妄想小説Walk2 エピソード21

「落ち着いた?」

 

私が泣き止んだ頃、有岡くんは私の顔をのぞきこんでそう言った。

こんな顔、見られたくなかったから、部屋が薄暗いのがありがたかった。

 

「・・・ごめんね・・・こんな・・・迷惑だよね・・・」

 

有岡くんに申し訳ない気持ちでいっぱいの私にはそうとしか言えない。

しかし、有岡くんは相変わらず優しい声で

 

「迷惑じゃないよ。でも、嫌なら嫌って言っていいんだよ?」

 

と言う。

 

「嫌じゃない!嫌じゃないの!そうじゃなくて・・・」

 

私は慌てて否定したけど、その代わりにまた涙が溢れてきてしまう。

 

「好きなの・・・大好きだから、嫌われたくないの・・・でもわかんないの・・・どうしていいのかもうわかんない・・・私、どうすればいい?」

「えっ待って、どういうこと?俺もわかんないから説明して?」

「だから有岡くんが好きで好きでたまらないの!どうしようもなく好きなの!でも有岡くんには他にも女の人がいるでしょ?それはやっぱりいやだーーーーーーー」

 

ただの号泣だった。

今まで必死で抑えてきた感情をもう止める事は不可能で。

一番醜い形で露呈してしまっている。

 

「えっ女の人?」

 

有岡くんは子供の様に泣きじゃくる私を見てオロオロしている。

 

「他の女の人ともこういうことするんでしょ?・・・耐えられない・・・」

「待って、何言ってんの?」

「耐えられないけど好きなの!どうすればいいの?」

「まゆみが俺の事好きなのはよくわかった!で、女の人って何?」

 

取り乱している私を落ち着かせようと、有岡くんは私の肩を掴んでそう言う。

 

「私、見たんだよ・・・有岡くんがマンションの前で女の人と会ってるところ・・・」

「・・・何の話?」

 

私の言葉を聞いても有岡くんは、私が何を言ってるのかわかっていないようだ。

 

「だって・・・有岡くん、家の前で女の人と会ってたよ?」

 

口に出してしまったことで彼女の存在を認めてしまったような気がして辛かった。

また、涙が溢れだして止まらない。

 

「待って」

 

有岡くんはそう言うと、何かを考えているかのように黙り込む。

そして、しばらくすると口を開いた。

 

「俺たち、ちゃんとお互いに思ってる事話した方がいい」

「・・・」

「まゆみが落ち着いてからでいいから、ちゃんと話そ?」

 

有岡くんはそう言うと、頷いた私の頭をポンポンっとして再び私を抱きしめた。

 

 

 

 

有岡くんのぬくもりは本当に暖かくて。

私は、本当に、心から有岡くんの事が好きで

本当はひとりじめしたくて

他の女の人の事なんて想って欲しくないんだって

自分の心の中を見せつけられているような気がした。

 

 

 

ただ、私だけを見てほしい

そんな強欲な想いが溢れてくる。

 

もう、この想いを止める事なんて出来ないんだ

そんな気がした。

 

 

 

 

 

やっぱり

私は、有岡くんがいい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いた?」

「・・・うん・・・多分・・・」

 

自信は・・・ない

 

「深呼吸しよっか」

「うん」

 

私は有岡くんに言われるがままに深呼吸をする。

有岡くんも、私と同じ動きで深呼吸をしていた。

 

 

「話せそう?」

「・・・うん」

 

 

もう、何もかも話してしまおう。

今の私には自分の感情を抑える事が出来ない。

 

 

「俺が、いつ女の人と会ってたの?」

「・・・確か・・・有岡くんと白米に行った日・・・」

 

あの日は、天国から地獄に叩き落されたような、そんな気がしてた。

 

「まゆみは俺んちに来たの?」

「うん・・・マンションの前までだけど・・・」

「俺には会ってないんだよね?」

「うん・・・LINEしたんだけど返事がなくて・・・どうしようって思ってたら有岡くんが出てきて・・・女の人と・・・会ってた・・・」

 

思い出すと・・・やっぱり辛い・・・

 

 

「まゆみと白米に行った日・・・」

 

有岡くんはそうつぶやくと考え込み。

 

「・・・あ・・・・」

 

どうやら何かを思い出したようだ。

 

「あれはその、違うんだよ」

「何が違うの?」

 

