妄想小説Walk2 エピソード1-1

「今日から一緒に働いてもらう、山田くんだ」

「よろしくお願いします」

 

始業前にみんなを集めた部長が新入社員を紹介した。

が。

多分、私を含めたほぼ全員が唖然としていた。

 

スーツ姿で堂々と挨拶をした彼は、紛れもなく、あの、山田涼介さんだったのだ。

 

 

「・・・・」

 

 

その場の空気が固まる。

みんな、どうしていいのか、わからないんだと思う。

そんな中。

 

「有岡!教育係はお前だからな」

 

部長がニヤニヤしながらそう言った。

 

「ええ!?」

 

驚いてる有岡くんを見て、部長は満足げにうなずくと、何故か私の方を見てニヤッとする。

 

 

・・・楽しんでる。

部長は間違いなくこの状況を楽しんでる。

 

「頼んだぞ!」

 

部長はそう言って有岡くんの肩をポンっとたたくと、口笛を吹きながら去っていった。

 

 

 

 

 

・・・そう言えば。

先日部長に「今度新人入るからよろしくな」って言われた時に、異常にニヤついてる気がしてたんだけど。

こういうことか。

気のせいじゃなかったんだ。

 

 

「おい。大丈夫か?」

 

髙木くんが聞いてくる。

 

「うん・・・私は、まあ。」

「大丈夫じゃないのは有岡の方か」

 

そう。

多分、髙木くんの言う通り。

さっきから混乱しすぎているのか、有岡くんの目はずっと泳いだままだ。

 

 

「山田。ちょっといい?」

 

そんな状況を見たからなのか、髙木くんが山田さんを会議室へと促す。

 

「はい」

 

山田さんもこれを予測していたのか、ゆっくりと会議室へ向かう。

その後姿を見て髙木くんは

 

「有岡、八乙女。まゆみさんも。」

 

と言い、歩き出す。

 

 

思わず有岡くんを見ると、有岡くんもこちらを見ていたようで目が合った。

 

「大丈夫?」

 

心配そうな目で私を見る有岡くん。

 

「うん。大丈夫。行こう」

「うん」

 

私たちはそういってうなずくと、既に歩き出している八乙女くんの後を追って歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?これはどういうこと?」

 

5人全員が会議室に入り、ドアを閉めた所で髙木くんが山田さんにそう問いかけた。

 

「・・・俺がここの社員になるって事ですか?」

「そう。ありえないと思うんだけど」

 

髙木くんがはっきりと言う。

それに山田さんは

 

「俺もそう思います。でも。」

 

と言った後。

 

「返したかったんです。お金。」

 

髙木くんの目をまっすぐ見つめながら、はっきりとそう続けた。

 

「でも、わざわざうちの社員にならなくてもお金は返せると思うけど」

「・・・」

 

八乙女くんの疑問には山田さんは答えず。

私の方を見て

 

「俺がだました500万。まゆみさんが会社に払ってるんでしょ?」

 

と言う。

 

「えっ・・・あ、うん・・・」

「これからは俺が払うし、今までの分もちゃんと返すから」

「・・・」

 

山田さんの言葉に、私は何も返すことが出来なかった。

 

信じていいのか、わからない。

信じたい気持ちはあるんだけど、信じていいのかどうか・・・

 

でも、一つだけ。

これだけは言わないと。

 

「お金は、別にいいよ。返さなくても」

「いや。返すから」

 

私の言葉を一切受け入れない山田さん。

でも・・・

 

「本当に、お金の事は、どうでもいいの。お金の、事は・・・」

 

私はこれ以上何て言っていいのかわからずに黙り込む。

それに山田さんは

 

「・・・ごめん。色々辛かったよね。本当ごめん。その、エゴかもしれないけど、返したいんだよ。まゆみさんに」

 

さっき髙木くんを見つめていたのと同じようにまっすぐなまなざしで私を見つめ、言う。

 

「・・・」

 

 

・・・ずるい。

その目は本当にずるい。

そんな目で見つめられたら、やっぱり信じたくなってしまう。

 

あの、優しかった山田さんが、本当の山田さんだと、信じたい・・・

 

 

 

「山田」

「はい」

 

髙木くんの呼びかけに答える山田さん。

 

「ひとつだけ、約束してほしい」

「・・・なんですか?」

「もう二度と、仲間を傷つけないでくれ」

 

髙木くんの言葉にドキッとした。

あの時の気持ちが少しだけよみがえったような気がして、全身に緊張が走る。

 

「もしお前が仲間を傷つけたら、俺が許さねーから」

「・・・はい」

 

山田さんはそう言ってうなずいた。

相変わらず、まっすぐに髙木くんを見つめるそのまなざしは、髙木くんの言葉をしっかり噛みしめているようにも見える。

 

私は、そんな山田さんのまなざしを信じたい、そう思った。

信じられるのかはわからないけれど。

 

 

 

 

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