妄想小説Walk2 エピソード29
「ねえ、髙木くん」
私はすでに運転席に座っている髙木くんの横顔に話しかける。
「ん?」
髙木くんは前を見たままでそう返事をした。
綺麗な横顔・・・。
髙木くんって、こんなに綺麗な横顔してたっけ・・・。
そんな事を思いながら私は
「ちょっと気になってる事があるんだけど、聞いてもいい?」
と問いかける。
「何?」
すると髙木くんはそう言ってこちらを見る。
う。
そんなにまっすぐに見つめられるとすごく聞きづらい・・・
「あの・・・・ですね。その・・・えっと・・・それがですね・・・その・・・・何と言うか・・・んー・・・・なんですかね・・・・」
なかなか言い出せず、ただの様子がおかしい人になってしまう私。
というか。
もしかしたら、改めて髙木くんに聞くような話ではなかったかもしれない、と思い直したけど、時、既に遅し。
私は思わず疑問を口に出してしまった自分を恨んだ。
「何だよ(笑) そんなに聞きづらい事あんの?(笑)」
そんな苦悶する私の姿を見て、髙木くんはそう言って楽しそうに笑う。
「非常に聞きづらいんです(笑)」
「そんなに?(笑)」
「うん(笑) 何なら口に出してしまったことを後悔しています(笑)」
「何それ(笑) 勝手じゃね?(笑)」
おっしゃるとおり(笑)
「勝手だよね(笑)」
「勝手だよ(笑) もう言ってくれないと気になるわ(笑)」
「だよね(笑)」
そりゃそうだ。
しょうがない。
頑張って聞こう。
「あの・・・”あの日”の事なんですけど・・・」
「”あの日”?」
「うん。休日出勤してた私に、髙木くんが差し入れにチョコを持ってきてくれた日・・・」
「ああ、”あの日”ね」
私の言葉を聞いて、髙木くんは”あの日”を理解してくれたようだ。
「うん。”あの日”なんですけど・・・あの・・・きっ・・・きっ」
「kiss?したよ」
「!!」
ごにょごにょと言う私の言いたいことを察してくれたのか、髙木くんは実にサラッとそう言う。
あまりにあっさり言われたので、私は衝撃的過ぎて言葉を失ってしまった。
「何?気づいてなかったの?」
そして、ごくごく普通にそう言われて焦ってしまう私(笑)
「いやっ・・・あの・・・はい・・・」
ごめんなさい気づいたのはつい最近です・・・
「は?マジで気づいてなかったんだ(笑)」
・・・何かごめん(笑)
「まあそんな余裕なかったもんなーあの時のお前」
「そう・・・なんだよね・・・あの日の記憶がほとんどなくて」
「そうなの?」
「うん。あの日の、というか、その前後の記憶も薄いの」
自分でも相当混乱してたんだろうなって思う。
いいことなのか悪いことなのかはわからないけど、私の脳は記憶を薄れさせることを選んだようだ。
「まあ、声が出なくなるほどだもんな・・・」
「声が出なくなる????」
「え、覚えてないの?」
「・・・はい・・・」
髙木くんと何かを話していたような気がするが、何を話していたのかは思い出せない。
「ごめん、どうやら記憶が薄いんじゃなくて、記憶がないみたいだわ(笑)」
「マジか(笑)」
「うん(笑)ごめん(笑)」
私の脳は思っている以上に容量が少ないらしい(笑)
「何があったか、知りたい?」
髙木くんがそう聞いてくる。
「うん」
髙木くんは無意味にkissしてくるような人じゃない。
きっと、何かがあったんだ。
だとしたら、その理由は何なのかを知りたくて、私は強くうなずいた。
「あの頃、まゆみさんはずっと無理して笑っててさ。すっげー辛そうに見えて」
・・・確かに、辛かった。
それは、覚えてる。
「俺に何か出来ねーかなって思ってつい、何かあったのかって聞いたんだよ」
「・・・うん」
「そしたら、まゆみさんは多分しゃべろうとしてるんだけど、口がパクパク動くだけで声が出てなくてさ」
「えっ」
・・・なにそのホラー。
「俺もうこいつ壊れた!って思ってさ(笑)」
「そりゃ思うね(笑)」
「思った(笑) だから、どうにかしなきゃって必死だった(笑)」
髙木くんは笑って話してくれてるけど、相当やばい状態だったんだろうな・・・
「何か衝撃的な事をすれば落ち着いて声が出せるようになるかもしれないって思って、俺、とっさにほっぺにkissしてた(笑)」
そっか。そこで、kiss・・・
「衝撃的な事をしたら落ち着くって、よく考えたら変だよな(笑)」
「え、そうかな」
「うん。まあ結果的に落ち着いたからよかったけど(笑)」
髙木くんは相変わらず笑って話してくれている。
・・・なんだろう。
なんというか。
髙木くんの笑顔を見ていたら。
私の中で、深い、大きい感謝の気持ちをはるかに超えた気持ちが湧き上がってきた。
これを言葉で表現するのが難しいのだけれど。
今後、私が髙木くんの為に何か出来るとするならば、全力でさせて頂こう。
私は、そう、心に誓った。
「髙木くん、本当、ありがとう」
とにかく、感謝の気持ちだけでも伝えなくては。
そう思った私は、そう言って深々と頭を下げる。
「何?急に(笑) またkissしてほしいの?もうしねーよ?(笑)」
そんな私を見て髙木くんはそうふざけて笑う。
「しなくていいよ!(笑)」
私はそうツッコんでから話を続ける。
「そうじゃなくてさ。髙木くんにはいつも助けてもらってるなって思って。本当、ありがとう」
「ま、親友だからな(笑) 俺がやべー時にはまゆみさんに助けてもらうし(笑)」
「もちろん!私でよければいつだって全力で!」
「頼りにしてるよ」
「まかせといて!」
髙木くんと私はそう言って笑いあった。
「じゃあ飯行くか!」
「お願いします!」
「おっけー」
髙木くんはそういうと、車を発進させる。
髙木くんに何かあったら、私が全力で助けるからね。
私は、改めて髙木くんの横顔にそう誓ったのだった。