妄想小説Walk第96話
今、有岡くんは「今日そばにいるからね」って言ったよね・・・?
それって・・・
おいしそうにご飯を食べている有岡くんを見ながら色々考えてしまう私。
抑え込んでいた気持ちがまた復活してしまいそうな気がした。
ちょっと・・・怖い。
また好きになってしまうと、有岡くんが離れて行ってしまいそうで怖かった。
今の私は、それを受け入れられる自信がない。
「・・・大丈夫?」
「え」
「すごい顔してるけど」
気づいたら有岡くんに心配そうな顔でのぞきこまれていた。
相当おかしな顔をしていたらしい。
「えっどんな顔してたんだろう私(笑) ごめん(笑) 大丈夫だから(笑)」
慌てて笑顔で取り繕う私。
勝手に色々想像して、勝手に怖がってしまっている事を悟られたくなかった。
「本当?」
「うん!」
「・・・そうだよな。大丈夫じゃないよな。」
「えっ」
有岡くんの言葉に笑顔でうなずいた私を見て有岡くんは何かを感じたようだ。
・・・そうだった。
有岡くんには取り繕ってもバレてしまうんだった。
「・・・うん、さすがに大丈夫じゃないや(笑) 」
私は取り繕うのをやめて本当の気持ちを伝えることにした。
「まゆみさんは透けてるイケメンと付き合ってたの?」
「えっ」
突然の有岡くんの質問に驚く。
「どうなの?」
「いや、付き合ってません・・・」
「本当?」
「本当。」
「デートしてたんじゃないの?」
有岡くんの追及は続く。
「してた」
「透けてるイケメンは何も言わなかったの?」
「・・・」
何も言わなかったの?と聞かれて、思わず固まってしまう。
私は最後に会った時に、消えそうな声で「ごめんね」と言われたことを思い出していた。
山田さんは私の事を好きだと言ってくれていた。
でも、それは本心だったんだろうか。
「・・・私の事、好きだって言ってくれてた。だから次に会った時は付き合って下さいって言おうと思ってた。本当、バカだよね、私。」
「えっ」
有岡くんは驚いた顔をしている。
「だよね(笑) 冗談を真に受けちゃって(笑) 本当バカ(笑) あんなイケメンが私の事なんて好きになる訳ないのにね(笑) 」
有岡くんが驚くほどバカだって事だ私。
本当、どうしようもないな・・・
「まゆみさん」
「ん?」
「自分の事、そんな風に言わないで。俺が悲しくなる。」
有岡くんは悲しそうな顔をしてそう言う。
そして、続ける。
「まゆみさんは素敵な人だよ。多分、透けてるイケメンは本当にまゆみさんの事が好きだった。何か事情があって、今は連絡が取れないだけだって」
「・・・」
有岡くん・・・優しい・・・
こんなバカな私を励ましてくれるんだ・・・
そう言えば、山田さんにも言われたことがある。
「自分の事、ゴミって言うな」って。
・・・ダメだ。
自分の感情がよくわからない。
気がついたら、私の目からは涙が溢れていた。
「ああ・・・もう何だろう本当。ごめん、すぐ止めるから」
私が涙を拭きながらそう言った次の瞬間。
「!?」
私は有岡くんに抱きしめられていた。
「止めなくていいよ。ほら。こうしてれば俺には見えないからさ」
「有岡くん・・・」
有岡くんの優しい声。
ぬくもり。
気遣い。
全てが嬉しかった。
「頑張ったね」
有岡くんは穏やかな声でそう言うと、私を抱きしめたまま頭をポンポンっとした。
・・・無理。
私の涙腺は音を立てて崩壊。
私はしばらく有岡くんの胸の中で泣き続けていた。
どのぐらい泣き続けていたのだろう。
わからないけど、結構長い時間泣き続けてしまっている私を有岡くんはずっと優しく抱きしめ続けてくれていた。
「有岡くん、ありがとう」
「大丈夫?」
「うん、もう大丈夫」
私はそううなずいて有岡くんの胸の中から離れた。
と、同時に、有岡くんの胸元が私の涙やら何やらでぐじょぐじょになってしまっている事に気づいた。
「ごめん・・・シャツ、ぐじょぐじょになっちゃったね・・・」
本当、申し訳なさすぎる・・・
しかし、有岡くんは
「うん、べちょっとする(笑) 」
と気にするそぶりもなく、笑いながらそう言ってくれる。
何て優しいんだろう。
「本当、ごめんね・・・」
私は頭を下げて謝った。
その時に、ふと、思い出した。
「そういえば、メンズのTシャツあるかも!着替える?」
「え、メンズのTシャツ?・・・もしかして、透けてるイケメンの・・・?」
変なところを勘ぐる有岡くん。
「違うよ(笑) 昔有岡くんが二枚あるからって一枚くれたやつだよ(笑) 覚えてない?」
「あれか!覚えてる!」
頭の上に電球が見えるんじゃないかってほどわかりやすい顔をして有岡くんはそう言い、「そっかぁ・・・あれかぁ・・・」と笑う。
「勘違いしてるみたいだけど、この家に入った男の人は有岡くんが初めてだからね(笑) 」
そんな有岡くんに私は思わずそんなことを言ってしまった。
・・・しまった。
言わなくてもいい事言ったな・・・
恥ずかしい・・・
と思ったが。
「俺が初めてなの?マジで?そうなんだ!へー!そっかー!」
有岡くんはそんなに気にしていないようだ。
「じゃあその、俺のTシャツ貸して!あとジャージとかない?ついでにシャワーも借りたい」
ついでにシャワーってなんなんだ(笑)
私はそう思いながら、有岡くんのTシャツと大きめのジャージをクローゼットに取りに行き、「はい」と有岡くんに渡した。
「ありがとう」
有岡くんはそう言うと迷うことなくバスルームに向かう。
さすが、家に勝手に上がり込んだ時に一通り歩き回っただけはある。
「あ、タオルはそこにあるの使っていいからね」
「え?どこ?」
思い出して叫んだ私の言葉に対してそう叫び返す有岡くん。
そっか。わかんないよね。
私はバスルームに向かい、迷うことなくドアを開けた。
!?
「ごごごごごごごめっごめん!!」
そこには上半身裸の有岡くんが。
慌てて謝る私。
「!?俺もごめん」
有岡くんは私に驚かれてびっくりしたのか、慌てて胸を隠しながら謝ってくる。
その仕草が何だか可愛くて笑ってしまう。
さっきの驚きもどこかへ行ってしまった。
てか、脱ぐの早すぎでしょ(笑)
「タオルはここね」
「うん」
「シャツ洗っとこうか?」
「うん、お願い」
私の提案に有岡くんはそう言うと、脱いだシャツとインナーを私に差し出す。
私はそれを受け取ると「じゃあ、ごゆっくり(笑)」と言ってバスルームを後にした。