妄想小説Walk2 エピソード8

今日は仕事終わりに髙木くんと待ち合わせ。

今から2人でご飯を食べる予定になっている。

 

髙木くんが最近よく行くお店に連れて行ってくれるって言ってたけど、髙木くんが通ってるお店ならおいしいのは間違いないから、すごく楽しみだ♪

 

 

 

「いらっしゃいませ!」

 

お店に入ると、そんな店員さんの明るい声が聞こえる。

内装もすごくおしゃれだ。

 

「さすが!おしゃれだね!」

「だろ?」

 

私の言葉に髙木くんも嬉しそうだ。

 

「あ!髙木先パイ!」

 

そんな時。

髙木くんが一人の店員さんに声をかけられた。

 

「あ、ひろちゃん」

「いらっしゃいませ!お部屋ご用意してありますのでこちらへどうぞ♪」

「ありがとう」

 

髙木くんに”ひろちゃん”と呼ばれた店員さんに案内され、私たちは個室に腰を落ち着ける。

 

 

個室を予約してあるとか、さすが髙木くん。

しかも後輩さんのいらっしゃるお店とか。

面倒見がいいのも髙木くんらしい。

 

 

「可愛らしい後輩さんだね」

 

私は何だか微笑ましい気分になりつつ、髙木くんにそう話しかけた。

すると。

 

「え?ひろちゃん?後輩じゃないよ」

 

そんな意外な答えが返ってきた。

 

「えっ」

 

どういうこと?

 

「髙木先パイって呼ばれてなかった?」

「呼ばれてる(笑)」

「でも後輩じゃないの?」

「じゃない(笑)」

「えっ」

 

・・・どういうこと????

 

混乱してる私を見て髙木くんは楽しそうに笑ってる。

 

「笑ってないで教えてよ(笑)」

「あーごめんごめん(笑)」

 

髙木くんは笑いながらそう言うと、言葉を続ける。

 

「何か、ジムで俺の事見かけて、勝手に”先輩設定”してたらしいんだよね」

「先輩設定??????」

 

なんじゃそりゃ・・・

 

「だから、俺がこの店に来た時から”髙木先パイ”って呼ばれてる」

「・・・よくわからないんですが・・・」

「うん(笑) 俺もわかんない(笑)」

「そっか(笑)」

 

とにかく、あんな可愛い顔して変わり者だという事だけはよくわかりました。

 

 

 

「お待たせしましたー!」

 

その、噂のひろさんがビールとおつまみを持って現れた。

 

すごい。

最初の一杯とおつまみがこんなに早く来るなんて。

 

「髙木先パイすごいんです。予約の時にここまで手配してるんです」

 

少し驚いている私の顔をみてひろさんが何故かドヤ顔でそういう。

 

でも確かに予約の時に最初の一杯とおつまみを手配してるとかすごい。

 

「さすがだね髙木くん」

「さすがなんです」

「そう?ありがと」

 

感心しまくりの私と、未だに何故かドヤ顔のひろさんに言われ、髙木くんはそう言うと微笑む。

それが嬉しかったのか、ひろさんは

 

「ごゆっくりどうぞ♪」

 

と弾んだ声で言うと、スキップで去っていった。

 

 

 

「面白い方だね(笑)」

「そうなんだよ(笑)」

 

私の言葉に髙木くんはそう言いながら自然にジョッキを私の方に差し出す。

私も自分のジョッキを持って髙木くんのジョッキに合わせ、自然に乾杯した。

 

わざわざ「乾杯」とか言葉を交わさなくても自然に乾杯できる関係性が好きだ。

 

 

 

「あーうめー♪」

 

おつまみを食べて嬉しそうな髙木くん。

 

「私も!」

 

私もおつまみを食べる。

 

「おいしい!!!」

「だろ?今度有岡と来ればいいよ」

「有岡くん・・・」

 

急に有岡くんの名前を出されて、私はちょっと戸惑ってしまった。

 

「は?お前何で戸惑ってんの?」

 

それを髙木くんにすぐさま察知される。

 

「いや、その。そういう訳じゃないんだけどさ」

「じゃどういうわけ?」

「んーっと・・・」

 

話をはぐらかそうかと思ったが、髙木くんにはそういうのが無駄だって私はよく知っている。

 

髙木くんはいつだってタイミングがよくて。

いつだって鋭い。

 

・・・しょうがない。

正直に話そう。

 

私は覚悟を決めて話し出した。

 

 

「私・・・有岡くんを自分からどこかに誘えないんだよね・・・」

「何で?」

 

不思議そうな髙木くん。

 

「何でって・・・・迷惑かけたくないからかな・・・」

「は?何で迷惑なの?」

「有岡くんに他にやりたいことあるかもしれないし、他に食べたいものあるかもしれないし・・・」

「だとしたらそう言うだろ」

「うん、まあそうなんだけど」

「断られるのが嫌なの?」

「そういうわけじゃない」

「じゃ何なの」

 

髙木くんは、私が話せば話すほどどんどん不思議そうな顔をする。

 

・・・うん、でももう少し聞いてもらおう。

 

 

