妄想小説Walk第99話

圭人くんに教えられたお店は、全て個室になっている、とてもおしゃれなお店だった。

私はドキドキしながら、教えられた部屋のドアを開ける。

 

「・・・!」

 

そこには今まで見たことのないチャラい服装の山田さんがいた。

 

「久しぶり」

 

相変わらずの美しい顔で山田さんはそう言う。

 

「久しぶり」

 

私は、久しぶりに聞く山田さんの声にドキドキしながらもそう答え、それをごまかすために笑いながら

 

「何かいつもと違う服装してる」

 

と言った。

 

「いや、こっちがいつもの服装なんだよ(笑) 俺、あんなさわやかな男じゃないから(笑)」

「そっか(笑) こっちが本当の山田さんなんだ(笑)」

「うん」

 

おちゃらけた私に合わせるように山田さんは笑う。

 

本当の山田さんは、こんな感じ、って事なのか・・・

 

そんな事を考えていたら。

山田さんが急に真面目な顔をして、「まゆみさん」と私の名前を呼ぶと、私の目をまっすぐ見つめて

 

「だましてごめんね。本当、ごめん。」

 

と頭を下げた。

 

私は、それに何と答えればいいのかわからず、一瞬黙り込んでしまう。

 

「謝って許されることじゃないってわかってる。でも、まゆみさんには謝りたかった。」

「・・・」

「・・・勝手だよね。ごめん」

 

私の様子を見て山田さんは何かを感じたのかそう言って下を向く。

でも、私はそれに何と答えればいいのかがやっぱりわからない。

 

ただひとつ。

気になるのは。

 

「何で・・・謝ろうと思ったの・・・?」

 

私がそう言うと山田さんは一瞬驚いたような顔をした後でじっくりと考え込み、ボソッと小声でつぶやいた。

 

「何でだろう・・・まゆみさんは今までの女とは違ってたからかな・・・」

「え・・・」

「彼の事。一途に想ってたでしょ?」

「・・・有岡くん・・・?」

「うん」

 

山田さんの口から急に有岡くんの名前が出てきて私は何故だか動揺してしまう。

そして。

 

「私、一途なんかじゃないよ!有岡くんの事も忘れられなかったけど、山田さんの事だって・・・」

 

「一途」と言われたことに対する罪悪感で言わなくてもいい事を口走ってしまう。

 

「いや、ごめん、何でもない!とにかく私は一途って言われるようなそんな立派な人間じゃないの!本当にブレブレでどうしようもない人間で!・・・って。ごめん。どうでもいい話しちゃった」

 

慌てて修正しようとしたけど、全然修正出来ない・・・

自分が本当情けなくてため息が出る。

 

「・・・ありがとう」

 

そんな私に山田さんはものすごく優しい声でそうつぶやいた。

かと思ったら。

 

「そっかー!俺の事好きだったんだ!惜しかったなー!」

 

山田さんがおちゃらけて見せるので

 

「惜しかったね!」

 

私もそれに合わせておちゃらけてみる。

 

 

「でも、付き合う前にバレてよかったよ。俺、あんな男じゃねーし」

「そうなの?」

「そうだよ。まゆみさんの好みに合わせたんだよ。全部・・・嘘」

「全部、嘘?」

「・・・うん」

「私の事を好きだって言ってくれたのも・・・?」

「・・・うん」

「そうなんだ」

 

山田さんが私の前から姿を消した時から、そうなのかもしれない、とは思っていたつもりだった。

でも、はっきり言われると、やっぱり胸がズキンと痛む。

 

だけど、はっきり言ってもらえる方が、私は、いい。

 

「今まで俺ね。簡単に騙せそうな女ばかり騙してたから、まゆみさんみたいな手強そうな人を騙してみたかった。それが今後の自信に繋がるって思ってた。」

「・・・うん」

 

褒められるような話ではない。

でも、興味深い話だ。

 

「でもやっぱり手強かったな。初めてだよ。俺に抱かれなかった人は」

 

でしょうね。

山田さんはとても魅力的な方だもの。

 

「何か月も前から計画して綿密に周りを固めて、もう行けるだろうって思ったのに」

「・・・周りを固めて・・・?」

「彼の元カノ?あいつも俺が雇ったんだ」

「え!?」

 

思いもよらない話だった。

 

「病気のふりして近づけさせて誘惑させれば堕ちると思った。そしたらまゆみさんも簡単に俺に堕ちるだろうって」

「病気のふり・・・?彼女は病気じゃないってこと・・・?」

「病気じゃないし、彼の事も何とも思ってないよ」

 

彼女、病気じゃなかったんだ・・・

よかった・・・

 

「ついでに言うと、彼はとっても紳士だったらしいよ」

「・・・紳士?」

「どんな誘惑にも乗ってこない。手を繋ぐことぐらいしかしてくれないって言ってたから。彼はあいつと壁を作って接してた」

 

有岡くん・・・

 

「有岡くんは一生懸命彼女の病気と向き合ってたんだよ。早く病気を治してほしいって、そう思って・・・」

 

そこまで口にして、何だかものすごく切ない気持ちに襲われた。

それだけを言うのが精一杯だった。

それ以上、何て言えばいいのかわからなかった。

 

「・・・彼は本当にいい人だな」

「・・・」

「あいつも、もう大貴を騙すのは嫌だって言ってた」

「・・・」

「あいつは、もう二度と彼の前には姿を現さない」

「・・・」

「だから、安心して彼の元へ帰れ」

 

山田さんは優しい声でそう言い、優しく微笑んだ。

 

「・・・!」

 

山田さんは全てが嘘だって言ったけど。

こういう優しい所は嘘じゃない。

 

心の奥底の、芯の部分には私の知ってる、あの、優しい山田さんがいる。

そんな気がした。

 

「・・・ありがとう。そうする」

 

帰るっていう表現が正しいのかはわからないけど、私は、純粋に有岡くんだけが好きな自分に帰ろう、そう思った。

 

「山田さんももうこれ以上人を騙さないでほしい」

「えっ」

「山田さんは本当はとっても優しくて素敵な人だから。そんな事するのはもったいないよ。」

 

私がそう言うと、山田さんは心底驚いたような顔をした。

しかしすぐに笑いだし「俺そんな男じゃないけどな」と言いつつも、「ありがとう」と優しく微笑む。

そして、続ける。

 

「俺も、もう二度と詐欺はしない。」

「うん」

「まゆみさんに会えてよかったよ」

「私も。私も山田さんに会えてよかった」

 

山田さんがいなかったら、こんなにも有岡くんの事が好きだって気づかなかったかもしれない。

 

「じゃあ・・・俺行くわ」

「・・・うん」

「元気でね」

「山田さんも」

「ありがとう」

 

私たちはそう言うとお互いに笑いあう。

そして、山田さんは部屋を出て行った。

 

 

 

 

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