妄想小説Walk2 エピソード38

「・・・気になる?」

 

髙木くんは皆の顔を見回すと、何故かニヤッとしてそう言う。

 

「気になる!」

 

有岡くんは素直にそう言い、うなずく。

私もそれに便乗してうなずいた。

 

皆の視線が髙木くんに注目する。

すると。

 

そんな皆の視線から少し目をそらしながら、髙木くんは言った。

 

「あいつ、留学したんだよ」

「え!?どこに!?」

「イギリス」

「イギリス!?」

 

皆の声が重なる。

 

「イギリスで勉強したいから留学するんだって」

「ほぉ・・・・」

 

髙木くんの言葉を受けて、有岡くんから変な声が出る。

 

 

でも、わかる。

私も声は出さなかったけれど、留学、そしてイギリスなんて、予想外過ぎて驚きの向こう側にいってしまいそうだ。

 

そして、それに対して、何て言っていいのかが、私にはわからない。

 

が。

 

 

「留学するだけなら別れる必要なくない?」

 

八乙女くんはそうではないみたいで、舌足らずな声でそう言う。

さっきは一緒に叫んでたのに、意外と冷静だ。

 

「俺もそう言ったんだけどさ。待たせるのが申し訳ないからって言われてさ」

「そっかーそう言われちゃったら、何も言えねーか」

「そうなんだよ。あいつの夢の邪魔したくないしさ」

「だよなー」

 

髙木くんも八乙女くんも、すごく冷静に会話している。

2人とも、サラッと話してるけど。

 

 

あいつの夢の邪魔したくない

 

 

とか。

なんてかっこいいんだろう髙木くん。

それに同意している八乙女くんも、実は地味にかっこいい。

 

 

そして。

髙木くんとちよこさんがお互いに嫌いになって別れたわけではなく、お互いの為を思って別れたんだろうなって思うと、切なさはあるけれど、前向きな気がして、少し救われたような気分になる。

 

 

 

 

私がそんなことを思っていたら。

 

「かっこよすぎます髙木先ぱい・・・」

 

せっかく泣き止んでいたひろちゃんが、そう言って、また目に涙を浮かべていた。

 

「あーあ(笑)」

 

八乙女くんがそれを見て笑ってる。

 

「俺の方が泣きたいんだけど(笑)」

「そりゃそうだ(笑)」

 

髙木くんの言葉に八乙女くんが更に笑いだす。

 

 

 

 

・・・まあ、そうだよね。

前向きとか後ろ向きとか関係なく、別れは辛い。

 

私には絶対無理だ。

 

髙木くんが、そんな辛さを表に出さないようにしているのだとしたら、本当にすごいと思うし、尊敬する。

 

 

きっと、八乙女くんもそんな髙木くんの気持ちを汲んで、笑顔で接しているに違いない。

 

何となく、そう感じて。

すごく素敵だな、そう思った。

 

 

 

 

 

 

そんな八乙女くんに先ほどから笑われっぱなしのひろちゃん。

目に浮かんでいる涙をさっと拭いたかと思ったら、急に勢いよく立ち上がった。

 

「???」

 

皆の視線がひろちゃんに集中する、そんな状況で。

 

「どうぞ!」

 

ひろちゃんは、力強く両手を広げ、まっすぐに髙木くんを見つめてそう言った。

ひろちゃんの顔は凛としていて、何より、強い意志を感じる。

 

 

しかし、何が「どうぞ」なのかは誰にもわからず。

髙木くんも、八乙女くんも、有岡くんも、私も、ぽかんとしてひろちゃんを見つめることしか出来ない。

 

そんな空気を察したのか、ひろちゃんは改めて両手を広げ、髙木くんをまっすぐ見つめて力強く言った。

 

「私の胸で泣いてください!」

「・・・」

 

 

 

”私の胸で泣いてください”って・・・

何かどこかで聞いたことのあるフレーズのような・・・

 

何だろう。

 

 

 

 

 

 

・・・は。

 

 

私が思ってるのって

 

 

”私の中でお眠りなさい”、か。

 

 

 

 

 

全然違うじゃん何言ってんの私(笑)

絶対ひろちゃんの”形”で連想してるよ私(笑)

 

 

こんな状況で、何ともふざけたことを考えてしまって誠に申し訳ないが、我ながらくだらなすぎる。

 