急に目が泳ぎ出す有岡くんに私は思わず詰め寄ってしまう。

 

「まゆみ絶対誤解するから」

「誤解って何?」

「誤解だからね!」

「だから誤解って何?」

 

何故か急に”誤解”と繰り返す有岡くん。

このままじゃ話が先に進まない。

私は確信をつくことにした。

 

「あの子は誰?」

「・・・元カノ」

「また!?」

 

思わず、そんな言葉が口をついて出てしまう。

 

「ほら誤解した」

 

そんな私に有岡くんはそう言うと、話を続ける。

 

「そういうのじゃないんだよ。聞いて」

「・・・うん」

 

まずは、話を聞こう・・・

 

「何度か、お金貸してってLINEが来ててさ。ずっと断ってたの。でも聞いてくれなくて」

「・・・うん」

「家に行くって言うから来ないでって言ったんだけど、今、家の前にいるからって言われて・・・会った。多分それの事だよね?」

「わかんないけど・・・」

 

わかんないし、そんな事ってあるのかなって思ってしまう・・・

 

「会ったのはあの1回だけだし、もう来ないって約束もしてる。」

「・・・」

 

・・・どうも釈然としない。

 

「疑ってる?」

 

私の反応を見て何かを察した有岡くんがそう聞いてくる。

 

「・・・有岡くん・・・優しいから・・・」

 

有岡くんは優しいから、頼られると断れないのかもしれない。

”元カノ”さんから連絡があったら、有岡くんはまた会っちゃうんじゃないかって思ってしまう。

 

「・・・そうだよね・・・不安だよね・・・」

「・・・ごめん・・・」

 

”元カノさんと会う”って、私には不安でしかない。

 

「有岡くんに嫌われたくないの。嫌われたくないから、有岡くんの好きな私になろうとしてた」

「・・・」

「ごめん、でももう無理。もう言いたいこと言えずに我慢するの辛い」

「・・・」

「好きなんだもん。会いたいよ。ずっと一緒にいたい。私だけ見ててほしい」

 

私は有岡くんに今まで一度も言ったことのない事ばかり言っている。

 

「・・・」

 

有岡くんは何も言わない。

 

 

 

・・・嫌われたかな・・・

 

 

 

私がそう思った時。

有岡くんはゆっくりと口を開いた。

 

「俺も同じ」

「えっ」

「俺も、まゆみの好きな俺になろうとしてた」

 

有岡くんはそう言うと、ふぅーと息をはいて、再び話し始める。

 

「俺、髙木さんに嫉妬してる」

「え!?」

「かっこ悪いからあんまり言いたくないんだけど、本当は2人で遊んで欲しくない」

「・・・」

「俺だけを見てほしい」

「!」

 

涙が出てきた。

・・・嬉しかった。

 

「俺もまゆみのこと大好きだから」

「私、有岡くんしか見えてない」

「うん、やっとわかった」

「えっ」

「実は俺も不安だったんだよね。会いたいとか全然言ってくれないし。俺もずっと一緒にいたいんだけど、まゆみはそうでもないのかなって、ずっと思ってた」

 

・・・そう・・・だったんだ・・・

 

「俺たち、想いは同じなのに、お互い気を使いすぎてたんだな」

「・・・そうかも」

「こんなになっちゃうまで我慢してくれてありがとな」

「有岡くん・・・」

「これからは言いたいこと言いあおう。お互いに」

「・・・うん」

 

・・・嬉しかった。

有岡くんが、私を受け入れてくれたような気がして。

 

「まゆみ」

「ん?」

「俺を好きになってくれたこと、絶対後悔させないからね」

 

有岡くんはそういうと、驚くほどかっこいい笑顔を見せる。

 

「か、かっこいい・・・好きすぎるんですけどどうすれば・・・」

 

そこまで言ってしまって、私は慌てて自分の口をおさえた。

心の声なはずなのに、口から駄々漏れてしまっている。

 

「それ、心の声?(笑)いつも心の中ではそんなこと思ってたの?(笑)」

 

有岡くんはそういって楽しそうに笑う。

 

 

・・・恥ずかしい。

もう、何か、とにかく恥ずかしい。

こんなことまでさらけ出してしまった・・・

 

 

「ありがとな」

 

そんな恥ずかしすぎる私に有岡くんは笑顔でそう言うと、私の唇にkissをした。

 

 

 

 

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