妄想小説Walk第34話

仕事が終わる直前になって取引先から私宛の電話が入ってしまい、有岡くんを待たせてしまった私。
有岡くんから車で待ってると言われていたので、私は仕事が終わり次第慌てて有岡くんの車まで走り、そのままドアを開けて乗り込んだ。

「ごめん、おまたせ!」
「大丈夫?」
「うん、大丈夫。遅くなってごめんね」
「俺は大丈夫だよ」

有岡くんの表情は硬いままだけど、言葉は優しい。

「ちょっとドライブしない?」
「うん、いいよ」

そんな有岡くんの言葉に私がそう言ってうなずくと、有岡くんはエンジンをかけて車を動かした。

 

 

「・・・・。」

 

 

有岡くんは無言だ。

 

 

 

 

どうしたんだろう。
大事な話って、何なんだろう・・・

すごく気になるけど何も聞けず、私はただ前を見てる事しか出来ない。

 

 

 

 

「まゆみさん。大事な話がある」

有岡くんがおもむろに口を開く。

「・・・うん」

うなずく私。

「俺、いのちゃんと付き合ってる」

 

 

 

・・・え?

 

 

 

 

私はすぐに状況がつかめず、固まってしまう。

 

「・・・ごめん、よく聞こえなかった。もう一回教えてもらってもいい?」

聞き間違いかもしれない、と思い、私はそう問いかける。

 

「うん。俺、いのちゃんと付き合ってる。」

 

今度はゆっくりはっきりとそういう有岡くん。

 

 

 

 

・・・聞き間違いじゃなかった・・・

 

 

 

 

「伊野尾さんとお付き合いしてるんだ・・・」

頭の中がものすごくパニックになっている。

 

 

何だろう。
何でしょう。
何だったんでしょうか。

 

 

・・・え?

 

 

・・・ん?

 

 

・・・お?

 

 

 

・・・。

 

 

 

 

うん。
一つだけはっきりしてる事は

私、今振られたって事だ。

でもこの状況が想定外過ぎて心が全くついて行かない。

 

「だから、今後いのちゃんと2人でご飯食べに行ったりとかしないで欲しいんだよね。俺、結構嫉妬しちゃうから」

 

 

・・・そういうことだったのか・・・。
嘘をつかれたことに怒ってたわけじゃなくて、嫉妬してたのか・・・。

 

 

「そっか、わかった。ごめんね。でも本当に信じて。バッタリ出会ったからご飯を食べに行っただけだから。伊野尾さんにそんな気は全くないと思うから!」

私、何で伊野尾さんのフォローしてるんだろう。
自分でもよくわからない。

 

そんな私に有岡くん、

「こんな俺の事、受け入れてくれるんだね」

と優しく微笑む。

「え?」
「男と付き合ってるって聞いても俺の事受け入れてくれるんだなって」
「ああ・・・」

 

そこか。

 

「好みというか、趣向に関しては人それぞれだからさ。そこは大丈夫だよ。」

うん、そこはね。

「ただ、いきなりすぎてびっくりしてるけど」

自分の気持ち、押し殺すのに時間がかかるかもしれないけど。
受け入れざるを得ない。と、思う。

 

 

「だからまゆみさん好きだよ」

 

 

出来ればその言葉、違う意味で聞きたかった・・・

 

 

「あ、ありがとう」

 

 

頑張って笑顔を作ってはみてるけど、きっとおかしな顔してる。私。
車の中だからあまり顔が見えないのが唯一の救いかも。

「安心したら腹減ってきちゃった。ご飯食べに行こうよ!」

 

 

・・・えっ

 

 

「あ、その前に寄らなきゃいけない所があったんだった。そこに寄ってもいい?」
「あ・・・うん・・・」

 

ご飯なんて食べれる精神状態じゃないけどはっきりと断ることも出来ず・・・
私はただうなずくことしか出来ない。

 

「ありがとう!いやーよかったー!!俺さー・・・」

カミングアウト出来てすっきりしたのか、楽しそうに話す有岡くん。
私は相槌を打ってはいるものの、話は全く聞こえてこない。

「その時いのちゃんがさー・・・」

 

 

 

 

伊野尾さんの事、そんなに嬉しそうに話さないで。
私、大好きな人から好きな人の話聞けるほど強くないよ。

 

 

 

 

「本当、面白かったー!!」

 

 

 

有岡くんが楽しそうに伊野尾さんとのエピソードを話せば話すほど私の心は暗くなっていく。
それを見せないように、私は必死で話を聞き、必死で笑顔を作った。

 

 

そんなに伊野尾さんの事好きなら何で私に伊野尾さんの事勧めたの・・・?

 

 

そんな思いを書き消しながら。

 

 

 

 

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