妄想小説Walk第33話
私は今、有岡くんと白米商事に来ている。
受付の方に「こちらです」と案内された部屋のドアをノックして開けると、そこには幻想的な光景が広がっていた。
「・・・。」
私はそっとドアを閉める。
「え!?どうしたの?」
私の後ろにいた有岡くんには中の様子が見えなかったらしく、ドアを閉めてしまった私に戸惑っている。
そんな有岡くんに私は
「天使がいる」
と一言告げた。
「え? 」
「天使がいたの」
「えっ何なに?意味わかんない」
私は戸惑い続ける有岡くんの背中をそっと押しドアを開けた。
「わーーー!!!!すげーーーー!!!!なにこれ!!!!!」
部屋の中に広がる光景を見て有岡くん、大興奮。
部屋の中にはなぜか白と黄色の羽が舞っていて、その中で伊野尾さんが羽と戯れていたのだ。
「あれ?大ちゃん?」
有岡くんの大声に気づき、伊野尾さんが言う。
「いのちゃん、何やってんの?」
「結婚式の演出にどうかなと思って試してた」
結婚式の演出か!
なるほど!
「演出なんですね!」
「そうだよー」
私の言葉にうなずく伊野尾さん。
そして言葉を続ける。
「そういえばまゆみさん、こないだはありがとう。またご飯行こうね」
「いえいえこちらこそごちそうさまでした!おいしかったですね、あのお店」
「でしょ?他にもいいお店いっぱいあるから!また行こうね 」
「はい、ぜひ!」
「え?なに?2人でご飯行ったの?」
私と伊野尾さんの会話を黙って聞いていた有岡くんが口をはさんでくる。
「うん」
それに伊野尾さんが答える。
「俺は?」
「大ちゃんは来なくていいよ」
「何だよ!」
仲いいなぁ(笑)
「まゆみさん、また2人で行こうね!」
伊野尾さんがわざと「2人」を強調して言う(笑)
「はい(笑) 」
「なんだよ!じゃあもういいよ!まゆみさん、帰ろ!!」
何だか子供みたいに怒る有岡くん。
ちょっと可愛い(笑)
「あ、うん、じゃあ失礼します」
私は伊野尾さんにそう言って頭を下げると、先に歩き始めていた有岡くんに着いていった。
「まゆみさん、俺、こないだまゆみさんがいのちゃんと2人で歩いてるとこ見たんだよ」
しばらく歩いた頃、有岡くんがそう話しだした。
「え!?あ、そうなの!?」
「2人でご飯食べに行ってたんだね」
「あーうん、そうだね」
「何で俺に嘘ついたの?」
「え!?私、嘘ついた???」
「うん。一人で買い物してたって言った」
「・・・?」
そんなことあったかな・・・?
「まゆみさんがいのちゃんとご飯食べた数日後に俺が「今週のお休みは何してた?」って聞いたら「一人で買い物してた」って言った」
考え込んでる私に有岡くんがそう説明してくれる。
1人で買い物・・・
あ!!あれか!!
有岡くんがやたら「1人」に食いついてきた、アレの事か!!!
「ごめん、嘘ついてたわけじゃなくて忘れてただけなの。あの日、1人で買い物してたら伊野尾さんにバッタリ出会ってご飯食べようって話になったから・・・」
「え、それ忘れる????」
これ、髙木くんにも同じような事言われたな・・・
でも事実だもの。しょうがない。
「有岡くんと話してた時はうっかり忘れてた」
「本当?」
「本当。」
「忘れるんだ・・・」
「面目ない・・・・・・」
もうこれは言い訳できない。
本当にすっかり忘れてたもんね・・・
「・・・。」
それっきり有岡くんは黙り込んでしまった。
私も何も言えず、ただただ気まずい空気が流れた。
その空気を打ち破ったのは有岡くんの言葉だった。
「ごめん、俺仕事思い出したから先行くわ」
「あ・・・うん・・・」
私の方をちらりとも見ずに去っていく有岡くんの後姿を私は見送ることしかできなかった。
・・・どうしたんだろう?
あんな有岡くん珍しい気がする・・・。
そんなつもりはなかったけど、嘘をついた事になってしまってごめんなさいって言うべきなのだろうか・・・
私は会社に戻るまでの道すがら、ずっと悩んでいた。
「まゆみさん、今日の夜、空いてる?」
その日の夕方。有岡くんが仏頂面でそう聞いてきた。
「うん、空いてるよ!」
白米商事から帰ってきてから今日一日、何だか有岡くんに避けられているような気がしてたから、声をかけてもらえて何だか嬉しくなっちゃって、無駄に明るく言ってしまう私。
「仕事終わった後、少し時間もらえるかな?大事な話があるんだ」
「え・・・うん、いいよ」
「じゃあまた後で」
そう言うと有岡くんはくるりと後ろを向いて去っていった。
・・・何だろ・・・大事な話って・・・
怖いんだけど。
変なことにならないといいな・・・