妄想小説Walk第88話

「部長。お呼びですか?」

 

部長に呼ばれた私はそう声をかける。

すると部長は「ああ」といい、言葉を続ける。

 

「エースコーポレーションのプロジェクトの件だが」

「はい。」

 

やっぱり。

 

「上層部の許可が下りた。本格的に始動してくれ」

「ありがとうございます!」

 

部長の言葉に一気に緊張が解ける。

 

許可が下りたんだ!

よかった!

これできっと山田さん、出世できる!

 

「お前に全て任せるから、今後の流れを担当と確認しておいてくれ」

「はい」

 

私はなるべく冷静に見えるように心がけて返事をし

 

「失礼します」

 

と部長に頭を下げてその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分のデスクに戻ると、髙木くん、八乙女くん、2人の少し後ろに有岡くんが立っていた。

 

「決まった?」

 

髙木くんが言う。

私は「うん!」と笑顔で答える。

 

「やったじゃん!おめでとう!」

 

八乙女くんがそう言ってハイタッチを求めてくる。

 

「ありがとう!」

 

私はそれに答えると、隣に控えていた髙木くんともハイタッチ。

そして有岡くんの方を見る。

有岡くんは両手を上げてハイタッチ待ちをしている。

 

私が有岡くんの手にハイタッチをすると

 

「おめでと」

 

有岡くんは静かにそう言った。

 

「・・・ありがとう」

 

 

何とも言えない表情をしている有岡くん。

有岡くんの真意はわからないけど、私の心は複雑だった。

 

 

 

 

「透けてるイケメンに連絡した?」

 

そんな空気を察してか、髙木くんがそう言う。

 

「ううん、まだ」

「早く連絡してやれよ」

「あ、うん、そうだね。ちょっと電話してくる」

 

髙木くんの言葉に私はそう言うと、スマホを手にロビーに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロビーに着き、周りに人がいないのを確認して私は山田さんに電話をかける。

 

「もしもし?」

「あ、まゆみです。今大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。何?どした?」

電話の向こうから聞こえる山田さんの声はいつも通り優しい。

 

「こないだのプロジェクトの件なんだけど」

「うん」

「上層部の許可が下りたよ!」

「マジで!やった!!よかった!!」

 

私の報告を聞いて山田さんはそう叫ぶ。

ものすごく喜んでくれてるのが伝わってくる。

 

よかった。お役に立てたみたいで。

 

「それで、今後の流れを確認したいんだけど、近々打ち合わせ出来る日、ある?」

「今からなら行けるけど、まゆみさんの予定はどう?」

 

今日はもう私も外出予定はない。

 

「私は大丈夫だよ」

「じゃあすぐ行くから待っててね!」

「うん、わかった」

 

待っててね、って。

何か可愛いな♪

 

「じゃあ、また後で!」

「うん、また。」

 

私はそう言って電話を切り、とりあえず空いてる会議室をひとつおさえて山田さんを待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一時間後。

山田さんは息を切らせてやってきた。

 

「ごめん!遅くなっちゃった!」

「忙しかった?別日でも大丈夫だよ?」

 

何だかバタバタさせてしまって申し訳なくて、私はそう気遣う。

それに山田さんはさらっと

 

「ううん。すぐ会いたかったから」

 

とイケ散らかした顔で言い、

 

「それなのに、待たせてごめんね」

 

と本当に申し訳なさそうな顔をした。

 

「ううん、大丈夫。じゃあ会議室で打ち合わせしよう」

 

私はなるべく気を使わせないように明るくそう言って、山田さんを会議室に促した。

 

 

 

 

 

前を歩く山田さんの首筋には汗がにじんでいる。

 

走ってきてくれたのかな。

 

さっきも、「すぐ会いたかったから」なんて。

何か照れくさいけど、そういうの、やっぱり嬉しい。

 

私はそんなことを思いながら山田さんの後ろを歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

打ち合わせが終わると山田さんが

 

「まゆみさん、今日この後仕事ある?」

 

と言った。

 

「いや、今日はもうこれで終わりだよ」

 

今日は打ち合わせが終われば、このまま定時で帰れそうだった。

 

「じゃあこの後飲みに行かない?」

「うん、いいよ」

 

この後特に予定もないし、断る理由もなかった。

 

「え。じゃあこのまま一緒に帰れたりする?」

「えっと・・・」

 

山田さんの問いかけに一瞬考える。

 

今日はもう仕事は残ってなかったはず。

打ち合わせ中に何か起こってなければこのまま帰っても問題はなさそう。

 

「確認して来るね。ちょっとここで待ってもらっててもいい?」

「うん!もちろん!」

 

特に何もなければ帰り支度をしてそのまま帰るとするか。

 

私は会議室を出て自分のデスクに戻った。

 

 

 

 

 

 

今日中にやらなきゃいけない仕事は・・・来てないみたい。

じゃあ、もう帰ろうかな。

 

私はデスクの上を軽く片付けて自分の鞄を持つ。

 

「あれ。まゆみさん、もう帰るの?」

 

それを近くにいた髙木くんに目撃され、そうツッコまれる。

 

「あ、うん」

「もしかしてこの後?」

 

さすが髙木くん。

察しが早い。

 

「あ・・・うん。そう」

「そっか。お疲れ!また明日!」

 

この会話だけですべてを察したのか、髙木くんは笑顔でそう言う。

 

「うん、お疲れ!」

 

とりあえず私はそのテンションに合わせてそういうと急いで会議室に戻った。

 

 

 

 

「ごめん、お待たせ!」

「もう帰れるの?」

 

帰り支度をしている私の姿を見て予測がついたのか、山田さんがそう言う。

 

「うん」

「よし!じゃあ行こうか!」

 

山田さんはそう言うと会議室を出て歩き始める。

私はその後ろを下向き加減でついて行く。

どんな顔して歩いていればいいのか、正直わからなかった。

 

何だか恥ずかしさもあり、私は周りを見る余裕もなく、ただ前を歩く山田さんについて行った。

 

 

 

 

第89話へ