妄想小説Walk第69話

トゥルルルル トゥルルルル

 

 

 

 

 

その時。携帯電話が鳴った。

着信画面には”エースコーポレーション山田さん”の文字。

 

「お疲れ様です」

 

私はすぐに気持ちを切り替えて電話に出る。

 

「お疲れ様」

 

それに山田さんはさわやかにそう言って話を続ける。

 

「まゆみさん、今日仕事何時まで?」

「え、あ、もう終わってます」

 

何なら今帰ろうとしています。

 

「ちょうどよかった!今近くまで来ててさ。もしよかったら一緒にご飯でも食べない?」

「えっ」

 

山田さんと食事?

 

・・・いいんだろうか。あんなイケ散らかしてるイケメンさんと私のようなゴミが食事なんて・・・。

 

 

 

 

いや。ダメでしょ。

お断りしよう。

 

 

「申し訳ないんですが・・・」

「実はもうまゆみさんの会社の前にいるんだよね」

 

私の謝罪は山田さんの言葉にさえぎられた。

 

「え!?」

「っていうか、まゆみさんの目の前にいるよ」

「は!?」

 

衝撃的な山田さんの発言に私は驚いて周りを見渡す。

ほどなくして、会社の前に止まっていた車の運転席の窓から軽く顔を出してさわやかな笑顔でこちらを見ている山田さんを発見し、私は再度驚いた。

 

 

 

 

 

 

・・・とりあえず、行かなきゃ。

 

私は慌てて電話を切り、山田さんの所まで走る。

 

「そんな走んなくても大丈夫だよ(笑)」

 

私の姿を見て笑いながら言う山田さん。

 

「あ、そっか、でも何となく、つい、あの、えっと」

「乗って」

 

慌てて何を言ってるかよくわからなくなってきた私を山田さんはとろける様な優しい声と気絶しそうなほどまぶしい笑顔で車に乗るよう促す。

 

 

 

 

 

・・・逃げられないか・・・

 

 

 

 

 

「・・・はい」

 

私は覚悟を決めて車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

車はゆっくりと走り出す。

 

「このあと何か予定でもあった?」

 

そのタイミングで山田さんも話し出す。

 

「いえ、特には・・・」

 

ジムに行こうかとも思ってたけど、別に行かなくてもいいかなとも思っていた。

 

「え、じゃあ何で俺の誘いを一回断ろうとしたの?」

 

 

 

 

・・・あ。

しまった。

山田さんが美しすぎて記憶が飛んでた。

 

 

 

・・・しょうがない。

正直に話そう。

 

 

 

「私のようなゴミが山田さんとお食事なんて申し訳なくて」

「・・・誰に?」

「全人類の女性に」

「は?何言ってんの?」

 

真顔で言う私に山田さんは眉間にしわ寄せつつそう言う。

 

「山田さんのような顔面国宝級のイケメンさんと一緒に歩いてるといつか刺されそうで」

「え、マジで何言ってんの?」

「自覚ないですか?山田さん、相当美しいですよ?」

「あのさぁ・・・」

 

山田さんがそう言ったタイミングで信号が赤になる。

山田さんは車を止めると、怒ったような顔で私の目をまっすぐに見て

 

「二度と自分の事ゴミって言うな」

 

と言い放った。

 

「!」

 

 

 

・・・驚いた。

あんな目で見つめられると凍り付いてしまう。

 

でも・・・ちょっと嬉しかった。

そんなこと言って下さるとは思わなかった。

 

 

 

「今から行くお店、よく行くんだけど、すごくおしゃれでおいしいから気に入ってもらえると思う」

 

さっきの迫力は完全に消え去り穏やかな笑顔でそう言う山田さん。

 

「楽しみです」

 

私もそれに合わせて笑顔で答える。

 

 

 

信号が青に変わる。

車は穏やかにゆっくりと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当、すごくおしゃれでおいしいですね!」

 

山田さんに連れてきていただいたこのお店はそれはそれはおしゃれで。

料理も本当においしくて、私は感動しっぱなしだった。

 

「でしょ?気に入ってもらえてよかったよ」

 

山田さんは嬉しそうにそう言う。

 

 

 

こんな素敵なお店をご存じだし、イケ散らかしてるし、優しいし。

山田さんって本当最強だ。

周りの女性はほっとかないだろうな。

 

そんなことを考えていたら。

 

 

「あれから、気持ちは落ち着いた?」

 

山田さんから急にそんなことを聞かれた。

有岡くんの事なんだと思うけど・・・

 

「ああ・・・」

 

・・・なんて答えていいかわからない。

 

「本当はさ。まゆみさんから連絡来るのを待とうかと思ってたんだけど、気になって電話しちゃって。大丈夫って言ってたけど、やっぱり気になっちゃってさ。気づいたらまゆみさんの会社の前にいた」

