妄想小説Walk第67話

失恋のモヤモヤは運動でごまかす!

 

 

 

体育会系ではないけれど、何となくそう決めて私は今ジムに来ている。

 

ランニングマシーンで汗を流した後、シャワーを浴びて帰ろうとしたら

 

「あ、まゆみさん!」

 

と声が聞こえ、声のした方を見るとあやかさんが笑顔で手を振っていた。

それに私も笑顔で手を振る。

 

「あれ?今日は1人?」

 

いつも一緒にいるともさんの姿が見えなかったので私はそう問う。

 

「うん。今日ともちゃんは知念くんとデートなの」

「そうなんだ!ともさんと知念さん、うまくいってるんだね!」

 

あやかさんの答えに嬉しくなる私。

 

「うん。なかなか進展しないけどね」

 

そんな私にあやかさんはいたずらっぽくそう言う。

 

「そうなんだ」

 

でも、きっとあの2人は大丈夫。

そう思う。

というか、大丈夫であってほしい。

 

 

 

 

「まゆみさんは?大ちゃんとうまくいってる?」

 

そんなことを考えていたらあやかさんにそう言われ

 

「えーーーーーっと・・・・・」

 

私は思わず言葉を濁してしまった。

 

「・・・何かあった?」

 

私の反応を見て何となく察したのか、あやかさんはそう言う。

 

「うん・・・まぁ・・・・」

「何があったの?ちょっと座って何か飲みながら話す?」

「あ、うん」

 

あやかさんの提案で私たちは自動販売機で缶ジュースを買い、フリースペースの一角を陣取った。

 

 

 

 

 

 

 

「で?何があったの?」

 

そんなあやかさんの問いに私は有岡くんが女の子と手を繋いで歩いてる姿を二度目撃したことを話し、

 

「その女の子、随分前にも一緒にいるところを見たことがあってさ」

 

と話を続けた。

 

「え、何それ。どういう事?」

「わかんないけど、もしかしたら彼女なのかなーって思って・・・」

「大ちゃんがそう言ったの?」

「そうじゃないけど・・・」

 

でも、目の前で繰り広げられた光景を見てしまったら、どうしてもそうなんじゃないかって思ってしまう。

 

「まゆみさんも大ちゃんと手を繋いだんでしょ?」

「・・・うん」

「でも彼女じゃないんでしょ?」

「うん」

「じゃあまだわかんないんじゃない?」

「んー・・・・そうなのかな・・・」

 

まだわかんない・・・のかな・・・

 

 

 

 

 

「え!?裕翔!?」

 

私がうーん・・・と悩んでいたら、あやかさんが急に驚いて声をあげた。

振り向くと、そこにはとても背の高いイケメンな男性が立っていた。

 

確か、この方はイケメン高身長野郎って伊野尾さんが言ってた方なはず。

 

 

「ごめん。聞くつもりはなかったんだけど聞こえてきちゃって。」

 

イケメン高身長野郎さんはあやかさんに向けてそう言った後

 

「余計なお世話だと思うけど、その男、ろくなやつじゃないよ」

 

私に向かってそう言った。

 

「え・・・?」

「君・・・」

 

突然すぎて驚く私にイケメン高身長野郎さんはそう言ったまま私の目を見つめている。

 

・・・私の名前が知りたいのかな・・・?

 

そう思った私が

 

「あ、まゆみです」

 

と言うと

 

「あ、中島です」

 

イケメン高身長野郎さんは私と同じように名乗りながら、ぴょこぴょこと頭を下げた。

私もそれに合わせてぴょこぴょこと頭を下げる。

少しの間2人でぴょこぴょこ頭を下げた後、

 

「まゆみさんとも手を繋いだのに、他の女の子とも手を繋いで歩いてたんでしょ?そんなやつやめといた方がいいって」

 

私は中島さんからのど直球の正論を浴びた。

 

「裕翔!」

「えーだってそんなの誰も幸せになれないよ?」

「そうだけど・・・ごめんね、まゆみさん。裕翔、素直すぎる所があって。悪気はないから!」

「あ、うん、大丈夫だよ」

 

確かに、そこだけを切り取ってしまうとそういう人に見えてしまうのも否めない・・・。

それに、中島さんの言ってる事は正論だ。

誰とでも手を繋ぐような人なのだとしたら、誰も幸せになれないのかもしれない。

 