私は、笑いが込み上げてくるのを必死で抑えるしかなかった。

 

 

 

 

そんな時。

 

ふいに髙木くんが立ち上がり、優しく、ふわっとひろちゃんを抱きしめて

 

「じゃあそうするから全部受け止めて」

 

と笑った。

ひろちゃんは、一瞬驚いたようだったが、すぐに

 

「・・・はい!全力で受け止めさせて頂きます!」

 

と言って髙木くんを抱きしめる。

 

「・・・」

 

 

 

 

 

 

・・・は。

 

普通にじーっと見ちゃってたけど、こんなにじっくり見て良かったんだろうか。

 

私は何となく気まずくなって視線を外すと、何故か有岡くんと目が合った。

 

「・・・」

 

とりあえず、口の端を上げて笑ってみる。

すると、有岡くんも同じように口の端を上げて笑い返してくれた。

 

 

 

・・・待って。

かっこいい。

好き。

 

 

 

「ちょっと!いつまで抱き合ってんだよ髙木(笑)」

 

私が有岡くんのかっこよさにクラクラしていたら、八乙女くんがそう言って笑っていた。

 

「え?」

 

髙木くんはひろちゃんと抱き合ったまま、顔だけを八乙女くんの方に向け

 

「だって受け止めてくれるって言うから」

 

笑いながらそう言った。

 

「はい!髙木先ぱいの悲しみは、私が全て受け止めさせていただきます!!」

 

ひろちゃんは元気だ。

 

「あーおかげで元気になったよ。ありがとな」

 

そんなひろちゃんに髙木くんは笑顔でそう言い、ひろちゃんから離れる。ひろちゃんは

 

「いつでも受け止めますから!また言ってください!」

 

と、少し名残惜しそうだが、元気にそう言った。

 

・・・というか、軽く懇願しているのか・・・?

心なしか、ひろちゃんの目がハートになっているように見える。

 

 

 

・・・さては、味を占めたな。

 

 

 

「その時はよろしく」

「まかせてください!!!」

 

髙木くんの言葉にひろちゃんはそう言うと、スキップしているのか何なのかわからないけれど、確実に浮かれまくって仕事に戻っていった。

 

 

その後、ひろちゃんは「こちらはサービスです!」とか言いながら色々なものを持ってきてくれて。

その時に食べたものは、ほぼほぼ”ひろちゃんのサービス品”だった(笑)

 

何か、申し訳ないかな?とも思ったけれど。

 

ひろちゃんが何かを持ってきてくれるたびに、髙木くんがとびきりのイケボで「ありがとう」と笑顔を見せ。

それを受けてひろちゃんも、何なのかよくわからないステップで嬉しそうに去っていくので、それはそれでいいのかな(笑) と思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り道。

有岡くんと私は人気のない道を2人で歩いている。

 

「そっかー髙木さん1人になっちゃったかー」

 

ふいに、有岡くんがしみじみとそんな事を言いだした。

 

「びっくりしたね」

「びっくりした!」

 

私の言葉に有岡くんはそう言うと立ち止まり、何故か私の方をじっと見つめている。

 

「・・・?」

 

何だろう?と思って見つめ返してみるが、有岡くんはずっと私を見つめ続けたままだ。

 

「・・・」

 

私はとりあえず、有岡くんの方に両手を広げて言う。

 

「私の胸で泣く?」

 

何となく思いついた”ひろちゃんのマネ”で、完全なるおふざけだったのだが、有岡くんは嬉しそうに笑い、勢いよく飛びかかって来ようとする。

 

が、すぐにハッとして止まり、一旦かっこつけ、ふわっと優しく私を抱きしめると

 

「俺の事、全部受け止めて」

 

髙木くんのマネをしているのであろう。

気を失いそうなほどのイケボでそう言った。

 

「ぜっ全力で!!おまっお守りっ!!しまっ!!!」

 

予想外のイケボに私は舞い上がってしまい。

声も裏返りながら、訳の分からないことを言ってたのだが。

それでも有岡くんは満足してくれたのか、私の事をぎゅーっと抱きしめて離さない。

 

 

 

 

・・・好きだ。

とにかく好きだ。

バカみたいに好きだ。

 

この人に、一生ついていきたい。

 

 

私は、有岡くんのぬくもりから感じる幸せに体をうずめていた。

 

 

 

 

エピソード39へ

 

エピソード38 裏話へ