妄想小説Walk2 エピソード28

今日、私はめずらしく髙木くんと2人で営業に出掛けている。

部長に命じられたからだ。

 

部長としては「昔を思い出して、八乙女と3人で営業に行ってこい!」と言いたかったようなのだが。

 

残念ながら八乙女くんには仕事が詰まっていて、どうしても抜けられない状態だった。

 

おそらく部長は半分やけっぱちで、「じゃあ2人で行ってこい!」と言い出したに違いない(笑)

 

 

 

 

「何か懐かしいな」

 

営業先の会社を出て車に向かう途中に、髙木くんがそんな事を言った。

 

「そうだね」

 

入社1年目の頃。

髙木くん、八乙女くん、私の3人で営業に回っていた時期があった。

きっと髙木くんはその頃の事を思い出したのであろう。

 

 

確かに、ちょっと懐かしい。

あの頃は右も左もわからない状態で、とにかく1社でも多く営業に回ろうと必死になっていた。

 

3人で仕事をするのも初めてで。

お互い探り探り仕事をしていたように思う。

 

 

 

懐かしいな・・・

また、八乙女くんと3人で営業に回ってみたいな。

 

 

 

 

そんな事を思っていたら。

 

「八乙女も一緒に行きたかったよな。久しぶりに」

 

髙木くんがそう言った。

 

「私も同じこと思ってた!!」

 

思わず興奮してしまう私(笑)

あまりにもタイミングがよかったから、テンションが上がってしまった(笑)

 

「だよな!思うよな!」

「うん。あれはあれで大変だったけど、すごくいい経験だったもんね」

「そうだな」

 

無茶ぶりに近い感覚に捉えていたけど、すごくいい経験だった。

 

 

「まあ部長のことだから、きっとまた気まぐれで「3人で営業行ってこい!」って言い出すだろ(笑)」

「確かに(笑) 言いそう(笑)」

 

髙木くんの言葉に私は思わず吹き出しつつも同意する。

私たちが、部長の気まぐれに振り回されるのも仕事のうちだ(笑)

 

 

 

「あーそろそろ飯食う?」

 

髙木くんが時計を見ながらそう言う。

 

「もうそんな時間?」

「うん」

 

早いなー。

いつのまにやらそんなに時間が経ってたんだ。

 

「じゃあ、食べよっか!」

 

私は明るくそう言う。

 

「何食いたい?」

「髙木くんのおすすめのもの!」

 

髙木くんのイケボでの問いに私が若干テンション上がってそう言った時。

 

「わっ」

 

私はうっかりつまずいてこけそうになってしまった。

 

「おっと」

 

そんな私をスマートに支えて、髙木くんはひとこと。

 

「大丈夫?」

 

”イケボの雄也”もびっくりのイケボ。

 

 

 

・・・イケメンかよ・・・

 

 

「うん。あーびっくりした」

「気を付けろよ」

「うん、ありがとう」

 

私がお礼を言うと、髙木くんは微笑んで車の運転席に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬、イケボにごまかされそうになったけど。

 

今。髙木くんの胸元で支えられた感覚。

どこかで味わったような・・・

 

 

 

 

・・・そうだ。あの日だ。

 

 

 

ほぼ、壊れかけていた私の事を髙木くんは心配してくれて、休日出勤していた私のところに来てくれた。

 

髙木くんの優しさは嬉しかったけど、私はそれどころじゃなくて。

 

あの日の記憶はうっすらとしか残っていない。

 

 

だけど。

その、うっすらとした記憶の中で、髙木くんに抱きしめられたような気がしていた。

 

そして。

頬に、柔らかい感触が・・・したような・・・

 

私は、その事が少し気になっていた。

 

 

 

あれは、もしかしたら・・・

髙木くんの唇だったのではないだろうか。

 

 

もしそうだとしたら、なぜ、そんな事になったのか。

私はその時の自分の記憶が曖昧すぎて、思い出せなかった。

 

 

それを確かめるとしたら、今なのかもしれない。

 

私はそんな事を思いつつ、車の助手席に乗り込んだ。

 

 

 

 

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