妄想小説Walk2 エピソード5

「大ちゃん、今日もやるでしょ?」

「おう!帰ったらLINEするわ」

「じゃあそれまでに風呂はいっとこ」

「あー俺もそうしよ!」

「じゃまた後でね」

「おう!」

 

 

最近、仕事が終わると、有岡くんと山田さんはよくこんな会話をしている。

2人でオンラインゲームをしているらしい。

私はゲームの事はよくわからないけど、有岡くんも山田さんもとても楽しそうだ。

 

 

 

「まゆみさん、まだ仕事?」

 

有岡くんが私に聞いてくる。

 

「うん、もうちょっとかかるかな」

「そっか・・・じゃあ先に帰ってもいい?」

 

私の返答に少しだけ考える素振りをした後で有岡くんはそう言う。

 

「うん」

 

頷いた私を見て有岡くんは嬉しかったのか

 

「じゃあまた明日ね!」

 

と、言ってる途中から走って帰っていく。

私はその後姿を見送ると、デスクの上に並べている仕事の資料を片付けた。

 

 

 

本当は仕事はもう終わっている。

でも、楽しそうな有岡くんの邪魔をしたくなくて、仕事が終わらないふりをしている。

 

・・・というか。

 

私は多分、山田さんに嫉妬している。

 

 

ここ最近、休日に有岡くんに電話をすると、いつも電話の向こうからはしゃぐ山田さんの声が聞こえてきていた。

有岡くんの声も楽しそうで。

邪魔してしまうのが申し訳なくて、いつも慌てて電話を切っている。

 

 

仕事でもプライベートでも有岡くんと一緒にいられる山田さんが羨ましすぎて。

プライベートで有岡くんに会えないのも寂しくて。

でも、そんな器の小さい自分もすごく嫌で。

 

最近の私はぐちゃぐちゃな感情を抱えて過ごしていた。

 

 

 

 

・・・ああ。もう。

 

 

 

こんな自分、本当いやだ。

 

 

 

 

私は、少しでも気を紛らわせたくて、買い物にでも行こうと会社を後にした。

 

 

 

 

特に何かを買う訳ではないけれど、プラプラと街を歩くのは嫌いじゃない。

今日も特に目的もなく、ただただウインドウショッピングを楽しんでいた。

 

そんな時。

ふと。パジャマが目に入った。

見るからに着心地が良さそうだったので、思わず触ってしまう。

 

 

・・・気持ちいい・・・

 

柔らかくて、肌触りがいい。

これ、きっと、有岡くん好きだろうな・・・

 

 

そう思ったらどうしても欲しくなった。

私は購入しようと思ってメンズを手に取る。

と。その横に。

お揃いでレディースがあることに気が付いた。

 

 

これを買ったら有岡くんとお揃いになる・・・

 

 

欲望に負けた私はレディースも手に取り、足早にレジへと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰って。

衝動買いしたふたつのパジャマを並べて眺めてみる。

最初は一緒にお揃いのパジャマを着ている姿を想像して、嬉しいやら照れくさいやらのよくわからない感情が心を支配していたが。

段々と申し訳ない気持ちがムクムクと湧き上がってきた。

 

 

有岡くんとお揃いのものを身に着けるなんて、おこがましいのかもしれない。

 

 

衝動買いとはいえ、何だか急に自分の行動が恥ずかしく思えた。

 

 

 

何やってんだろ私・・・

 

 

 

私は、目の前に広げたふたつのパジャマを丁寧にたたみ、それを入っていた袋の中に戻す。

そして、誰にも見つからないようにクローゼットの奥にしまい込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよ!」

 

翌朝。自分のデスクに座って仕事をしていたら、出勤してきた山田さんにそう声をかけられた。

 

「おはよう」

 

朝から何だか楽しそうな山田さんに私は普通に挨拶をした。

・・・つもりだった。

 

「何かあった?」

 

私の顔を見た山田さんは急に心配そうな顔をして私を見る。

 

「えっ」

 

そんなつもりはありませんが何かあったとすればあなたに嫉妬している自分がいます

・・・何て言えるわけない。

 

私は、え?逆にどうしたの?ぐらいのテンションで

 

「別にないよ。何で?」

 

と返してみる。

山田さんはそれに「いや、何となく」と言うと、自分のデスクに座って仕事の準備をし始めた。

 

 

 

・・・怖い。

そういえば山田さんは元詐欺師なんだった。

変な態度を取ると見透かされてしまう可能性が高い。

気を付けなきゃ。

 

私は慌てて気持ちを切り替えて仕事に向き合った。

 

 

 

 

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