妄想小説Walk2 エピソード7
「今日仕事終わってから何か予定ある?」
自分のデスクで仕事をしていたら、隣で同じように事務仕事をしていた山田さんからそう話しかけられた。
「えっ」
急に言われてもパッと思いつかないポンコツな私。
「多分ないと思うけど・・・」
今日は有岡くんも残業するって言ってたし、一緒に帰る約束もしていない。
「じゃあジムに行かない?」
一生懸命に脳を回転させている私に山田さんはそう言う。
「えっ」
・・・意外なところに誘われた。
「あまり行ってないでしょ」
驚いている私に山田さんからそんな一言が。
「うん」
何故ご存じなのでしょうか・・・
と思っていたら。
「実は、ジムの人にまゆみさんお元気ですか?って聞かれたんだよね(笑)」
あっさり答えを教えてもらえた。
「えっそうなの!?」
そんなに私行ってなかった!?
えっ何で山田さんにそんな事聞くの?????
ていうか山田さんってあのジムの会員だったんだっけ?????
私の頭の中は一気にたくさんの疑問でいっぱいになる。
「うん、だから今日俺と一緒に行こ」
「今日!?」
そんな急に言われても。
「着替え持ってきてないから無理・・・」
「着替えは買えばいいよね。買ってから行こう」
断ろうと発した私の言葉をさえぎって山田さんがそう言う。
「えっ」
「仕事終わったら声かけるね」
「え・・・」
何だか断りづらい・・・
どうしよう。
・・・と思っている私をよそに、山田さんは既に仕事に戻っている。
「・・・」
・・・ま、いっか。
たまには体を動かすのもいいのかも。
私は流れに身を任せることにした。
無事、仕事も終わり。
私は今、山田さんと買い物に来ている。
「ジムではいつもどんな服着てるの?」
山田さんが聞いてくる。
「Tシャツにジャージとかかな」
「あ、じゃあこれどう?」
私の答えを聞いて山田さんは一枚のTシャツを私に見せる。
普通におしゃれだ。
「あ、うん。いいかも」
「でしょ?じゃあこれに合わせるジャージは・・・てかスウェットとかどう?動きやすいよ」
「うん、いいと思う」
「だったら絶対これ!この組み合わせが最高だって」
いつの間にか、全てのコーディネートを山田さんがしてくれている。
意外とこういうことが好きなのかもしれない。
「うん、かっこいいね。試着してみるよ」
「うん。いってらっしゃい」
私は笑顔の山田さんに見送られ試着室へ入る。
着替えてみると、サイズもぴったりだ。
何か、普段の私とは全然違う。
大丈夫かなこれ・・・と思いながら私は試着室のカーテンを開けた。
「お!」
山田さんはすぐそこにいてくれたようで、私の姿を見ると嬉しそうに
「やっぱ似合う!それにしなよ!」
と笑顔を見せる。
「うん、じゃあこれにする」
そんなに笑顔で似合うって言ってもらえるならきっと大丈夫だろう。
私はそう思い、購入を決意した。
再び試着室に戻り、着替えを済ませ試着室を出ると、そこには店員さんがいらっしゃり、私が手に持っていた購入予定の服を預かってくれた。
「まゆみさん、行くよ」
と同時に山田さんから声をかけられる。
「えっ待って買ってくる」
私が慌ててそう言うと山田さんは「大丈夫」と言いながら私の手を掴んで店を出る。
「え!?」
全然大丈夫じゃないと思うんだけど・・・
私が戸惑っていたら、山田さんは立ち止まって振り返り
「ジムに行く前にちょっとカフェに寄りたいんだけどいいかな?」
と言った。
「えっ・・・いいけど・・・」
何だか話が変わってきた・・・何て思いつつ私がそう答えると。
「やった!ずっと行きたかったんだけど男一人じゃ入りづらくてさ!やっと行けるよ!ありがとう!!」
ものすごく嬉しそうに山田さんがはしゃぐので、まあいいかなって思ってしまった。
「カフェ好きなの?」
「大好き!でもなかなかいけないからすげー嬉しい!!」
山田さんはそう言いながら、掴んだままの私の手をブンブン振り回す。そして
「あっ!ごめん!痛かったよね?」
と慌てて掴んだ手を離してくれた。
「ううん大丈夫(笑)」
「ごめんね。ありがとう」
「ううん(笑)」
何か可愛い(笑)
有岡くんが「可愛いやつ」って言ってた意味が分かった気がする。
私はそんなことを思いながら、明らかに浮かれながら歩く山田さんの後ろをついて行った。
「うっま!!」
カフェで注文したパンケーキを頬張ると、山田さんはキラキラした目で嬉しそうにそう言った。
「本当、おいしそう(笑)」
あまりにもおいしそうに食べているので何だか微笑ましい気持ちになる。
「うまいよ!まゆみさんも早く食べなよ!」
「うん」
私もパンケーキを一口食べる。
「おいしい!!」
「でしょ!?念願のパンケーキ、マジうめー!!!」
何だか子供みたいな山田さん(笑)
本当、可愛い(笑)
そして、夢中で食べている姿も可愛い(笑)
ずるすぎる(笑)
「俺さぁ。まゆみさんには感謝してるんだよね」
急に真面目なトーンで話し出す山田さん。
「確かにパンケーキすごいおいしいけど、そんな大げさな(笑)」
「いやそうじゃなくて(笑)いや、それも感謝してるけど!そうじゃなくてさ(笑)」
「ん?(笑)」
「こうやって、俺に普通に接してくれる事が本当ありがたいなって」
「えっ・・・」
急に本当に真面目な話になって戸惑う私。
「俺、まゆみさんを騙してたのにさ。こうやって普通に接してくれるって本当すごいよ」
「・・・」
確かに、山田さんには騙されてた。
正直、今でも複雑な思いはある。
「・・・私、そんなに立派な人じゃないよ」
山田さんの思ってるような、立派な人じゃない。
「頑張ってる人は応援したいって思うだけで・・・」
山田さんは、頑張ってると思う。
だから、自然と受け入れられたんだと思う。
「・・・ありがとね」
私の言葉に山田さんはすごく優しい顔で微笑んでそう言った。
そして、すぐにふざけた口調で
「あ!これ、あげる!」
と私に紙袋に入った何かを手渡してくる。
「えっ」
この紙袋・・・
さっき買い物せずに出てきてしまったお店の・・・
まさか。
私はそっと中を確認する。
すると、そこには私が試着した洋服が入っていた。
あの時山田さんが「大丈夫」って言ってたのはこういうことだったんだ!
もう買ってるからお店を出ても大丈夫っていう・・・
「今日は遅くなっちゃったから、ジムはまた今度行こう。それ着て来てね」
「ええ!?お金払うよ!」
「いいよ(笑)今日は強引に連れて来ちゃったし。お詫びの意味も込めてプレゼントさせて」
「そんなお詫びなんて」
「とにかく!俺はプレゼントしたい気分なんだから、受け取って!」
・・・もうこれは受け取らないと収まらない空気だ。
私は観念して山田さんのご厚意に甘えることにした。
「・・・ありがとう」
「どういたしまして」
私の言葉に山田さんは満足げに微笑むと何事もなかったかのように、またとてもおいしそうにパンケーキを食べ始めたのだった。