妄想小説Walk2 エピソード33

私は今日1日、1人で外回りをしている。

その途中で、何となくスマホを見たら知念さんからLINEが届いていた。

 

”その後、順調ですか?僕は今日ジムにいるので、暇なら来てください”

”もちろん、行かせていただきます”

 

すぐさまそう返信する。

トレーニングウエアは今日は持ってきていないからトレーニングは出来ないけど、師匠が来いというのなら、行かない選択肢などないのだ。

 

・・・にしても。

何だろう。

何かあったのかな。

 

とりあえず、有岡くんにLINEしておこう。

 

”知念さんからジムに来てほしいっていうLINEが来たから、仕事が終わったらジムに行くね”

 

私がそんなLINEを送ったら、すぐ既読になった。

 

あれ?有岡くんも今スマホ見てたのかな?

 

そう思っていたら。

 

”俺のとこにもLINE来た!俺も仕事終わったら行くわ”

 

と返信が来た。

 

やった!有岡くんに会える♪

 

私は心躍らせながらスマホを閉じる。

そして、次の得意先へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

仕事が終わり、ジムに行くと、トレーニングウエア姿の知念さんが受付で待ってくれていた。

「まゆみさん!こっちこっち!」

そう言って手招きしている知念さんの方へ向かうと知念さんは

「僕とお話しよ。こっち来て」

と言ってミーティングルームへと私を促す。

 

「座って」

「はい」

部屋に入ると椅子に座るように指示されたので、言われるがままに座ると、知念さんは私の向かい側に座り、おもむろに話始めた。

 

「あれからどう?ちゃんと、時々”大貴”って呼んでる?」

 

あ・・・その話なのね。

 

「はい。うまく出来てるのかどうかはわかりませんけど、有岡くんが忘れた頃に”大貴”って呼ぶようにしてます」

「素晴らしい。で、大貴の反応は?」

「有岡くんは・・・少し慣れてきているかもしれません」

 

最近は”大貴”って呼んでも鼻が膨らまなくなってきた。

 

「なるほど」

知念さんはそう言うと、少し考えてから話を続ける。

「じゃあそろそろ違う事してみようか」

「・・・はい」

 

次の指令ですね。

 

知念さんの言葉に、私は思わず背筋を伸ばし、聞く体制に入る。

そんな私を見て知念さんは軽く微笑むと言った。

 

「まゆみさんって、自分から誰かに手伝いをお願いできる?例えば、残業とか」

「えっ」

思いもよらないことを言われて、少し戸惑う私。

 

・・・言われてみれば、残業してる時に「手伝おうか?」と言ってもらえる事はあるけど、自分から一緒に残業してほしい、とお願いしたことってないかも。

 

「・・・ない・・・と思います」

「やっぱり。」

 

え、やっぱり?

 

「じゃあ次は、大貴に一緒に残業をしてくれるように頼んでみよう」

「残業?ですか???」

「そう」

 

・・・よくわからない。

 

「大貴は意外と親分肌なところがあるから、頼られると喜ぶはず」

「・・・はい」

 

・・・まだよくわからない。

 

「残業が終わった時に”今日はどうしても大貴と一緒にいたかったから、いてくれてうれしい”って言おう」

「おおおお!!」

 

そこに繋がるのか!

驚きすぎて野太い声出たよ(笑)

 

「残業は口実で、本当は大貴と一緒にいたかっただけ、だと!」

「そう」

「さすが師匠・・・」

 

すごすぎてため息が出る・・・

 

「出来そう?」

「ぐっ・・・頑張ってみます」

知念さんの言葉に私はそう言う。

 

・・・というか、そうとしか言えない(笑)

 

そんな私に知念さんは「頑張ってね」と笑顔で言うと立ち上がった。

私は慌てて立ち上がると、

「ありがとうございます!!」

と頭を下げる。

 

本当、知念師匠に弟子入り出来た私は大変幸せ者です!!!

 

私は改めて知念師匠への敬意をこめてお礼を述べていた。

 

 

「あ、そうだ。ここ、僕のお父さんのジムだから辞めないでね(笑)」

知念さんはそれにはおそらく気づかず、そんな事をおっしゃる。

「えっあ、はい!」

私はそれに出来るだけハキハキとそう答えた。

 

そういえば、入会するときに有岡くんがそんな事を言ってた気がする。

 

「ありがとう。行きましょうか」

知念さんは笑顔でそう言うと、ミーティングルームのドアを開けた。

 

 

 

 

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