妄想小説Walk2 エピソード20
「いただきまーす!」
目の前には運ばれてきた生姜焼き定食がふたつ。
有岡くんと私は2人で声をそろえてそう言うと、生姜焼きを口へと運ぶ。
「おいしい!」
有岡くんおすすめの生姜焼きは本当においしくて、思わずそんな声が出た。
「でしょ」
有岡くんは私の反応に気を良くしたのか、そう言って全力のドヤ顔だ。
「うん!今まで食べた中で一番おいしい」
「よかった!」
私の言葉に有岡くんは本当に嬉しそうに笑う。
そして、生姜焼きを口に運んで「うんま!」と笑顔。
やっぱり有岡くんのご飯を食べている姿と笑顔は最強だ。
ずっと眺めていたくなる。
有岡くんは夢中でご飯を食べていると口の中いっぱいに食べ物を詰め込みがちだ。
今日も例外ではなく。
おかげでほっぺがパンパンになっている。
ほっぺパンパンにして、モグモグとご飯を食べている姿は最強に可愛くて。
ずっと、この姿を見ていたい。
ずっと、一緒にいたい。
私はそんな事を思いながら生姜焼き定食を食べた。
「まゆみはさ、頑張り過ぎなんだよね」
帰り道。
車を走らせながら、有岡くんはふいにそんな事を言い出す。
「えっ」
「たまには俺を頼ってね」
そういう有岡くんの横顔が素敵過ぎてドキッとしてしまう。
・・・そういえば。
有岡くんの事が気になり始めた時も、私はこの横顔を見ていた気がする。
「・・・ありがとう」
そんな事を思いながら私がそういうと、有岡くんは優しく微笑んだ。
有岡くんが優しいのは、何でなんだろう・・・
有岡くんが車を停めたのはコンビニだった。
かごを持った有岡くんはパンとかお菓子とかコーラとかをとにかくたくさんかごに入れていく。
「まゆみもたくさん入れなよ!」
「う、うん」
何だか楽しそうな有岡くんにそう言われたのだが。
・・・何を入れよう。
困ったことに特に何も思いつかない。
陳列された商品を眺めてはみたものの、欲しいと思えるものはなく。
どうしようかな・・・と有岡くんの方を見ると、かごの中は有岡くんの入れたもので既にいっぱいになっていた。
もう選ぶ必要はなさそうだ(笑)
「あ。そうだ。この缶詰うまいんだよ」
有岡くんが手に取った缶詰をよく見てみると。
そこにはキャットフードと書いてある。
「有岡くん、これ、キャットフードだよ」
「え!?」
驚いた有岡くんは手に持った缶詰をよく見て
「本当だ・・・」
とつぶやくと、そのままそっと棚に戻した。
その姿が可愛すぎて、私は笑いが止まらなかった。
「買ってくるね」
有岡くんは照れくさそうに笑いながらそう言うとレジに向かう。
そんな後姿も愛らしくて、私は笑いながら有岡くんを見送った。
腹がよじれるかと思った。
コンビニで買った大荷物を持って私の部屋に入った有岡くんは、袋の中からコーラとおやつを取り出すとソファに座りテレビをつける。
私は袋の中身を確認し、冷蔵庫に入れた方が良さそうなものを冷蔵庫に入れた。
「今日楽しかったね」
私がキッチンから戻ってきて有岡くんの隣に座ると、有岡くんがニコニコしながらそう言う。
「うん!楽しかった!」
久しぶりの二人だけの時間。
楽しくないわけない。
それに。
有岡くんの笑顔がこんなにたくさん見れるなんて、幸せ以外の何物でもない。
「本当?」
有岡くんは私を試すような顔をしてそういうと、私の顔をのぞきこむ。
私がそれに「本当!」と答えると、有岡くんは
「よかった!」
と満面の笑みで言った。
そして、おもむろにテレビのチャンネルを映画に変える。
映画好きの有岡くんがよくする行動だ。
見たい映画が決まると部屋の電気を消す。
今日はゆったりとした雰囲気の映画を観るようだ。
映画を観ていると。
有岡くんの腕が私の肩に手を回してきた。
そして。
有岡くんの唇が近づいてくる。
私はそっと目を閉じる。
唇と唇が重なる。
・・・やわらかい・・・
・・・愛おしい・・・
・・・好き・・・・
有岡くんへの感情が溢れてしまいそうだ・・・
こんなにも・・・・
こんなにも・・・・・
大好きで・・・・
愛おしくて仕方がないのに・・・・・・
有岡くんは・・・・・
私以外の人とも・・・・
こういうことをしているのかな・・・・・
そんなこと・・・考えたくもないのに・・・
何でそんなこと考えちゃうんだろう・・・・・
私の中で、抑えていた何かが壊れる音がした。
有岡くん・・・・・
愛おしいよ・・・・・
大好きだよ・・・・・・
私だけ・・・見てて欲しいよ・・・・・・
有岡くんに身を任せながらもそんな思いがこみ上げ、あふれかえってくる。
気が付くと。
私の目からは大量の涙が溢れかえっていた。
まるで。
防波堤が決壊したかのように。
「いたい・・・?」
それに気付いた有岡くんが心配そうにそう聞いてくる。
私は必死で首を横に振ったが、涙は止まらないどころか、嗚咽となって激しさを増していく。
「まゆみ・・・?」
有岡くんもただごとじゃない事に気付いたようだ。
しかし、もう泣いてる事を有岡くんに気付かれないようにするなんて無理だった。
「ごめ・・・ごめ・・・」
一生懸命謝ろうとするものの、声にならない。
どうしよう・・・嫌われてしまう
そう思った時。
有岡くんは優しく私を抱きしめ、私の頭に自分の頭をそっと寄せた。
「大丈夫だよ」
そして、優しい声でそう言い。私が泣き止むまでずっと頭を撫でてくれていた。