「でも、私も大ちゃんがそんな人だとは思わなかったな・・・」

 

ぽつりと、あやかさんがつぶやく。

 

「・・・」

「あ、まだわかんないけどね」

 

何も言えない私にあやかさんは気を使ってか慌ててそういう。

 

「うん・・・私も、ちょっと有岡くんの事がわからなくなってる」

 

有岡くんは誰とでも手を繋ぐような人じゃない!って、中島さんに言えない自分がいる。

 

 

・・・有岡くん・・・ごめん・・・

 

 

 

 

 

「大ちゃんに彼女なのか聞いてみた?」

 

あやかさんがいう。

 

「ううん・・・何か怖くて」

 

私がそれに答えると

 

「でもそれを聞かないと前に進めないんじゃない?」

 

中島さんからまたまっすぐな正論が。

 

 

 

・・・中島さんの言葉、胸に突き刺さる。

本当、その通り過ぎて何も言えない。

 

 

 

 

「まゆみさん。裕翔のいうとおりかも」

「・・・」

「前に進むためにも、大ちゃんに聞いた方がいいと思う」

「・・・うん・・・そうだよね・・・」

 

中島さん、あやかさんの言う通りだ。

もう怖いとか言ってる場合じゃないのかも。

 

もし・・・あの子が彼女だったとしたら・・・

きっぱり諦められるのかもしれない。

 

 

 

 

 

「ごめん、まゆみさん。私そろそろ行かなきゃ。慧ちゃんと待ち合わせしてて」

 

あやかさんが時計を見ながらそう言う。

 

「え!あ、ごめん!ありがとう!またね!」

 

私は慌てて手を振る。

 

伊野尾さんと約束があったのに私の話を聞いてくれたんだ・・・

いい人だな。あやかさん。

本当、ありがたい。

 

 

 

 

 

 

「もし、まゆみさんがフラれたら俺が慰めてあげるよ」

 

あやかさんを見送った後で中島さんが笑顔でそう言ってくれる。

 

「あ・・・ありがとうございます・・・」

 

 

 

 

・・・それにしても。

お祭りの時に見た中島さんはあやかさんを自分のものにしようと必死だった気がしたのに。

今の中島さんはとても穏やかだ。

あやかさんとも普通に接していた。

 

 

 

 

 

・・・中島さんは辛くないのかな・・・?

 

 

 

 

 

私はふいに疑問に感じ、それをぶつけてみることにした。

 

 

 

 

 

「あの・・・ひとつ聞いてもいいですか・・・?」

 

 

 

「ん?何?」

「中島さんは・・・もうあやかさんの事・・・何とも思ってないんですか・・・?」

「えっ何で知ってんの!?」

 

私の言葉に驚く中島さん。

 

「あの、私、お祭りの時にあの場にいまして・・・」

「・・・え!?そうなの!?」

「はい・・・実は。」

「そうなんだ・・・」

 

中島さんは急な話で動揺したのか大きく目を見開いていたけれど、すぐに穏やかな笑顔に変わり言葉を続けた。

 

「まだ好きだよ」

「・・・ですよね・・・」

 

そう簡単には嫌いにはなれない。

すごくわかる。

 

「でも、あやかは本当に嬉しそうにあいつの話をするんだよね」

 

・・・確かに。

あやかさんは伊野尾さんの話をする時は本当に嬉しそうだ。

 

「あんな風に幸せそうな姿見てたらあきらめざるを得ないというか。」

 

・・・そうだよね・・・

あやかさん、すごく幸せそうだもの。

 

「あやかが幸せならそれでいいかなって思うようになってきたんだよ」

 

本当にさわやかな笑顔でそういう中島さんは本当に素敵で。

私もそんな風に有岡くんが幸せならそれでいいかなって思えるようになりたいって素直に思えた。

 

「・・・私もそんな風に思えるようになりたいです」

「じゃあまずは彼女なのかどうか聞かないとね」

「そう・・・ですね」

 

・・・うん。

やっぱり。

もう怖いとか言ってる場合じゃないんだ。

 

「大丈夫だって!フラれたら俺が慰めてあげるから!」

 

私の様子を見て中島さんがそう笑いながら言う。

何か、救われる。

 

「その時は本当、お願いします」

「まかせといて!じゃあ、またね!」

 

中島さんはそう言うとさわやかに去っていった。

 

・・・本当、イケメンだな・・・

 

 

 

 

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