妄想小説Walk2 エピソード1-2

混乱の朝から始まった一日が終わりを迎えようとしているとき。

一通のLINEが届いた。

みゆきちゃんからだ。

 

私は、先を歩く有岡くんに「ごめん、ちょっと待って」と言って立ち止まり、画面を開く。

 

 

”圭人がまゆみちゃんに話があるって言ってるんだけど、もし時間があったら会ってもらえないかな?”

 

 

・・・圭人くんが私に話・・・

 

 

何故だか、私は話の内容の察しがついたような気がした。

 

・・・どうしよう・・・

 

「どした?」

 

固まってしまっている私の様子を気遣い、有岡くんがそう言う。

 

「・・・うん・・・」

 

私は静かにLINEの画面を有岡くんに見せる。

 

 

このタイミングで圭人くんが私に話があるってことはきっと、山田さんの事だ。

何故だか私はそう思った。

そして。

私は圭人くんの話を聞くべきなのか悩んでしまっている。

 

 

「圭人がまゆみさんに話・・・?」

「山田さんの事なんじゃないかと思って・・・」

 

私がそう言うと有岡くんはハッとしたような顔をした。

 

・・・だよね。

驚くよね。

 

「有岡くん、私、圭人くんの話、聞くべきなのかな?」

 

自分じゃ決められなかった。

今日はあまりの驚きに朝から頭が混乱していて、未だにうまく使えない。

 

「聞こう。俺も行く」

 

そんな私に有岡くんは力強く、はっきりとそう言う。

 

「え?」

「俺も一緒に行くから。俺がいれば安心でしょ?」

 

有岡くんはそういうと、にこっと笑った。

 

「・・・うん!」

 

何が安心なのかはよくわからないけれど、私は嬉しくなってそううなずいた。

有岡くんが私の事を気遣ってくれることが嬉しかった。

 

「じゃ今から会いに行くって返信して」

「わかった」

 

私は有岡くんに言われるがままにみゆきちゃんに返信。

返事はすぐに帰ってきて、今から4人で会うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れのところ、お呼びだてしてまことに申し訳ありません・・・」

 

圭人くんの第一声はとっても堅苦しいものだった。

顔もガチガチに緊張している。

 

「まゆみちゃん、ごめんね。忙しいのに・・・。大ちゃんまで一緒に来てくれてありがとう」

「いいってことよ!圭人、話ってなんだよ?」

 

みゆきちゃんの言葉に、何故か胸を張ってそう言う有岡くん。

圭人くんが話があるって言ってた相手は私なはずなんだけど、すっかり自分のものにしてしまっている。

 

「あのね・・・山ちゃんの事話したくて・・・」

「やっぱそうか。」

 

最初からわかってましたよ感を醸し出してらっしゃいますけど、私が言った時にそれに気づきましたよね?有岡さん?

 

「大丈夫。言ってみろ」

 

私の気持ちをよそに、どっしりと構えて聞く姿勢をとる有岡くん。

 

やだ。カッコイイ。

 

 

 

「まゆみさん、山ちゃんが戻ってきたこと、良く思ってなかったりしますか?」

「えっ・・・」

 

急に話を振られて驚く私。

 

そっか。圭人くんが話があるって言ってたのは私だった。

有岡くんに気を取られて忘れてたよ・・・

 

「えっと・・・わかんないけど・・・混乱はしてるかな・・・」

 

正直、簡単には受け入れられない現状がある。

受け入れたい気持ちはあるけれど、この現状を受け入れていいのか。

私はどうするべきなのか。

すぐには答えられなかった。

 

「そうだよね・・・」

 

私の言葉に圭人くんは、一瞬下を向いてから話を続ける。

 

「実は山ちゃんに戻ってきてって言ったの、俺なの」

「・・・え?」

 

ちょっと言ってる意味が分からない。

 

「山ちゃん、まゆみさんがお金払うことになったの、すごく気にしてて。だったら山ちゃんが戻ってきて働きながらお金返せばいいじゃんって」

「・・・え?」

「強制的に戻ってきてもらったから、山ちゃんは悪くないの。山ちゃんもこんなことになってしまって、まゆみさんに合わせる顔がないって言ってたんだけど。俺が山ちゃんに戻ってきて欲しかったの。悪いのは山ちゃんじゃなくて、けいとなの」

 

唖然としている私に、圭人くんが矢継ぎ早に話す。

 

何だかよくわからないけど、「戻ってくる」っていう表現は違うんじゃないかって思う。

というか。

圭人くんが一体何を言いたいのか、私にはわからない・・・

 

「圭人、何言ってんの?」

 

困り果てている私の代わりに有岡くんがそう言ってくれる。

有岡くん、ありがとう。

 

「山ちゃんも被害者みたいな所があるみたいなのよ」

 

うまく説明できない圭人くんの代わりにどうやらみゆきちゃんが説明してくれるようだ。

 

