妄想小説Walk2 エピソード17

誰もいないオフィスに電気を付けると私は自分のデスクに座る。

 

 

 

 

 

 

・・・ふぅ・・・・

 

 

 

 

 

 

自然とため息が出た。

 

例によって、仕事が残ってるなんて嘘だ。

出張の報告書は急がなくていいと言われてるから、今日は会社に資料を置いたらすぐ家に帰るつもりだった。

 

 

 

 

 

 

まさか、こんなことになるなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・ふぅ・・・・

 

 

 

私は再びため息をついて机にうつ伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

「俺の事、好きにさせてみせる」

 

山田さんの言葉と

 

「選ぶのはまゆみさんだしな・・・」

 

有岡くんの言葉が交互に浮かんでくる。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・

 

 

 

 

 

 

 

私はもう自分がどうしたいのか、わからなくなってきていた。

正確に言えば。

自分が、どうするのが正解なのか。

 

 

山田さんの気持ちと

有岡くんの気持ちと

私の気持ち。

 

 

それぞれを考え始めると、急に頭の中がぐっちゃぐちゃになってきて。

脳が思考を停止させようとする。

 

 

正直。

しばらく何も考えたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まゆみさん」

 

突然。

私は舌足らずな声で名前を呼ばれたので頭を起こして振り返る。

この舌足らずな声の主は1人しかいない。

 

「八乙女くん?」

「そう。八乙女。大丈夫?」

 

私がうつ伏せていたのを見たのだろう。

八乙女くんは心配そうにそう言ってくれた。

 

「あ、うん、ちょっと疲れちゃって(笑)」

「そうだよね」

 

私の言葉に八乙女くんはそう言って頷くと話を続ける。

 

「まだ混乱してるでしょ」

「・・・してる」

 

しないわけない。

 

「山田はまゆみさんの事が好きだったんだねー。そんな気はしてたけど」

「えっそうなの?」

「うん。してた」

「そうなんだ・・・」

 

八乙女くんの目から見てわかるぐらいだったんだ、山田さんの行動は。

そんなの、私は全然気付かなかった・・・

 

 

「いきなりあんな事言われたらびっくりするよね」

 

八乙女くんが笑顔を浮かべながらそう言う。

 

「うん・・・びっくりした」

 

まさか、山田さんに告白されるなんて。

 

「有岡も何かよくわかんない反応するし」

「そうなの!よくわかんないよね!?」

 

八乙女くんの言葉に思わず私の声も大きくなる。

 

「うん、わかんない(笑)あいつも多分混乱してる(笑)」

「・・・混乱・・・してるのかな・・・」

「するでしょ。突然”彼女奪います”宣言されるんだよ?」

「・・・そっか」

 

 

 

有岡くんが混乱してる

 

その言葉は私には何だかピンと来なかった。

 

 

「えっそう思ってなかったの?」

 

私の反応は八乙女くんにとっては意外だったようだ。

 

「んー・・・・」

 

私は少しだけ考えた後、言葉を続ける。

 

「ずっと、不安ではあるんだよね・・・」

「不安?何が?」

「有岡くんは私でいいのかなって」

 

 

有岡くんにとって、私の存在はなんなのか。

最近はそんな事ばかりが頭を駆け巡る。

 

 

「いいから付き合ってるんじゃないの?」

 

そんな私に八乙女くんは至極シンプルにそう言う。

 

「うん・・・そうだと思いたいけど・・・」

 

八乙女くんの言葉のように、シンプルに考えられたら、どんなに楽だろう。

 

「信じられないの?有岡のこと」

「ううん、そうじゃなくて!」

 

私は反射的に八乙女くんの言葉を否定する。

そして。

一旦息をはいてから話を続けた。

 

「多分・・・信じられないのは、有岡くんの事じゃなくて、自分の事なんだと思う」

 

有岡くんにふさわしい女に、私はまだなれないんだと思う。

 

 

 

 

 

「そっかー何かかわいそう」

「えっ」

 

思いもよらない言葉が八乙女くんの口から出てきて、私は少し戸惑った。

 

「俺が有岡だったら、今のまゆみさんの言葉聞いたら悲しいな」

「え・・・」

「まゆみさん。自分のこともっと信じてあげなよ。まゆみさんは、有岡が選んだ人なんだよ?」

「!」

 

 

 

思ってもみない発想だった。

 

確かに、本来ならそういう事なんだと思う。

でも。

最初はそうだったとしても、現状はどうなのかわからない。

 

私は、八乙女くんの言ってくれた、本来ならものすごく嬉しいはずの言葉を素直に受け取れずにいた。

 

 

「まゆみさんってさ。有岡と本音で話してる?」

「え・・・」

「話してないんじゃない?」

「・・・」

「俺には有岡にすごい気を使ってるように見える」

「・・・」

 

何も言えなかった。

 

本音でなんて話せない。

本音で話して嫌われるぐらいなら、私は、自分を殺してでも有岡くんと一緒にいたい。

 

 

 

「有岡は器の広い男だよ。だから、まゆみさんの気持ちはちゃんと受け止めてくれる」

「・・・」

 

そう・・・なのかもしれないけど・・・・

 

 

 

「ま、そう簡単にはいかないのかもね」

 

私の反応を見て八乙女くんはそう思ったようだ。

それに、私は「・・・うん」と答えるのが精一杯だった。

 

 

「まゆみさんはさ。優し過ぎるんだよね」

「えっ・・・」

「相手の事考えすぎて何も言えなくなっちゃうんじゃない?」

「・・・」

 

 

自分でもよくわからない。

ただ、自分で言葉を発することに対しての恐怖感はあるかもしれない。

 

今の幸せな時間が、自分の一言で壊れてしまうんじゃないかって。

 

最近はそんな気がして、自分の気持ちとかを話すことに抵抗がある。

 

 

「あ、そうだ」

 

私が考え込んでいると、ふいに八乙女くんがそんな声をあげた。

 

「俺、まゆみさんを誘いに来たんだった」

「誘いに?」

「うん。今から髙木と有岡と俺で飲みに行くんだけど、まゆみさんも来ない?」

 

髙木くんと有岡くんと八乙女くん・・・

 

普段なら二つ返事で「行く」という所だが、今はそうはいかなかった。

 

 

「あ・・・ごめんまだ仕事が残ってて」

 

私は八乙女くんに申し訳なさそうにそう言った。

今は、いつものように笑顔でみんなとお酒を飲める気がしない。

 

「だよね。わかった」

 

八乙女くんは相変わらず舌足らずな声でそう言うと

 

「邪魔してごめんね。また今度一緒に行こう」

 

と言って笑った。

 

「うん!ぜひ!」

 

八乙女くんは私の言葉に頷くと、笑顔で手を振って帰っていった。

 

 

 

 

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