妄想小説Walk第59話

「まゆみさん、終わった?」

 

仕事が終わって片付けていたら有岡くんが私のデスクまで迎えに来てくれた。

今日は有岡くんと髙木くんと八乙女くんとジムに行くことになっている。

 

「うん、待たせてごめんね」

「大丈夫だよ。行こ」

「うん」

 

優しいな。有岡くんは。

 

 

 

 

駐車場に着くと、有岡くんの車の後部座席に座っている髙木くんと八乙女くんの姿が見えた。

 

「髙木くん八乙女くん、待たせてごめんね」

 

私は車のドアを開けて、まずお詫び。

 

「もーーーー遅いよまゆみさんーーーー!」

 

八乙女くんが大げさにそう言って見せる。

冗談だってのはすぐわかる。

 

「ごめんごめん(笑)」

「有岡、早く車出せよーーー」

「あーごめんごめん」

 

八乙女くんのウザ絡みに有岡くんは乗っかってわざと軽めに言う。

それに八乙女くんが

 

「おい俺先輩だぞーーー」

 

と、先輩風を吹かせる。

 

 

この件。

最近八乙女くんのお気に入りらしく、よくやってるのを見かける。

髙木くんはそれをニコニコしながら見てる事が多い。

その3人の感じがすごく微笑ましいから、私はそれを見てるのが好きだ。

 

 

 

 

 

「ねぇ、聞いてよ。俺、ゆかちゃんを「今日一緒にプール行かない?」って誘ったんだけどさ。「プールが鼻血で染まるから無理」って断られたんだよ。意味わかんなくない?」

 

車が動きだすと八乙女くんは今度はゆかさんの話をし始めた。

愚痴っぽく言ってるけれど、とても嬉しそうに見える。

 

八乙女くんはどんな時でも、彼女の話をする時はニヤニヤしてる。

本当にゆかさんの事が好きなんだろうな。

 

「ゆかちゃん、面白いな」

 

八乙女くんののろけ話を髙木くんは楽しそうに聞いてあげている。

 

やっぱり髙木くんも優しい人。

・・・というか、結局3人ともすごく優しい人だよね。

 

 

「今日は八乙女くんはプールの方?」

 

私は八乙女くんに聞いてみる。

 

ジムにはトレーニングマシンやプールなど、様々な設備が整っていて、その日の気分で好きなトレーニングが出来るようになっている。

 

「うん。俺ら3人プール。まゆみさんは?」

「私は今日はランニングマシンにしようかな」

 

泳ぐのは好きなんだけど、まだ3人の前で水着になる勇気がない私。

 

「そっか。じゃあトレーニング終わって風呂入った後で合流する?」

「うん、そうしようか」

 

髙木くんの言葉に私は同意した。

 

ジムには大浴場まであるから、汗を大量にかいてもお風呂に入ってさっぱりして家に帰ることが出来る。

本当、よく出来てる。

 

 

 

 

 

 

「じゃ、また後でね」

 

ジムに着くと私は3人と一旦別れ、ランニングマシーンへと向かった。

 

 

 

 

 

 

ランニングマシーンが並んでいるフロアについて周りを見渡す。

 

 

・・・結構混んでる。

 

 

隣に人がいない方がいいんだけど、空いてないからしょうがない。

私は、1人の女性の隣で走ることにした。

 

 

 

 

 

備え付けの小さなモニターではコメディドラマが流れている。

イヤホンを付ければ音声も楽しめる。

飽きないように、と工夫されているのだろう。

本当、よく出来てる。

 

私はとりあえずイヤホンを耳に装着し、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あははは!」

 

やば。

コメディドラマを見ていて面白かったから思わず声に出して笑ってしまった。

でも、隣の女性も同じドラマを見ていて、同じところで笑っている。

 

よかった。

ご迷惑になってないみたいだ。

 

 

 

・・・にしても、このドラマ面白くて、笑いをこらえるのが大変だ。

つい吹き出してしまう。

 

だけど、隣の女性も同じみたいで、同じシーンで吹き出している。

どうやら、笑いのツボが同じらしい。

その後も私たちは同じところで笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラマが終わると私たちはイヤホンを外して、お互いにお互いを見ていた。

 

「どうやら笑いのツボが似てますね(笑)」

 

隣の女性が笑顔で言う。

 

「ですね(笑)」

 

同じところで笑ってたもんね(笑)

 

「初めて会った気がしない(笑)」

「本当(笑)」

 

女性の言葉に同意する私。

初めて会ったのに、しかも、今、初めて言葉を交わしたのに、初めて会った気がしなかった。

 

 

 

「この後どうするの?」

 

もはや敬語ですらない私。

 

「お風呂に入ろうと思ってる」

「あ、私も」

「じゃ一緒に行く?」

「うん、行く」

 

割と長年連れ添った友達のように私たちは気軽にそう言い、大浴場へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、私、まゆみといいます。お名前教えてもらってもいいですか?」

 

ここで初めて自己紹介。

 

「あ、ちよこです。え。まゆみさんってもしかして雄也の会社の?」

「え。ちよこさんって髙木くんの?」

 

その女性は髙木くんの彼女のちよこさんだった。

 

「えー!?」

 

ものすごい偶然に二人して絶叫。

そして。

 

「いつも雄也がお世話になってます」

「いえいえこちらこそ髙木くんには本当にたくさん助けて頂いてます」

 

お互いの素性を知った私たちは2人してペコペコ頭を下げまくる。

それから、笑いあった。

 

「そっか。だから初めて会った気がしなかったのかな。雄也からまゆみさんの話たくさん聞いてたから」

「そうかも。私もちよこさんの話聞いてたし・・・」

 

・・・ん?私の話をたくさん・・・?

 

「え、髙木くんいったい何を・・・」

「ありおかく・・・」

「あーーーーー!!!!!!ですよね!ですよね!ですよね!ありがとう!!」

 

私は慌ててちよこさんの話をさえぎった。

 

危なかった。

どこで有岡くんに遭遇するかわからない。

 

「え、ありおか・・・・」

「わーーーー!!!!!うん!!そうね!!大丈夫!!ありがとう!!」

 

その後もちょいちょい真顔で仕掛けてくるちよこさんの話を全力でさえぎりながら、私たちは大浴場へと向かったのだった。

 

 

 

 

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