妄想小説Walk第41話
あれ・・・?伊野尾さん・・・?
仕事からの帰り道。
私は伊野尾さんに遭遇した。
「伊野尾さん」
私が声をかけると伊野尾さんは一瞬ものすごく驚いた顔をし、そのあと微笑んで言った。
「まゆみさん、偶然だね」
「そうですね。でもお会いできてよかったです」
伊野尾さんがあんな感じで帰ってしまってから一度もお会い出来てなかったから、気になってた。
有岡くんのLINEも既読スルーしてるって言ってたし。
何よりも、私が声をかける前の伊野尾さん、儚くて消えてしまいそうだった。
「伊野尾さん痩せたんじゃないですか?ご飯ちゃんと食べてますか?」
「うん食べてるよ」
「食べないと倒れちゃいますからね!」
「うん、わかってる」
「ですよね(笑) 」
どうしよう。
色々聞きたいのに言い出せなくて、何か変な感じになってる。
とはいえ、どうやって聞いたらよいのやら。
はっきり聞くべきか、遠回しに聞くべきか・・・
悩む・・・。
「あのさ」
そんなことを考えてたら伊野尾さんに話しかけられた。
「はい?」
「まゆみさんって大ちゃんの事好きなんでしょ?」
「え!?いやっあのっ・・・」
突然、予想だにしなかった質問を投げかけられて焦りまくる私。
「ごまかさなくてもいいよ(笑) 見てればわかるから(笑) 」
「いやっそんなつもりじゃっ! ただ、戸惑ってるだけで! 」
「好きなんでしょ?」
焦ってる私に食い気味にダメ押しする伊野尾さん。
「・・・はい」
私はもう観念してうなずくしかなかった。
「いつ好きだって思ったの?」
「えっ」
「好きだって気持ちを確信した何かがあったのかなって。よかったら教えてよ」
まっすぐに私を見て伊野尾さんはそう言った。
伊野尾さんの中で何か思うことがあるのかもしれない。
もしかしたら、私にも伊野尾さんの気持ちの整理の手助けが出来るかも!
私が有岡くんを好きだって確信した何か・・・
「えーっと・・・」
・・・そうだ。あれは有岡くんと髙木くんと八乙女くんと4人でスノボに行った時だった。
「私、最初は「好き」っていう気持ちがよくわからなくて。」
「それ、何かわかるな・・・」
私の言葉に対して伊野尾さん、かみしめるようにつぶやく。
「え、わかりますか?」
「うん。・・・何となく。それで?」
伊野尾さんはうなずきながらも話の先を促す。
「えっと・・・そんな時に、有岡くんが女の子と歩いてる姿を見ちゃったんです」
「え!?そうなの!?」
「そうなんです」
あれは本当にショックだった。
あの子は一体誰だったんだろうって今でも思う。
「で?負けらんねー!って燃え上がったとか?(笑) 」
伊野尾さん、ニヤニヤしながらそう言う。
「いやいやいやいや(笑) 」
それを私はまず否定してから、話を続ける。
「何かすごくショックを受けちゃって。それで、何となく気になってるような気がしてただけなんだって思うようにしようと思って。」
「あー・・・・」
・・・あれ?
伊野尾さん、もしかして共感してくれてる・・・?
「それでまゆみさんはどうしたの?」
少し真剣な顔でまっすぐに私を見る伊野尾さん。
「避けちゃったんです・・・」
「無視したとか?」
「いや、そこまでは(笑) でも、有岡くんの顔を見ると女の子と歩いてる姿を思い出しちゃうから、顔が見れなくなっちゃって」
本当、辛かった。
「そっか・・・。その時大ちゃんは何か言ったの?」
「はい。私の様子がおかしいと思ったのか、私に何かあったんじゃないかって心配してくれて。私が勝手に動揺して勝手に顔が見れなくなったのに、有岡くんすごく優しくて。その時に、嫌いになんてなれないって思ったんです。「好き」でいいんじゃないかって」
伊野尾さんにお話しながら、私はあの時の事を思い出していた。
あの時の有岡くん、本当に優しくて。
私は気持ちを抑えることが出来なかったな。
「好き」っていう気持ちに気づいてしまうと、抑えるのは難しいんだって初めて気が付いた。
そんな瞬間だった。
「・・・まゆみさんは強いね」
そんな私の言葉に伊野尾さんは何かを思ったのか、そうつぶやいた。
「強くないです。今の関係が壊れるのが怖いから、絶対に気持ちを伝えられないですし(笑) 」
「そっか」
「はい。近くにいられるだけで幸せなんです」
有岡くんの笑顔を見ていられるだけで、幸せ。
「・・・やっぱ強いよ」
「え?」
「ちょっとうらやましいな」
「そうですか?」
「うん」
伊野尾さんはうなずくと少しの間黙り込む。
・・・何を考えてるんだろう?
やっぱり・・・あやかさんのこと・・・?
「俺・・・よくわかんなくて」
口を開いた伊野尾さんからはそんな言葉が流れてきた。
「・・・え?」
「自分の事がね、よくわかんなくて」
「ああ・・・」
その感覚は、わかる気がする・・・。
「自分がどう思ってるか、どうしたいのか。全くわかんない。・・・変だよね」
「そんなことないです。でも」
これは言いたい。
「自分と向き合ってみたり、人と話してみたりするのもいいのかなって思います」
今の伊野尾さんは自分の気持ちがよくわからないから混乱してしまってるだけなんだと思う。
落ち着いて考えたり、あやかさんやいろんな人と話してみると見えてくるものもあるんじゃないかなって、思う。
・・・この話があやかさんの話なのかどうかはわからないけど。
「向き合う・・・話す・・・ね。なるほど」
伊野尾さんはそう言うと
「ありがとう」
と笑みを浮かべた。
・・・少しは力になれたかな・・・?
なれてたらいいな・・・
「そういえば伊野尾さん、有岡くんから連絡ありました?」
これも聞いとかなきゃいけないことだ。
「お祭りの事?」
「そうです!」
「うん、あったよ」
「返信しました?」
「してない」
ですよね(笑)
「してあげてくださいよ(笑) てか行きましょうよ!私も行きますし!」
「んーーーーー」
「伊野尾さんと一緒にお祭り行きたがってましたよ?有岡くん」
「ええーーーーー」
「絶対楽しいですって!」
伊野尾さんはそんな感じでしばらく嫌がっていたが、私のごり押しに観念したのか、最終的には
「もーわかったよー行くよー(笑) 」
と笑ってくれた。
やった!!!!
「じゃあ有岡くんには私から伝えておきますね♪♪♪ 」
「うん、お願い」
よかった!
本当よかった!!
「あ、ドレスコードは浴衣らしいです(笑) 」
「らしいね(笑) 」
知ってたんだ(笑)
そっか(笑) 有岡くんが言ってるか(笑)
「あ、そういえば、さっきの話、有岡くんには内緒ですよ!!」
「えーどうしようかなー」
「えーー!?」
「うそうそ(笑) わかってる(笑) 教えてくれてありがとう」
伊野尾さんに笑顔が戻ってきた気がする。
良かった♪
「じゃあ、またお祭りで♪ 」
私はそう言うと笑顔でその場を去った。
しばらく歩いた先で私は有岡くんに電話をかける。
・・・でも有岡くんは電話には出なかった。
しょうがない。
LINEするか。
”今、伊野尾さんに遭遇したよ!お祭りに来てくれるって! ”
これであやかさんにもこの吉報が届けられるだろう♪
よかったー♪♪
あとは伊野尾さんさえ自分の気持ちに気づけば、きっと!
あー楽しみ♪