・?」

 

あまりにもはっきりと言われて、驚きと同様で私の声も段々小さくなる。

 

「だから俺に嘘つかないで。まゆみさん、本当の事を言ってる時は「本当?」って聞くと「本当」って答えるんだよ」

「え」

 

そうなんですか?←

 

「さっきは「本当?」って聞いたら「うん」って言った。それって本当じゃないって事だよね」

「・・・。」

 

自覚はまるでありませんがそのとおりです・・・

 

「話してすっきりするなら聞くよ?」

「・・・」

 

有岡くんの気持ちはすごく嬉しいけど、話すほどの事じゃないし・・・

でも、せっかくの有岡くんの優しさを無下にも出来ないし。

どこから話せばいいかな・・・

 

そんなことを考えていたら。

 

「そんなに俺って頼りない?」

 

有岡くんにそんなことを言わせてしまった。

 

「え!?何で!?そんなことないよ!!!」

 

すごく優しくて頼りがいのある人です有岡くんは!!!

 

「本当?」

「本当!!・・・あ」

 

本当だ。

私、本当の時は「本当」って言ってるんだ・・・

そんな私の口癖に気づいてくれてるんだ・・・

 

 

どうしよう。

好き←

 

 

 

 

「ね?本当の時は「本当」って言ってるでしょ?」

「そうみたいだね(笑) 」

「そうなんだよ」

 

そういってドヤ顔の有岡くん(笑)

急に可愛い(笑)

 

「でも、本当に有岡くんはすごく優しくて頼りがいのある人だと思ってるからね!」

 

これだけは、ちゃんと伝えておきたい。

有岡くんには何度も助けてもらってる。

 

「あ・・・ありがとう」

 

有岡くんは少し照れくさそうにそう言うと

 

「で、何があったの?」

 

と話を続けた。

 

「えーっと・・・」

 

 

私は最近ちょっとしたミスを繰り返してしまっていること。

それが原因で部長に怒られたこと。

何度も繰り返してしまっている自分が情けなくて、やたら落ち込んでしまっていることを話した。

 

 

「ごめんね。話すほどの事でもないんだけど」

「ううん、びっくりしてる。俺も似たような事で怒られた」

「え、そうなの?」

「うん。へこむよね(笑) 」

「うん、へこむ(笑) 」

 

でも、有岡くんと同じって聞くと何だかちょっと元気が出てきた。

単純だな、私。

 

「もう大丈夫そうだね」

 

私の様子を見て有岡くんはそう言う。

 

「うん、元気出てきた」

 

私も笑顔でそういう。

 

「本当?」

「本当!」

 

有岡くんと私はそう言うと笑いあう。

こういうの、嬉しい。

 

「俺もう行かなきゃ」

「えっ何か用事があったの?」

「うん、ちょっと」

「えっごめん!」

「大丈夫!じゃあまたね!」

「ありがとう!本当にありがとう」

 

私はそう言って有岡くんの背中を見送った。

 

 

 

用事があったのに話聞いてくれてたなんて。

本当に、なんて優しい人なんだろう。

 

本当に、本当に大好きで、大事な人だ。

 

 

 

私は有岡くんの存在の大きさと、有岡くんへの気持ちを再確認した。

 

 

 

 

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