妄想小説Walk第80話

仕事終わり。

まっすぐ家に帰る気にならなくて、私は久々に海に来ていた。

頭を空っぽにするにはやっぱりここでボーっとするのが一番な気がしたのだ。

 

 

私は昼間、有岡くんが言った言葉が何となく気になっていた。

 

 

 

 

「子ども扱いするなよ」と言った有岡くん。

「俺だって男だよ?」と言った有岡くん。

 

 

 

 

 

 

 

・・・どういう意味なんだろう・・・

有岡くんはどうしたいんだろう・・・

 

 

 

 

 

 

 

今の有岡くんのそばにはあの子がいる。

だから、私は有岡くんの事、諦めた方がいいんだと思う。

きっと、有岡くんの言葉には特に意味はないんだと思う。

 

でも。

 

・・・気になる。

と、いうか、期待してしまう。

私の期待している意味が含まれていたら、どんなにいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まゆみさん・・・?」

 

そんなことを考えていたら、私の心をかき乱す張本人の声がして、びっくりして振り返ると、そこには私と同じように驚いた顔をしている有岡くんが立っていた。

 

「有岡くん・・・!?」

「ここに来たら会えるような気がして来てみたら・・・本当にいた・・・」

「えっ・・・」

 

私に会いたいと思ってくれたの・・・?

 

「隣。座っていい?」

 

そう聞かれ、私が驚きつつも「うん」と言うと、有岡くんは私の隣に腰を下ろした。

そして、黙って海を見つめている。

 

 

 

・・・有岡くんにも、何か思う事があるのかな・・・

 

 

 

私がそう思いながら、有岡くんと同じように海の方に顔を向けた時。

有岡くんは私の肩におでこをつけて

 

「俺、間違ってんのかなぁ・・・」

 

と力なくつぶやいた。

下を向いているので顔は見えないけれど、いつもの明るく元気な有岡くんとはかけ離れた姿だ。

 

 

「・・・何かあった?」

 

心配になった私は思わずそう聞いてしまう。

 

「・・・」

 

それに有岡くんは少しの間考えていたようだが、やがて口を開き

 

「俺がやってる事って・・・誰も幸せにならない気がしてさ・・・」

 

相変わらず力なくそうつぶやく。

 

「そうなの・・・?」

「・・・うん・・・そんな気がしてきた・・・」

 

有岡くんはそう言ったっきり何もしゃべらない。

 

 

 

 

 

 

 

「話してスッキリすることなら聞くよ?」

 

 

私で良ければ、いつだって有岡くんの力になりたい。

いつだったか、私はそう有岡くんに告げた気がする。

その気持ちは今でも変わっていない。

 

 

しかし。

 

 

「話したいんだけど・・・今は・・・まだ・・・言えない・・・」

 

有岡くんは、一言一言を、ポツリ、ポツリと言う。

 

「・・・そっか・・・」

 

 

私は有岡くんの力になれないのかな・・・

 

 

私がそう思った時。

 

 

「でも・・・」

 

有岡くんの口から言葉が出てきた。

 

「ごめん・・・ちょっとだけ・・・このまま甘えさせて」

「・・・うん」

 

有岡くんはそう言ったきり何も言わず、私の肩におでこを乗せたまましばらく動かなかった。

 

 

 

 

もしかしたら、有岡くんが抱えている事って重いのかもしれない。

この頭の重みみたいに。

その重さを、一瞬でも軽くすることが出来るのなら本望だ。

 

そして、甘えたい、と思ってくれた相手が、私だった。

それが、私の中で消せない気持ちと同じ気持ちじゃなかったとしても・・・嬉しかった。

 

振り回されてるのかもしれないけど・・・嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう」

 

しばらくして。

有岡くんはパッと顔を上げるとそう言った。

 

「大丈夫?」

「うん。おかげでちょっと気が紛れた」

「そっか!よかった!」

 

ちょっとでも気が紛れたのなら、本当よかった。

 

「まゆみさん」

「ん?」

「本当ありがとう」

「ううん」

 

ちょっとでも、力になれたのなら、それでいい。

 

「じゃあ、また」

 

有岡くんはそう言うと立ち上がる。

 

「有岡くん!」

 

そんな有岡くんを私は思わず引き留めてしまう。

そして。

 

「私はいつだって有岡くんの力になりたいと思ってるからね!」

 

どうしても、そう伝えたかった。

 

「・・・!」

 

有岡くんは驚いたようだったがやがて力なく微笑み

 

「・・・ありがとう」

 

とつぶやいて去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・重かったかな・・・・

 

 

 

 

 

でも、有岡くんが何だか「孤独」を抱えているように見えて。

「私は味方だよ」って言いたくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

有岡くんは今、何を考えているんだろう・・・

私はいつかその答えを聞ける日が来るんだろうか・・・?

 

 

 

 

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