妄想小説Walk2 エピソード35

本日。

私は知念師匠からの指令を実行すべく。

あえて、仕事のスピードを遅らせ。

残業になるように仕向けています。

 

 

「あれ?どした?今日なんか手こずってない?」

 

たまたま通りかかった髙木くんが立ち止まってそういう。

 

さすがだ。

 

「あっ何か今日うまくいかないんだよね・・・」

 

わざと仕事してません、なんて言える訳もないので、私は頑張って調子の悪いフリをする。

 

「まあいざとなったら残業手伝ってやる・・・って言いたいとこだけど、俺今日定時で帰らなきゃいけないんだよね」

「いいよ!全然大丈夫!私頑張るから!」

 

私は髙木くんの優しさに感謝しながらそう言うと、言葉を続ける。

 

「それに、いざとなったら有岡くんにお願いしてみる(笑)」

「そうだな!有岡がやればいいか!(笑)」

「うん(笑)」

 

”有岡がやればいいか”っていうのもアレだけど、髙木くんは納得してくれたみたいだから良かった(笑)

 

 

 

・・・さて。

では、有岡くんを予約しにいかなくては。

 

 

 

私は変にドキドキしながら席を立つと、有岡くんのデスクへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あのっ、ありおかくん・・・・」

「ん?どした?」

 

振り返り私を見る有岡くんがかっこよすぎて、白目をむきそうになる私。

 

いかん。気をしっかり。

私には指令を遂行する任務がある!

 

 

私は大きく深呼吸をすると、ゆっくりと話し出す。

 

「今日って・・・何か予定あったりする・・・?」

「ないよ。何で?」

「あの・・・実は・・・ざ、残業をね、手伝ってもらえたりなんかすると嬉しいなって・・・」

 

慣れないことをしているので、段々声が小さくなってしまう私。

 

そんな私にも有岡くんは

「うん、いいよ」

と、嫌な顔ひとつせずに快く了承してくれた。

 

 

や、優しい!好き!

 

 

「じゃあ手が空いたら戻ってくるね」

 

そして、有岡くんは微笑みながらそう言う。

 

「え、外出るの?」

「うん」

「え、じゃあいいよ!無理しないで!私ひとりで出来るから!ごめん!本当!」

 

有岡くんの言葉に私は慌ててそう言う。

 

今日外に出ると思ってなかったからお願いしちゃったけど、こんなことなら別日にすればよかった!

 

「いいよいいよ。どっちにしろ帰ってこなきゃいけないし。気にすんなって!」

 

そんな私にも有岡くんは笑顔でそう言う。

本当、頼りがいのある人だ。

 

「・・・ごめんね・・・」

「何で謝るの」

「いや、何か・・・」

「そこがまゆみさんの悪いとこだよ!俺がいいって言ってんだからいいんだよ」

「・・・はい・・・」

 

 

優しい・・・

 

 

「お願いします」

 

私が深々と頭を下げてそう言うと

 

「まかせなさい」

 

有岡くんはそう言って笑った。

 

 

だ、大好きです!!!

 

 

私は盛大にニヤけてしまう顔を必死で隠しながら、自分のデスクへと戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

定時になると、みんな今日は何かしらの予定があるのか、早々と帰っていく。

なので、会社に残っているのは有岡くんと私のみという状況。

残業、とはいえ、そんなに仕事も残ってないので、あっという間に仕事は終わったのだった。

 

 

「有岡くんのおかげですごい早く終わったよ!ありがとう!!」

 

帰り支度をしながら、私はそう言う。

 

「いつでも言って」

「ありがとう」

 

さすが有岡くん。

頼りになる男!!

 

「でもめずらしいね。まゆみが仕事手伝ってって言うの」

 

疑問に思っていたのか、有岡くんがそんな事を言い出す。

 

「え・・・うん・・・あの・・・実は・・・」

 

 

・・・言わなきゃ。

ここで言うべきだ・・・!

 

 

「あのっ、今日は、どうしても、有岡くんと一緒にいたくて・・・」

「えっ」

「本当は残業しなくても大丈夫だったのですが・・・つい・・・えっ!?」

 

全部言い終わる前に、私は有岡くんに抱きしめられていた。

 

「あ、有岡くん!会社!会社!」

 

私が慌ててそう言ったけど、有岡くんはそれには構わずに、もっと強く、ぎゅーーーーっと私を抱きしめた後、そっと離れ。

 

「残業なんて言わなくても、いつだってそばにいるよ俺」

と言った。

 

「有岡くん・・・」

「帰ろ。」

 

有岡くんはそう言うと、まぶしいほどの笑顔を見せる。

そして、頷いた私の手を握ると、そのまま引っ張って私を連れていく。

 

 

 

・・・会社で手を繋ぐのって、何かドキドキする・・・

 

 

 

そう思っていたら。

 

「何かドキドキするな」

 

有岡くんが振り返ってそう言った。

 

「え・・・?」

「会社で手を繋ぐことってあんまりないからドキドキする」

「わかる!私もそう思ってた!」

 

有岡くんと同じことを思っていたことが嬉しくて、思わず興奮してしまう私。

 

そんな私を見て、有岡くんはくしゃくしゃの笑顔を見せると

「たまにはいいな」

と言った。

 

「・・うん!」

 

この、目元がくしゃってなる有岡くんの笑顔がすごく好きだ・・・

 

大好きな有岡くんの笑顔に私が見とれていると、有岡くんは、これまたイケ散らかした顔をして

「今日、泊まってっていいよね?」

と言う。

 

断る理由なんてない。

 

「もちろん!」

「よーしじゃあ何食べる?」

「何がいいかなぁー有岡くんは何か食べたいものある?」

「肉!」

「じゃあお肉食べよ!」

「よっしゃー!」

私たちは、そんな平和な会話をしつつ、会社を後にした。

 

 

 

 

 

 

翌日。

私は知念師匠に報告のLINEをしていた。

 

”昨日、初めて有岡くんに残業をお願いしてみました。快く引き受けてくれたし、めちゃくちゃかっこよかったです。師匠のおかげです。素敵な景色を見させていただいて、ありがとうございます”

 

師匠に指導していただかなかったら、きっと私は一生自分から有岡くんに残業をお願いすることなんて出来なかったと思う。

私は、知念師匠に心から感謝した。

 

 

 

 

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