妄想小説Walk第54話

「お疲れ!」

 

ひょこっと効果音が鳴りそうなぐらい可愛く私の顔をのぞきこんで有岡くんは言う。

その顔は、残業している私の心に癒しとして刺さりまくり、思わず笑顔になる私。

 

「有岡くん!お疲れ!」

「まだいたんだ」

「うん、明日の会議の資料作りが終わんなくて」

 

明日、エースコーポレーションとの取引についてのプレゼンを急きょすることになった。

このプレゼンによってエースコーポレーションと取引が出来るかどうかが決まるから、資料作りもつい念入りになってしまう。

 

山田さんにはお世話になったから、出来るだけ山田さんの意向に沿う形で取引がしたい。

 

 

「まだ終わんなさそう?」

「うん、もうちょっとかかりそう」

「そっか・・・。」

 

私の言葉を聞いて何かを考えてる素振りの有岡くん。

やがておもむろに口を開くと

 

「俺さ、今日一人でご飯食べる気になんなくてさ。一緒に食べてくんない?その代わり、終わるまで手伝うからさ」

 

と言った。

 

「えっ」

 

何かカッコイイんですけど!!!!!!

私にとって得しかないし!

助かるけど、本当にいいのかな?

 

「いいの?」

「もちろん」

 

ねぇ。ちょっと。本当にもう。

 

「何かカッコイイね」

 

思いがあふれ出して思わず口に出てしまう。

それを聞いて有岡くんは少しニヤッとすると

 

「カッコイイっしょ」

 

と言うが、全然こちらを見ようとしない。

心なしか顔が赤いみたい。

どうやら照れているようだ。

 

 

 

 

 

・・・なんて可愛いんだ・・・

 

 

 

 

 

どれだけ好きにさせれば気が済むんですか・・・

本当、沼ですよ、沼。

 

 

 

 

「・・・ばいいの?」

 

有岡くんの照れた横顔に見とれて自分の世界に入り込んでいた私。

そんな私を現実に呼び戻したのは有岡くんの声だった。

 

しまった。

ほぼほぼ聞き逃した。

 

「ん?」

「これをまとめていけばいいの?」

「あ、うん、そう。お願いしていい?」

「もちろん」

 

そういって腕まくりをする有岡くん。

やる気満々だ。

 

「ありがとう」

 

そんな有岡くんに私は感謝の言葉を述べると有岡くんの真似をして腕まくり。

私も有岡くんを見習って早く仕事を終わらせなきゃね。

 

 

それから私たちは役割分担しつつ2人で仕事を片付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かんぱーい!!!」

 

あれから1時間ほどで資料作りを終えた私たちはそそくさと会社を後にし、食事に出掛けた。

終わった嬉しさもあったのかちょっとテンション高めにまずは乾杯。

 

あー今日もビールが美味しい!!

 

 

「有岡くん、本当にありがとう!おかげで早く帰れた♪」

「ううん、俺も一人でご飯食べたくなかったから助かった!ありがとう!」

 

何それ。

本当もういい人過ぎて泣けてくる。

好き←

 

「とりあえず乾杯」

 

何だか嬉しくて、勝手に有岡くんのグラスに自分のグラスを重ねて乾杯してしまう。

それに有岡くんも笑顔で

 

「乾杯」

 

と合わせてくれる。

 

困る。

好き←

 

 

それから私たちは本当にたわいもない事を話した。

いつも思うんだけど、こういう、明日には忘れてしまいそうな、たわいもない話で盛り上がれる関係性が愛おしい。

 

こんな時間がいつまでも続くといいのにな・・・

そう思っていたら。

 

「ねえ。まゆみさんさ。運動したいでしょ?」

 

有岡くんが急にそんなことを言いだした。

 

「え?」

「運動したいんじゃない?」

「なに急に」

「一緒にジムに通おうよ」

 

一緒に、と言われたら答えはひとつしかない。

 

「いいけど、どうしたの?」

 

答えはひとつだけど、理由は気になる。

そんなお年頃。

 

「体鍛えたいなーと思って調べてたら、知念のお父さんがスポーツジムを経営してるって知ってさ。だったらみんなで通いたいなって」

 

あ・・・みんなで、ね。

そっか。

てことは。

 

「じゃあ髙木くんと八乙女くんも誘ってるの?」

「うん」

 

ですよね。

 

「これでみんなで一緒に通えるね!」

 

私の気持ちをよそに有岡くんは嬉しそうに笑ってる。

 

・・・ずるい。

いつもこの笑顔にやられるんだ。

何かあったとしても、この笑顔を見てたらもう何もかもどうでもよくなってしまう。

 

本当、有岡くんが笑っててくれれば、それでいい。

 

「有岡くんはもう申し込んだの?」

「ううん、まだ。一緒にいこ」

「うん」

 

一緒にいこ

 

この響き、何か好き。

何か嬉しい。

 

「なにニヤニヤしてんの?」

 

普通に聞いてくる有岡くん。

いや、あなたのせいですよ、とも言えず。

 

「え、してないよ」

 

とりあえずそらとぼけてみる。

 

「してるよ」

 

でもすぐにつかまる。

 

「してる?」

 

もう一回そらとぼけてみる。

 

「してる」

 

大きくうなずく有岡くん。

 

「そっか・・・」

「なんだよ(笑)」

 

一旦かみしめた私を見ておかしくなったのか、有岡くんは笑いながらそう言った。

 

 

 

 

・・・どうしよう。

幸せだ。

こんなにも私を幸せにしてくれる笑顔が他にあるだろうか。

 

そして、やっぱりこういうたわいもない会話が出来る関係性でいられることに感謝だ。

神様、ありがとう。

 

 

 

それからも有岡くんは私が色々こじらせていることも知らずに、いつものように楽しそうに話をする。

そして、お腹もいっぱいになった頃、私たちは帰路に着いた。

 

 

有岡くんにいっぱいパワーもらったし。

私も明日のプレゼン、頑張らなきゃ!

 

 

 

 

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