「有岡くんって超絶イケメンでしょ?」

「・・・は?」

「有岡くんはものすごくイケメンでしょ?」

「・・・あれが?」

「え?」

「超絶?」

 

何だか目ん玉飛び出そうな顔していう髙木くん。

それに私は自信をもって答える。

 

「うん。超絶」

「・・・まぁいいや。それで?」

 

よくないし。

超絶イケメンだし。

最高にかっこいいし。

 

・・・そう言いたい所をぐっとこらえて私は話を元に戻すことにした。

 

「身の程をね、わきまなきゃなって思うの」

「は?」

「有岡くんみたいな超絶イケメンとうっかりお付き合いさせて頂けることになったんだから、私のようなものは出しゃばってもいけないし、わがままなんて絶対言っちゃいけない」

「・・・何言ってんの?(笑)」

「私にとっては神様みたいに素晴らしい人なんだよ」

 

私は髙木くんの反応を一切無視してそこまで言い切ってからビールを飲み干した。

 

「なんだそれ。変なの」

 

そんな私に髙木くんの容赦ない一言。

 

「変・・・かな」

「変だよ。お前何で有岡と付き合ってんの?」

「・・・ごめん」

 

私は何だかいたたまれなくなって髙木くんに謝る。

 

「何で謝ってんだよ」

「いや、何か、私のようなものが有岡くんと付き合うなんて身の程知らず過ぎたのかなって」

「・・・何があったんだよ」

「特に何があったって訳じゃないんだけどさ」

 

・・・というか、自分でもよくわからない。

私は有岡くんが大好きだけど、有岡くんにとってはどうなんだろうって思う。

だから、せめて負担にならないように、嫌われないようにって思ったら、自分の思っている事を有岡くんには言えなくなった。

 

 

「お待たせしましたー!」

 

そんな事を考えていたら、ひろさんが元気よく現れてビールを持ってきてくれた。

 

さすが髙木くん。

いつのまにやら注文していたらしい。

 

「ごゆっくりどうぞー!」

「ありがとー」

 

風のように去っていくひろさん。

今忙しいのかな。

 

そんな中。

 

「辛くない?」

 

私にビールを手渡しながらそう言う髙木くん。

 

「えっ」

「本当は有岡に言いたいんだろ」

「何を?」

「会いたいって」

「いやいやそんなそんな滅相もない!」

「嘘つけ(笑) 顔に書いてあるぞ」

「へ!?」

 

そんな訳ないってわかってても顔を手で隠してしまう私。

 

「わかりやす!」

 

それを見て髙木くんはそう言うと盛大に笑った。

そして。

 

「言えばいいじゃん会いたいって」

 

と至極正論をぶつけてくる。

 

「だから言えないんだって・・・」

「じゃ練習しよ」

「え!?」

「俺を有岡だと思って。ほら」

 

髙木くんはキラキラした目で私を見てそういう。

 

「そんな事いわれても」

「早く」

 

どうやらどうしても練習させたいようだ・・・

しょうがない。

 

「・・・あ・・・あい・・・あいたぃ・・・」

「は?」

「えっ・・・あの・・・本当は・・・会いたいんです・・・」

 

私は、頑張って言葉を発した。

すると、髙木くんは急にイケボで

 

「俺もお前に会いたいよ」

 

と”雄也”を降臨させる。

 

「ゆうやーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

私が思わず叫ぶのと同時に

 

「髙木先パーーーーーーイ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

いつからいたのか、ひろさんもそう叫んでいた。

 

「えっひろさん、雄也降臨知ってるんですか?」

「雄也降臨は知らないですけど、あんなイケボで言われたら軽率に惚れます」

 

・・・確かに。

 

「二人ともおもしれー!!(笑)」

 

当の髙木くんは私たちの反応が気に入ったようで

 

「雄也降臨、まだイケるな」

 

とご満悦。

 

「イケます!私も言われたいです!髙木先パイに!」

 

ひろさんは欲しがる。

 

「そっか(笑)・・・じゃあ・・・」

 

髙木くんはそういっておもむろに立ち上がると、ひろさんの耳元で

 

「お前の仕事が終わるまで待ってるから。早く来い」

 

と雄也を降臨させた。

 

「髙木先パーーーイ!!!!!!!!」

「雄也ーーーーーー!!!!!!!!!」

 

またしても、私とひろさんの反応はほぼ同じだ。

 

「すげー揃ってる!(笑)」

 

またまたご満悦の髙木くん。

 

「すぐ仕事終わらせてきます!!秒で!!!」

 

ひろさんはキラキラした目でそういうと、走って去っていった。

 

 

「おもしれー(笑)」

 

髙木くんはおそらく全力で走り去っていったひろさんの後姿を見てそうつぶやくと、私の方に向き直り

 

「大丈夫。俺に言えたんだから、有岡にも言えるよ」

 

そう言って優しく微笑んだ。

 

「・・・うん。ありがとう」

 

・・・優しい。

髙木くんは本当に優しい。

私は優しい友達がいて本当に幸せ者だ。

 

私は何度目になるかわからないほどの想いをもう一度かみしめた。

 

 

 

 

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