「・・・え・・・」

 

気にして下さってたんだ・・・

 

「実はさっき見ちゃったんだよね。彼と話してる所。」

「・・・」

「ため息ついてたでしょ?」

「!」

 

見られてたんだ・・・。

 

「あの時の事、聞いたの?」

 

山田さんの言葉を聞いて、有岡くんが女性と手を繋いで歩いていたあの光景を思い出す。

 

・・・正直、思い出したくない。

切なすぎて、しんどい。

 

「・・・いや、聞いてないです。」

「聞けないの?」

「・・・はい・・・」

 

”聞かない”のではなくて”聞けない”っていう事まで見抜かれてしまってるのか・・・。

すごいな、山田さん・・・。

 

「まゆみさんはそれでいいの?」

「え?」

「まゆみさんはこのままズルズルと中途半端な関係でいいの?」

「・・・」

 

ズルズルと中途半端な関係、か・・・。

確かに今はそうなのかもしれない。

私は、このままでいいのか・・・?

 

「・・・有岡くんが幸せなら。笑っててくれればそれでいいと思ってました。でも・・・」

 

どうなんだろう。

私は、どうしたいんだろう。

 

「でも、あの子が有岡くんの彼女だったとしたら・・・それを受け入れるのには時間がかかると思います。」

 

というか、受け入れられるかどうかもわからない。

 

「受け入れないといけないんだろうとは思うんですけどね」

「別に受け入れなくてもいいんじゃない?」

「・・・え・・・?」

 

予想外の山田さんの言葉に驚いた。

 

「まゆみさんがそれでも彼の事が好きなら、それを伝えるべきだと思うけど」

「え!?」

「選ぶのは彼なんだし」

「・・・」

 

・・・どういう事?

有岡くんがあの子とお付き合いをしてるなら、私は有岡くんの事諦めるべきだと思うんだけど・・・。

 

「何か腑に落ちない顔してるね(笑)」

 

そんな私を見てそういう山田さん。

おっしゃる通り過ぎて、私はそれに愛想笑いをするしかない。

 

「俺は、人を好きな気持ちを無理やり押し込める必要はないと思うな。好きなら好きでいいと思う。それと」

 

山田さんはそう言って一呼吸置くと

 

「まゆみさんは自分の事悪く思い過ぎ!まゆみさんはとても魅力的な女性だよ?」

 

と、カッコよすぎて昇天してしまいそうな声と笑顔で言った。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・素敵過ぎる・・・。

と言うか、その声とその笑顔は卑怯過ぎますーーーーー

私のようなゴミにこんな軽々しく披露してくださる笑顔ではないですってーーーーー

 

 

 

 

 

・・・あ。

そっか。

自分をゴミって言っちゃいけないんだった。

 

 

 

 

「・・・大丈夫?」

 

固まったまま色々な感情が通り過ぎて行った私の様子がおかしかったのか、心配そうな顔でそういう山田さん。

 

「あ、はい、すみません、大丈夫です」

 

私は慌てて自分の意識を戻してそう言うと、

 

「何か・・・ありがとうございます」

 

と頭を下げた。

山田さんはそれに優しく微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・美しい・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まゆみさん」

「はい」

「また俺と食事してくれる?」

「え!?」

 

また予想外な言葉が山田さんから出てきた。

 

「仕事だけじゃなくて、プライベートでも仲良くしたいなって思って」

「あ・・・ありがとうございます・・・」

「じゃあまた誘うね」

「あ・・・はい・・・」

 

恐縮してしまうけど・・・何か嬉しかった。

リップサービスなんだろうけど、私を魅力的と言って下さって、プライベートで仲良くしたいと言って下さって。

 

そういう心遣いが嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、帰ろうか」

 

食事を終えると、山田さんがそう言って席を立つ。

 

「あ、はい」

 

私も後に続く。

 

「ごちそうさまでした」

 

山田さんは店員さんにそういうとそのまま店を出る。

 

 

 

 

・・・え?お会計もう済んでるの!?

いつのまに!?

 

私は驚きながらも山田さんに続いて店を出る。

そして

 

「おいくらですか?」

 

と山田さんに問う。

 

「え?」

「お会計。知らない間に済ませて頂いてたみたいで。ありがとうございました。おいくらでしたか?」

「教えない」

 

私の言葉に子供のような笑顔でそういう山田さん。

 

「え?」

「ごちそうさまでした、でいいんだよ」

「いや、そんな訳には!」

「俺がおごりたいんだからおごらせろって」

「・・・」

 

・・・イケ散らかしが過ぎる・・・。

 

「・・・ごちそうさまでした」

 

私はクラクラしながらそう言うと、深々と頭を下げた。

 

 

 

 

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