妄想小説Walk2 エピソード15

今日は山田さんとの初出張当日!

だったのだが・・・

 

「ほんっっっっっっとごめん・・・」

 

私は今、山田さんに深々と頭を下げている。

 

 

説明会一日目が無事終わったのは山田さんのおかげでしかなかった。

私はサポート役のくせに失敗してしまい、全力で山田さんの足を引っ張ってしまう形になってしまったのだ。

 

だけど、山田さんはうろたえる事もなく、冷静にフォローしてくださった。

おかげで、大事に至らずに済んだ。

本当、感謝してもしきれない。

 

 

「そんなに何度も謝らなくても大丈夫だよ(笑)さ、飲も(笑)」

 

山田さんはそう言い、ビールを飲む。

それを見て私もビールを飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

山田さんと私は今、2人で居酒屋でご飯を食べている。

中打ち上げと言ったところだ。

 

「本当、山田さんのおかげで大事に至らずに済みました!本当、ありがとう!」

 

私は何度目かの感謝の言葉を山田さんに伝える。

何度言っても全然足りないぐらいだ。

 

「どういたしまして」

 

微笑む山田様は美しい。

むしろ、美しい以上の言葉を誰か私に教えてください。

 

 

 

「でも珍しいよね。まゆみさんが失敗するなんて」

 

ぐ・・・胸が痛い・・・

 

「明日は気を付けます・・・」

 

申し訳なさ過ぎてそうとしか言えない。

 

しかし、山田さんは

 

「大丈夫だって。失敗しても俺がフォローするし」

 

と美しく微笑む。

 

「うん、ありがとう。頼りにしてます」

 

私はそれに頭を下げつつそう言った。

 

 

 

 

 

 

・・・とはいえ。

内心は結構ショックだった。

こんなにわかりやすい大失敗をしたのは初めてで。

後輩にフォローさせてしまうような事になってしまったことが申し訳なさ過ぎて、何と言うか、心がはちきれそうだった。

 

明日までには気持ちを切り替えなきゃ

明日はミスしないようにしなきゃ

 

そんな風に思っていたせいか、私はそんなに飲んだつもりはなかったのに、気づいたらお酒が回ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まゆみさん。まっすぐ歩けてないみたいだけど大丈夫?」

 

ホテルまでの帰り道。

普通に歩いていたつもりだったがそんな事を言われてしまった。

 

「大丈夫大丈夫!」

 

そんなに言われるほど酔ってないし。

 

・・・と思っていたのに。

私は盛大にふらついてしまう。

 

「おっと!」

 

倒れそうになった私を山田さんが慌てて抱える。

 

「全然大丈夫じゃないじゃん」

「ごめん、本当、もう大丈夫」

 

山田さんの言葉に私はそういって山田さんから離れようとしたが

 

「いや。危ないから。気にすんなって」

 

山田さんはそう言って私を離そうとしなかった。

そして。

私の体を支えたままホテルの部屋まで送って下さったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「座れる?」

 

部屋に着くと。

山田さんはそう言って、頷いた私を優しく椅子に座らせる。

 

「ありがとう」

「ちょっと待ってて」

 

山田さんはそう言うと部屋を出て行った。

 

 

 

 

数分後。

コンコンっとドアをノックする音が聞こえたのでドアを開けると、そこには山田さんが立っていた。

手にはペットボトルのお水を2本持っている。

 

「はいこれ」

 

そのうちのひとつを差し出しながら山田さんはそう言う。

 

「えっ」

「お水。お酒飲み過ぎた時は水をたっぷり飲んだ方がいいから」

「え・・・」

 

わざわざ水を買いに行ってくれたの・・・?

私の為に・・・?

 

「ありがとう・・・」

 

私はそう言って差し出されたお水を受け取った。

 

山田さん、優しい・・・

 

「入っていい?」

「えっ・・あ、うん・・・」

 

山田さんは私の答えを聞くと部屋に入り、椅子に座った。

 

「あ!お金払う!」

 

その瞬間、私はお水を買ってきて頂いた事を思い出し、そう言う。

それに山田さんは「いいよ」と優しく微笑んだ。

 

「でも」

「いいって(笑)それよりほら!座って!一緒に水飲も」

 

・・・ずるい。美しい。

 

微笑む山田さんを見て私はそんな事を思いながら、山田さんの座っている椅子の向かい側にあるベットに腰掛けた。

 

「いただきます」

 

そして、ペットボトルのキャップを開けお水をゴクゴクと飲む。

 

「・・・おいしい・・・」

 

何だか体に染み渡る。

 

