妄想小説Walk2 エピソード18

今日。

私は休日出勤をしている。

なるべく何も考えたくなかったからだ。

会社にいれば仕事の事だけ考えていられる、そう思った。

 

・・・が。

なかなかそうもいかなかった。

ふとした瞬間に色々思い出してしまう。

 

私はそれを必死で押し込めながら仕事をしていた。

そのせいか、仕事はなかなか進まない。

 

 

 

 

まぁ・・・早く終わっても困るからちょうどいいか・・・

 

 

 

 

そう思った時。

 

「やっぱりいた」

 

私以外、誰もいないはずの会社でそんな声が聞こえて、私は驚いて振り返る。

そこには髙木くんが笑顔で立っていた。

 

「髙木くん!どうしたの?」

「休日出勤してんだろうなーって思って来てみたら、やっぱりいた(笑)」

「さすが(笑)よくわかってるね(笑)」

「だろ?」

 

どうやら私の行動は全て髙木くんに読まれているようだ。

 

「はい、差し入れ」

 

髙木くんはそう言って私に紙袋を手渡す。

中には高級そうなチョコレートが入っていた。

 

「わ!おいしそう!ありがとう!」

「コーヒー飲む?」

「あ、うん、ありがとう」

 

髙木くんの言葉に私が頷くと、髙木くんは二人分のコーヒーを淹れてきてくれた。

何だか、至れり尽くせりだ。

 

「はい」

「ありがとう」

 

髙木くんから受け取ったコーヒーを一口飲む。

そして、チョコレートを食べる。

 

「おいしい!!」

 

髙木くんからもらったチョコレートはびっくりするほどおいしかった。

 

「それ、ちよこのおすすめのチョコだから」

「さすがチョコ好きのちよこさん!」

 

ちよこさんはチョコが大好きだって髙木くんから聞いている。

 

「全部食べていいから」

「え・・・あ、そっか。髙木くん甘いもの苦手なんだっけ」

「うん」

 

甘いもの苦手なのに、甘いもの好きの私の為にチョコレートを買ってきてくれるなんて。

本当、髙木くんの優しさには感謝しかない。

 

 

 

 

 

「大丈夫か?」

 

急に声のトーンが変わる髙木くん。

 

「・・・何が?」

 

きっと心配してくれてるんだろうなとは思うけれど。

正直、あまり触れて欲しくなくて、私はそらとぼけてみる。

 

「昨日。だいぶ混乱したんじゃねーか?」

 

 

 

昨日。

 

 

・・・昨日。

 

 

 

 

”昨日”というキーワードから引き出される

 

”山田さんの言葉”

 

 

”有岡くんの言葉。

 

 

私は脳内で二つの言葉が溢れてこないように封印させて笑顔を作る。

 

 

「・・・うん、でも、大丈夫」

 

 

大丈夫。

 

私は脳内でその言葉を繰り返していた。

 

大丈夫。

 

大丈夫。

 

 

 

「辛くない?」

 

髙木くんが言う。

 

「え・・・」

「無理して笑ってるよな」

「そんなことないよ」

 

そんなことない。

私は大丈夫。

 

私は、大丈夫。

 

 

「あ・・・そういえば昨日の資料どこにやったっけな」

 

私はふいに探していた資料があったことを思い出して立ち上がる。

 

山田さんの方の資料だったかもしれない。

 

そう思った私は、山田さんの机の上を見てみようと、山田さんの机の前に立った。

 

 

「お前・・・感情殺すのに慣れ過ぎ」

 

そんな私の背中に向かって髙木くんが静かに言う。

そして、言葉を続ける。

 

「休みの日まで仕事してないと壊れそうなんだろ?」

「・・・」

 

 

・・・そう・・・なのだろうか・・・

 

 

 

「何があったんだよ」

 

 

 

・・・何が・・・?

 

 

 

髙木くんにそう言われた途端。

私の中の何かが奥から激しく溢れだしそうになる。

 

 

 

 

!!!!!!やめて!!!!!!!!!

 

 

 

 

私はその”何か”が溢れださないように急いで心の扉を閉めて鍵をかける。

 

 

その結果。

 

 

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 

何も、言えなくなった。

 

 

 

 

言葉が出ない。

 

 

 

 

 

・・・動けない・・・

 

 

 

 

 

「・・・どうした?」

 

私の異変に気づいた髙木くんが私の顔をのぞきこんでそう言う。

 

「・・・」

 

しかし、私は、口は動かせても声が出ない。

 

 

 

 

 

 

・・・何・・・これ・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫」

 

髙木くんはそう言うと私を抱きしめ

 

「言わなくていい」

 

耳元でそうささやいた。

 

そして、頬に何か柔らかい感触を感じた

と思ったら

 

「何かあったら俺を頼れ。全部受け止めてやるから」

 

また、耳元でそんな声がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・あたたかい・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何だろう・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

髙木くんのぬくもりを感じていくたびに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しずつ、心がほぐれていくような

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして。

 

 

 

動かなかった体も

 

 

 

少しずつ動き始めた。

 

 

 

 

 

「・・・髙木くん・・・」

 

 

 

声も出始めた。

 

 

 

「ん?」

 

 

答えてくれる髙木くんの艶のある声。

私はそれに精一杯の感謝を込めて

 

「・・・ありがとう・・・」

 

と言う。

 

「大丈夫か?」

「・・・うん・・・」

 

髙木くんの心配そうな声に答えながら。

私は

 

このまま髙木くんに甘えちゃいけない

 

そう思っていた。

 

 

・・・ちゃんとしなきゃ・・・

 

 

「本当、ありがとう!何か、ごめんね!」

 

私はなるべく明るくそう言って髙木くんから離れ、髙木くんの目を見て言った。

 

「今度、ちゃんと話すから」

 

今は、何も言えそうもない。

でも。

心配してもらえてるってわかるから、髙木くんにはちゃんと話したい。

 

 

「言いたくなったら、でいい」

 

髙木くんはそう言い、言葉を続ける。

 

「無理に言わなくていいから」

 

 

本当、優しい・・・

 

 

「ありがとう。でも言いたいから今度聞いて(笑)」

 

髙木くんの優しさに感謝しつつ、私はそう言っておどけてみせる。

 

「いいよ(笑)いつでも受け止めてやる(笑)」

 

それに髙木くんも笑顔で答えてくれた。

 

「頼りにしてます」

 

本当に。

 

 

「じゃ、俺帰るわ」

 

髙木くんはそう言うと歩き出す。

私がその背中に「ありがとう」と言うと髙木くんは振り返って笑顔で手を振って去っていった。

 

 

 

 

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