「被害者?」

「うん。山ちゃんがあんなことしてたのは当時山ちゃんが勤めてた会社の社長さんに言われたからだったみたいで。その社長さんには恩があったから、断れなかったみたい。でも、社長さんは山ちゃんを裏切って、お金を持ち逃げした。」

「その時初めて騙されてた事を知ったんだよ山ちゃんは。辛かっただろうな・・・」

 

みゆきちゃんの隣で説明を聞きながら目をウルウルさせている圭人くん。

 

「山ちゃんが辛いと圭人も辛いんだよね?」

「うん・・・」

 

みゆきちゃんの言葉にうなずく圭人くんは更に目をウルウルさせている。

そんな圭人くんの頭をみゆきちゃんはよしよししてあげている。

 

 

・・・。

 

 

何かよくわからないけど、とにかく山田さんは悪くないって言いたいみたいだ。

ねえ、有岡くん。よくわからないけど、これは話を進めてもいいのかな?

 

私は思わず有岡くんを見る。

すると、有岡くんも私の方を見ていた。

どうやら気持ちは同じなようだ。

 

私たちは目を合わせて同時にうなずいた。

 

「その・・・騙されてた山田さんがうちの会社に入る事になったいきさつを圭人くんは知ってるの?」

「うん。けいとがおじいちゃんにお願いして山ちゃんを雇ってもらった」

「おじいちゃん?」

「うん。けいとのおじいちゃん、まゆみさんの会社の社長さんだから」

「ええ!?」

 

圭人くんの予想外の言葉に驚きすぎた有岡くんと私の絶叫が響く。

 

「えっちょっと待って。圭人のお父さんは清掃会社の社長さんだよな?」

「うん」

「圭人のお父さんのお父さんがうちの社長ってこと?」

「ううん。けいとのお母さんのお父さんが大ちゃんの会社の社長さんだよ」

「ええ?・・・ああ・・・・そっちか・・・・」

 

有岡くんは混乱していたようだが、どうやら理解できたようだ。

 

なるほど。

社長が絡んでるなら山田さんがうちの会社に入社して来ることに反対する社員はいないわけだ。

 

「山ちゃんイケメンだし、優しいし、いい人だし。会社にとって損になることはないよって一生懸命おじいちゃんを説得して、嫌がる山ちゃんに無理やり戻ってきてもらったの。山ちゃん嫌がってたけど、けいとが無理やり戻ってきてもらったの」

 

一生懸命話す圭人くん。

 

「山田さん、そんな事全然言ってなかった・・・」

 

今日は山田さんとお話することはほとんどなかったけど、圭人くんの名前は一切聞いてない。

 

「山ちゃん・・・!」

 

圭人くんの目からとうとう涙がこぼれ落ちる。

 

「山ちゃん優しいから自分が悪者になってくれたんだ・・・!違うんだよ!悪いのはけいとなの!けいとは、山ちゃんが本当はいい人なんだってみんなにわかってほしい!」

 

圭人くんが泣きながら訴える。

その涙をみゆきちゃんが拭いてあげている。

 

 

・・・確かに、山田さんはすごく優しかった。

好きになってしまうほどに。

あの優しさが本物なのだとしたら、ものすごくいい人なんだと思う。

 

 

「圭人!わかったからもう泣くな!俺も山田を受け入れるから!山田はいい人なんだよな!」

「うん。大ちゃん、ありがとう」

 

 

有岡くん・・・すごい。

さすがの包容力。

私はまだ、混乱から抜け出せない。

でも。

有岡くんのように、受け入れたい、と、思う。

時間はかかると思うけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫?」

 

帰り道。

2人きりになったら有岡くんがそう聞いてきた。

 

「・・・うん、大丈夫」

「本当?」

「・・・うん」

「そうだよなー大丈夫じゃないよなー。混乱するよなー。」

「・・・うん」

 

・・・わかってくれるんだ。有岡くん・・・

 

「俺がいるから。心配すんなって!」

「有岡くん・・・」

 

有岡くんのその優しさに、その笑顔に、どれだけ励まされてきた事か。

本当に、本当に感謝しかない。

 

「ありがとう」

 

大好きです。

 

「惚れ直した?」

「えっ」

 

急にそんな事言われても困る・・・

見透かされてるみたいで・・・

 

「惚れ直したでしょ?」

「えっ」

「惚れ直した顔してるよ」

「え!?」

 

私は思わず両手で顔を覆う。

その途端に有岡くんが私の頭を全力でぐしゃぐしゃにする。

そして。

 

「そういうとこが可愛いんだよな」

 

と全開の笑顔を見せてくれる。

 

「・・・」

 

有岡くんには本当、振り回されてばかりだ。

でも。

そういう有岡くんが大好きだ。

 

 

そんなことを思いながら私は、満足げに先を歩く有岡くんの後ろを小走りでついて行ったのだった。

 

 

 

 

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