妄想小説Walk第70話

今日は仕事で一日有岡くんに同行していた。

取引先めぐりが終わった私たちは有岡くんの運転で会社へ戻っている所だ。

 

 

 

 

「いやースムーズに終わってよかったね!」

 

有岡くんが明るく話すけど、私は

 

「うん、そうだね」

 

と口調をそろえて返事することしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・今日こそはあの子の事、聞かなきゃ。

 

 

 

 

 

あの子の事が気になってしょうがないのに。

今日一日一緒にいたのに。

全然聞けなかった。

 

 

帰り道に聞こう!

そう思っていたけど、未だに聞けずにいる。

 

 

・・・どういう風に聞けばいいのか、全然わからない。

でも気になる。

 

2人きりになれる所なんてなかなかないんだから、今、聞かないと!とは思ってる。

でも、なんて言えばいいんだろう?

なんて言えば、変な風にならずに聞けるんだろう?

って考え始めると、わからなくなる・・・

 

 

 

 

 

 

 

うーん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうやって悩んでいる間に車は停車した。

 

 

もう会社に着いちゃったんだ・・・

 

 

私はドアを開け歩き出した。

すると。

 

「まゆみさんどこいくの!こっちだよ!」

 

有岡くんが慌てたような様子でそう叫び、私の腕をつかむ。

 

「!」

 

私はびっくりして思わずその手を振りほどいてしまった。

 

「!?」

 

ものすごく驚いている有岡くんの顔を見てハッとした私は

 

「あ!ごめん!」

 

と謝る。

 

「・・・いいよ」

 

有岡くんは許してくれた。

・・・でも。

 

 

「でも、よくないと思う・・・」

「・・・?」

「彼女がいるのに他の人の手を握るのは、よくないと・・・思う」

 

今、手を握られたわけではないけれど、私はついそう言ってしまう。

 

お祭りの時に手を握ってくれたから、私は、勘違いしてしまった。

はっきりとは言えないけど、ほんのささやかな抗議。

 

「えっ・・・」

「彼女が知ったら、多分嫌がるよ」

 

私だったら、それを知ってしまったら、やっぱり、嫌だ。

彼氏が他の女の子と手を繋いでた、とか切なすぎる。

 

 

「待って。彼女じゃないよ」

 

そんな私の抗議に慌ててそういう有岡くん。

 

「え!?」

 

今度は私が驚く番だった。

 

「こないだ会った子の事だよね?あの子は彼女じゃないよ」

「・・・そうなの?」

「うん」

「え・・・?じゃあ・・・」

 

・・・誰?

 

「あ・・・昔、付き合ってた」

 

私の疑問を察してか、有岡くんは言いづらそうにそういう。

 

 

チクン。

胸が痛む。

 

過去の話だとしても、有岡くんの彼女でいられた事実がうらやましかった。

 

「そうなんだ・・・」

「でも今は多分違うから!」

 

・・・多分??????

 

「多分、違うの?」

「・・・うん」

 

多分って何?????

 

「ごめん、よくわからない・・・」

「だよね・・・」

 

私の言葉に有岡くんはそうつぶやくと、しばらく考え込んだ後でゆっくりと話し出した。

 

 

「・・・なんて説明していいかわかんないんだけど・・・」

「・・・うん」

「・・・今、あの子には俺が必要なんじゃないかって思ってる。」

「・・・うん」

「だから、そばにいようと思ってる。」

 

 

チクン。

再び、胸が痛む。

 

 

そばにいようと思ってる

 

 

それって・・・

ほぼほぼ彼女なんじゃ・・・?

 

 

「でも、付き合ってはいない。・・・多分」

 

 

出ました。「多分」。

 

元彼女で、今は多分付き合ってない。

でも、そばにいようと思ってる。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

「多分」が厄介すぎる・・・。

はたから見るとほぼほぼ彼女だよね?

 

え、私はどうすればいいの?

やっぱり諦めるべきなの?

 

 

というか。

本当、あの子がうらやましすぎる。

別れたはずの有岡くんがまたそばにいてくれるなんて。

 

 

私には有岡くんがそばにいてくれる未来がくるのかな・・・?

私はそれを望んでもいいんだろうか・・・?

 

 

 

 

「まゆみさんごめんね、うまく説明できなくて・・・」

 

頭の中で色々考え込んでしまっている私に有岡くんが申し訳なさそうにそういう。

 

「え・・・あ・・・うん・・・」

 

釈然としないけれど、そう答えるしかない。

 

「うまい言葉が見つかったらまた話すよ」

「・・・うん・・・」

 

それが聞きたくない言葉じゃなかったらいいんだけど・・・

 

「じゃあ、行こう」

「・・・うん」

 

 

・・・ん?????

 

釈然としないまま歩き出そうとして顔をあげた時にやっと周りの景色が見えて私は驚く。

 

「え、ここどこ!?」

 

てっきり会社に着いたんだとばかり思ってたのだが、全然違う場所の駐車場だった。

 

「え!?何言ってんの?帰りにお菓子屋さんに寄ってスウィーツ買って帰ろうって話したじゃん!忘れたの!?」

「・・・あ」

 

・・・そう言えばそんなこと言ってたような・・・

色々考えすぎててすっかり忘れてた。

 

だから私、変な方向に歩き出しちゃったんだ。

会社の駐車場だと思い込んでたから。

それを有岡くんが止めてくれてたんだ。

 

「・・・何か、色々、ごめん・・・」

 

私は謝るしかなかった。

 

「いいよ(笑)スウィーツ買いにいこ(笑)」

「うん」

 

私たちはお店に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お腹空いた!車の中で食べようぜ」

 

スイーツを買って車に乗り込んだ途端有岡くんはそう言ってすぐに買ってきたプリンを出す。

 

「それでカフェラテも注文したんだ(笑)」

 

私もレアチーズケーキを箱から取り出しながら言う。

 

「うん」

 

有岡くんは笑顔でそういうと言葉を続ける。

 

「一口ちょうだい」

「はい」

 

私はすぐに自分のレアチーズケーキを差し出す。

すると有岡くんはすぐに大きめの一口をスプーンですくって食べ、

 

「うめー!!」

 

と満面の笑みを浮かべた。

そして

 

「俺のプリンも食べていいよ」

 

と自分のプリンを差し出す。

 

「ありがとう」

 

私はプリンを一口食べる。

・・・気のせいか、今日のプリンはカラメルが少し苦い気がした。

 

「うん、おいしい」

「だろー?」

 

有岡くんはなぜかドヤ顔でそういうとプリンを食べ

 

「うめー!」

 

と言う。

いつもよりスピードが速い。

 

「お腹空いてたんだね(笑)」

「うん(笑)」

 

・・・可愛い。

こんなたわいもない時間がとても幸せだ。

 

 

 

 

でも。

やっぱり私は有岡くんの事を諦めるべきなんだろうか・・・?

 

私が有岡くんが必要だって言ったら

有岡くんはそばにいてくれるんだろうか・・・?

 

 

私は、たくさんの複雑な感情を抱えながら有岡くんの笑顔を眺めていた。

 

 

 

 

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