「うまいね」

 

山田さんも自分の手に持っていたお水を飲んでいた。

 

「俺も飲み過ぎたかな(笑)」

「そんなに飲んでたっけ?」

「いや、飲んでない(笑)」

 

山田さんは笑いながらそう言うと、言葉を続ける。

 

「でも俺も緊張してたから酒が回るの早かったのかも」

「え!?山田さん緊張してたの?」

 

その言葉に私は心底驚いた。

そんな風には思わなかったからだ。

 

「してたよ!心臓バクバクだかんね!?」

「全然見えなかった!すごい!」

「すごいでしょ?俺頑張ったもん!」

 

山田さんはそう言って胸を張る。

 

こういう所、すごく可愛いと思う。

何だかほっこりする。

 

私は穏やかな気持ちでお水を飲んだ・・・つもりだった。

が。

どうやら私は思いのほかペットボトルを傾けすぎてしまったようで、盛大にお水を胸元にこぼしてしまった。

 

「あーあ!何やってんの!」

 

山田さんはそう言いながらも部屋の中をキョロキョロと見まわし

 

「あった!」

 

とテーブルの上に置いてあったティッシュを箱ごと持ってくる。

そして、右手いっぱいにティッシュを出し、私がこぼしてしまった水を優しく拭いてくれた。

 

「ごめん・・・ありがとう・・・」

「冷たくない?大丈夫?」

「うん・・・」

 

優しい・・・

優し過ぎる・・・

私はこんなに優しくして頂けるほどの人間じゃない・・・

 

私は非常に強い自己嫌悪に陥った。

 

こんなにも山田さんに迷惑ばかりかけてしまって。

申し訳なさ過ぎて、消えてなくなりたかった。

 

「え、どうした?」

 

私が急に黙り込んでしまったせいか、山田さんはそう言って私の顔をのぞきこむ。

 

「・・・山田さんに迷惑かけてばかりで本当にごめん・・・明日はちゃんとするから!本当、ごめん・・・!」

 

自分が情けなさ過ぎて落ち込む・・・。

そして、ただただ謝ることしか出来ない。

 

「ごめん・・・」

 

私がそうつぶやいた時。

突然ふわっと優しい感覚をまとった山田さんに私は抱きしめられていた。

 

「え・・・」

「大丈夫!大丈夫だからもう謝らないで」

 

優しく、暖かい山田さんの声が耳元で聞こえる。

 

「人間なんだから、そんな日もあるよ」

「・・・」

 

 

山田さんのぬくもりが心地よかった。

美しいお顔からは想像できないような太い腕に包まれていると、落ち込んでいた気持ちが少しずつほぐれていくような感覚すら覚えた。

 

「あり・・・がとう・・・」

 

いつの間にか。体の力が抜けていた。

今日の失敗も終わったこと。

明日は明日でまた頑張ろう、そう思えた。

 

 

 

 

私たちはしばらくその姿勢のままでいた。

私は、動けなかった。

正直、心地よかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして。

山田さんがふわっと私から離れ。

両手で私の顔を優しく包み込むと。

 

トロンとした目をした美しい顔が近づいてきた。

 

「ちょっ!ちょっ!待って!待って!」

 

避けようとするのだが、両手で顔をホールドされてしまっている為動けず。

 

「山田さん!山田さん!落ち着いて!!ちょっと!!!」

 

私は慌てて必死で声を出すことしか出来なかった。

 

「え?」

 

そんな私の反応を見て山田さんはニヤッと笑う。

 

 

 

・・・間違いない。

遊ばれてる。

私が焦ってジタバタしてる姿を見て楽しんでるんだ。

 

 

 

「ちょっと!遊ばないで!」

 

私がそう言うと山田さんは一瞬動きを止める。

そして、また優しい、美しい表情に戻ると

 

「本気ならいいの?」

 

と言い、唇を近づけてきた。

 

「ちがっ!ちがっ!!もう!!!」

 

もはやまともに言葉が出ない私。

 

「ぶっ!」

 

そんな私を見て山田さんは堪えられなくなったのか吹き出した後、爆笑しながらやっと手を離してくれた。

 

「そういうとこ本当に可愛いよね」

「えっ・・・」

 

さすが元詐欺師。

ドキッとさせる言葉を知っている。

 

「あー面白かった!じゃ俺部屋に戻るわ」

「あ・・・うん・・・」

「また明日」

 

山田さんはそう言うと笑顔で部屋を出て行った。

 

「・・・うん、また明日」

 

 

 

 

 

 

 

・・・もう・・・。

 

 

 

 

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