妄想小説Walk第68話

ジムからの帰り道。

私は海に来ている。

 

明日、有岡くんに「あの子は彼女なのか」を聞ける気がしなくて・・・。

 

 

前に有岡くんが海にパワーをもらうって言ってたのを思い出して、何となくここに来てみたんだけど。

 

有岡くんの言う通りだった。

 

 

波の音を聞いていると不思議と穏やかな気持ちになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・ちゃんと聞かないとな。

有岡くんに。

 

自分の足で、前に進まないと。

 

 

 

 

今までの有岡くんとの関係性が心地よすぎて、私は自分で前に進む努力を怠ってきたんだ。

きっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正直。

あの子が彼女ではないことを願ってしまう。

 

誰のものにもならないでほしい、と。

 

 

 

 

本当、勝手だ。

有岡くんの幸せを望むなら、有岡くんが選んだ人と幸せになることも受け入れなきゃいけないのに。

今までみたいに一緒にいられることを望んでしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・強くならなきゃ。

 

 

 

有岡くんの全てを受け入れるって事は、きっと、そういうことなんだ。

 

 

 

 

 

でも。

そうなった時に、私は有岡くんを好きなままでいられるんだろうか・・・?

多分、好きな気持ちは変わらない。

今までと同じ温度ではいられないかもしれないけれど。

 

 

それが、ちょっとだけ、怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど。

やっぱり前に進まなきゃいけないんだと思う。

 

よし。

明日、絶対聞く。

 

私は海にパワーをもらって家路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

「まゆみさん今日ジム行く?」

 

出社したら有岡くんに普通に聞かれた。

 

「あ、うん」

「一緒に行こ」

「あ、うん・・・」

 

普通に誘われて何だか戸惑ってしまう私。

でも有岡くんは気にしてないのか、私の答えを聞くとそのまま去っていってしまった。

 

 

 

 

 

・・・ちょうどいいのかも。

あの子の事、聞こう。うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仕事が終わると

 

「まゆみさんおまたせー」

 

普通にやってくる有岡くん。

そして。

 

「行こうか」

 

と言って歩き出したので私は「うん」とうなずいて後をついて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・聞かなきゃ。

 

 

私は有岡くんの後姿を見ながらそう思うものの、どう切り出していいのかわからなくて迷っていた。

 

 

「今日、何する?」

「え、あー・・・走ろうかな」

 

急に聞かれてとりあえずそう答える私。

それどころじゃないんだけど。

 

「まゆみさん、走るの好きだねー」

「好きじゃないけど水着持ってないから泳げないし・・・」

「そっかー俺どうしようかなー俺も走ろうかなー」

 

何だか楽しそうに迷っている有岡くん。

 

 

 

 

・・・。

 

 

 

 

有岡くんが振り返る度にドキッとしてしまう。

 

でも。

やっぱり。

ほら。

聞かないと。

ね。

 

「あ、有岡くん、あのさ!こないだ・・・・」

 

 

トゥルルル トゥルルル

 

 

私が意を決して絞り出した声は、有岡くんの電話の着信音にかき消された。

 

私がどうぞ、とジェスチャーすると有岡くんは片手を顔の前に持って行き申し訳なさそうに「ごめんね」と口パクをすると電話に出る。

 

 

 

「もしもし?・・・・うん。・・・うん。・・・今日も?・・・ううん、嫌じゃないよ。・・・すぐ行くね。・・・うん。じゃあ、後で。」

 

 

有岡くんはそう言って電話を切ると

 

「まゆみさんごめん。俺、行かなきゃ・・・」

 

と申し訳なさそうに言った。

 

「どうしたの?何かトラブルでもあった?」

 

有岡くんの様子から、電話の相手はあの子なんじゃないかって何となく思いつつも、そんな風に聞いてしまう私。

 

「ううん、そうじゃないけど・・・」

 

そうじゃないけど・・・何なんだろう・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・あのさ・・・」

 

少し考える素振りをした後、有岡くんは何かを言おうとする。

 

「・・・うん」

 

私は、もしかしたら私の知りたい答えを出してくれるのかもしれないと思い、ドキドキしながら続きの言葉が発せられるのを待っていたが

 

「・・・ごめん何でもない」

 

有岡くんはすぐにそう言って首を振った。

 

 

 

 

 

・・・え・・・何・・・?

気になるよ有岡くん・・・

言いかけてやめるなんて、一番ずるいよ・・・

 

 

 

「俺から誘ったのに一緒に行けなくて本当ごめんね」

「・・・ううん、いいよ」

 

それは、いいよ。

それよりも、さっき何を言いかけたの?

 

「次は一緒に行こう!」

「・・・うん」

 

それはいいんだけど・・・

気になるよ・・・

 

「じゃあ、また明日」

「・・・うん、お疲れ」

 

こんなにも気になってるのに、聞くことが出来ず。

私はそう言って笑顔を見せるのが精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁ・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有岡くんの姿が見えなくなったのを確認してから私は深い、深いため息をつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして、聞けないんだろう・・・。

本当、何やってるんだ私・・・。

 

 

 

 

 

 

 

はぁ・・・・・

 

 

 

 

 

私はもう一度深いため息をついて歩き出した。

 

 

 

 

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