妄想小説Walk第1話

社員旅行からの帰り道。
後輩の有岡くんの運転するバスに乗って帰っている私たち。

だけど私以外の人はみんな疲れて眠ってしまった。
私も眠いけど、行きも帰りも運転してくれている有岡くんに申し訳なくて頑張って起きている。

「有岡くん大丈夫?眠くない?」

運転席の後ろの席に座っている私は他の人を起こさないように小声で話しかけた。

「え!?あ、大丈夫です!運転好きなんで!」

急に話しかけられて驚いたのか、少し大きな声で言う有岡くん。
それに私は慌てて人差し指を立てて「しーっ」とすると、有岡くんも「あっ」と首をすくめてうなずいた。

「ガムあるけど食べる?」
「あ、はい」
「はーい」

私は包み紙から取り出したガムを一粒有岡くんの方に差し出すと有岡くんの出した手の上に乗せた。

「ありがとうございます!」
「いえいえ」

有岡くんはガムを食べると
「みんな寝てるんだと思ってました」
といった。

「うん。私たち以外みんな寝てる(笑)」
「そうですよね(笑)  まゆみさんは眠くないんですか?」
「眠くないわけじゃないけどね(笑)」
「寝てていいですよ。着いたら起こしますし」

そうだよね。
そうなるよね。
でもさ。

「んーーー有岡くんも起きてるしねー私も起きてるよ」
「じゃあしりとりしません?実は俺ちょっと眠くなってきてて」

唐突(笑)

「いいよ(笑) じゃあ私からね!しゃいんりょこう!」
「え!?もう始まってる!?・・・えっとーーーーうなぎ!」
「ぎ!?・・・ぎりしゃしんわ!」
「わ・・・わ・・・わたみ!」
「今絶対看板見たでしょ(笑) ずるくない?」
「ずるくない!まゆみさん、次は「み」だよ!5.4.3.2・・・」
「え!?み!み!・・・みわあきひろ!」
「人名あり!?」
「あり!5.4.3.2.1・・・」
「ろーとせいやく!」
「なんだそれ!!」

何か勢いで始めたしりとりだけどやたら楽しい(笑)
私たちはしばらくしりとりを楽しんだ。

 

 

しばらくすると見慣れた景色が見えてきた。
そっか。
もう着いちゃうんだ。
何か寂しい。

「まゆみさん」
「ん?」
「会社に着いたら俺このバスを返しに行かなきゃいけないんだけど、つきあってもらえません?」

そっか。
バスの返却も有岡くんの仕事なんだ。
大変だな。

「うん、いいよ」
「じゃ今から寝てください」
「え?」

私でよければ、と軽い気持ちで返事したんだけども。
よくわからないことを言われて私は戸惑う。

「寝たふりでもいいけど」
「は?」

ますます訳が分からない。
でも、そんな私にはお構いなしで有岡くんは話し続ける。

「それで、俺以外の人に起こされても絶対起きないでください」
「・・・何で??????」
「俺の声だけで起きて欲しいから。」
「???????」

何か思わせぶりな発言のような・・・ただの悪ふざけのような・・・。
よくわかんないけどまぁいいか。

「・・・わかった。・・・おやすみ」

・・・なんなんだろう?
”俺の声だけで起きて欲しい”だなんて。
どういう意味??

・・・もう。有岡くんが変な事言うから目が冴えて寝れないじゃん・・・

って思ってたら。

「あれ。もう着くんだ!早!!」
という髙木くんの声がして私は慌てて目を閉じた。

「あ、はい!みなさんもうすぐ着きますんで、起きてください!」

有岡くんの声がする。
多分、これで起きちゃダメって事だよね。

「んーーーーー」
「よく寝たーーーーー」

車内がざわざわし始めた。
みんな目を覚ましてるんだ。
何かドキドキする・・・。

てか私が起きないっていう設定に何の意味があるんだろう。
謎だ・・・。

「まゆみさーん、着くよーーー」

八乙女くんの声がする。

「・・・」
「まゆみさーん。・・・。全然起きない。どうしよ」
「あ、俺送っていきますよ。同じ方向だし」
「あ、そ?じゃまかせた」

特に疑問には思わないんだ(笑)
なかなかにおかしな状況だと思うんだけど(笑)
さすが八乙女くん(笑)

少ししたら車は止まり、みんなが車を降りていく音や声が聞こえてきた。

「有岡、ありがとな。車よろしく。もうちょっと頑張って」
「はい!頑張ります!」

髙木くんのねぎらいに有岡くんの元気な声。
いつもの光景。
見えないけど(笑)

やがて全員バスを降りたのか、再びバスは走り出した。

「・・・」

有岡くんは無言だ。
・・・やばい。本当に寝ちゃう・・・。

 

 

 

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